物語【魔界の扉編】
affirmation work Z
街へ出ると、まだ早朝だというのに動き出している人々の目に付かない様、飛影は増々スピードを上げた。
結果、直ぐにオレの家に到着した。
本当は、飛影のスピードによって流れる景色を楽しめば良かったのだけれど、離れたくない気持ちが先立って、飛影の横顔ばかり見詰め続けた。
飛影はオレの視線に気付いているのだろうけれど、特に何も言わず、前だけを見て駆け続けた。
「着いたぞ。」
飛影はオレを抱えたまま部屋の前の桜の木に降り立つと、オレを静かに立たせた。
「…っ」
己の足で立ってみて、初めて未だ力が入らない事を知った。
気を抜けば座り込んでしまいそうな程に。
飛影は窓を開け一足先に部屋に入ると、オレの手を引き、オレを支える様にして部屋に入れてくれた。
「…母親の気配が無いな。」
そう言いながら、オレをベッドに寝かす。
「親戚の家に一週間程滞在してもらってます。」
「仕組んだのか。」
「えぇ、どれ位で帰って来れるかも見当付きませんでしたから。」
「そうか。」
そう言ってオレの頭を撫で、飛影が身を翻す。
行ってしまう―…
そう思った時には、飛影の袖を掴んでいて。
「飛影、少し一緒に休みませんか…?」
そう、飛影に問い掛けていた。
オレの台詞を聞いて、飛影の目がスッと細められた。
何か…気に障る事でも言ってしまったんだろうか。
女々し過ぎて、呆れたのだろうか…
少しの沈黙の後、飛影が口を開いた。
「…また襲っても知らんぞ…」
「なっ!……いっ…いいですよ、別に!今直ぐでなければ!!」
「……」
オレがそう返すと思わなかったのだろう。
それはそうだ。
オレだって何を口走ったかと思う。
けれど、それ程貴方と共に居たいのは確かで…
飛影は驚いて目を見開いて数秒固まった後、ついに笑い出した。
「…クッ…それで移動中ずっと犬みたいな顔をしていたのか。」
「いっ…犬…?!」
上半身を起こして抗議する。
本当…我ながら酷い言われ様だ…
飛影はオレの抗議を綺麗に無視して、マントと上着を脱いだ。
逞しい、それでいて綺麗な半身を目の当たりにして、顔が紅くなってからかわれるのを避ける為に、顔を反らした。
ギッ…
ベッドが軋む音がした。
オレが視線を外している少しの間に、飛影がベッドに入って来た証拠。
それに合わせて、オレも起こした半身を再びベッドに沈めた。
まだ共に居られる…
どんなに酷い言われ様をされても、喜びが込み上げた。
と思えば、飛影の手がオレの服に掛かる。
「ちょ…飛影?!直ぐには無理だって…」
「そういう意味じゃ無い。」
「じゃどういう…」
「お前の体温を感じたいだけだが。」
「…っ」
恥ずかしい台詞をさらりと言う。
オレの抵抗した時の台詞も、後々ならまた抱かれてもいいという台詞で、恥ずかしさが増した。
「服も汚れているしな…」
「貴方だって!貴方はどうして上半身だけなのに、オレは全身…は…裸なんです…?!」
話しているうちに、器用に脱がされオレは既に何も身に付けていない状態…
本当に妖狐の名が聞いて呆れる…
「何者かが襲撃して来たら困るだろうが…」
「オレだって同じです!!」
「お前は布団に包まって丸くなってればいい。犬みたいに。」
「何て事言うんです?!」
至極上機嫌…楽しそうに言う、直ぐそこに在る飛影の顔を睨む。
己の顔が紅くなってない事を祈りながら。
「…本当にキャンキャン喚く…犬みたいだぞ。」
「飛影!!」
飛影が手を伸ばして、オレを抱え込んでしまった。
“黙れ”とも取れる行為。
けれど、貴方の体温が嬉しくて、本当にオレは静かになってしまった。
貴方の思うツボ…
妖狐として、本当に情けないですけれど…ね。
死を覚悟した闘い。
自ずと貴方との別れも覚悟した。
その後の再確認出来た貴方の温もり。
あまり見る事が出来ない貴方の表情。
思い掛けずくれた、言葉―…
自然に頭を駆け巡った。
贅沢だな―…
飛影の腕の中で、飛影の事を考えられるなんて…
そんな事を思っていたら、徐々に眠気に襲われ始めた。
やはり、疲れは否めないか…
そうだ、オレ、ここまで連れて来てくれた事の御礼を伝えていない…
眠りに身を預けようとした瞬間に思い出された。
飛影の顔を見ながら伝えたくて、抱き締めてくれる腕を緩めてもらおうと身動く。
「ん…」
肌を擦った飛影の腕がくすぐったい。
「…おい。煽る気か…」
顔を上げると、飛影が目を細めて軽くオレを睨む。
「…っ、そんな訳無いでしょう!」
「冗談だ。大人しく寝ろ。」
そう言って飛影は再びオレを仕舞い込んだ。
本当…オレ、犬みたい…
飛影の言動に、泣いたり喚いたり縋ったり…
情けない…
けれど。
諦めた。
この人に敵う訳が無いのだから。
だったら、負けを認めて素直に縋ろう。
今だけでも…
いつまで続くか分からないから。
そう思って、飛影の腰に腕を絡めた―…
([へ続く…)
★あとがき★
二人、いちゃいちゃしてます(笑)
飛影すっごく上機嫌だし、蔵馬は素直になったり捻くれたり素直になったり…忙しいです(笑)
意地っ張りなウチの二人…(特に蔵馬)、少しずつ少しずつ距離を縮めていってくれたら、と思います。
優しい管理人に感謝しなさい(笑)
お読み下さって有難うございました^^
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