第2夜 休暇命令 ◎ ── 黒の教団本部 室長室 ── 「はぁぁぁあ休暇取れだぁ!?冗談じゃねェ!」 言われた言葉に俺は思いっきり怒鳴った。 「大丈夫だって言ってんだろ!」 「帰ってきて早々気絶したのはどこの誰だったかな篠神君」 眼鏡を指で押し上げて俺を見るのは黒の教団の我らが室長コムイ・リー。その問に俺は目線を逸らすしかなかった。 神田と任務から帰ってくるまでは良かった。が、帰還報告のために来た室長室前で意識がぶっ飛んだらしく気がつくとソファに寝かされ点滴を射たれており現在にいたる。 「べ、別に今回は吐血もしてねェし、頭痛もしねェし、寝込んでたのもほんのちょっとだから大丈夫だって。毎回、毎回倒れただけで大袈裟すぎんだよ!いい加減慣れろよ、倒れんのは昔からだって言ってんだろ!」 「あのね篠神君。僕がきみのデータに目を通してないとでも思ってるの?」 「ぐっ…」 「頻繁に倒れる回数や体調不良の回数が最近は昔に比べると倍近くなっているよね」 「……し、シラネ」 「きみも貴重なエクソシストの一人なんだから、限界超える前に休んでもらわないと」 「俺の体なんてとっくの昔に限界なんて超えてんだよ」 「何言っても駄目だって言ったら駄目だよ篠神君。きみに任務中に倒れられたら堪らないからね」 コムイにビシッと俺を指される。コムイが言ってる事は間違いではないので言葉に詰まる。が、ココで退くわけにも行かねェし。 「どうしてもか?」 「どうしても」 「強行したら?」 「婦長がベッドに縛り付けましょうって」 「大人しく休暇したら?」 「無理しない程度なら歩き回ったり、鍛錬できるよう婦長に僕から話をつけてあげる」 「ちっ……わーったよ。休めばいいんだろ、休めば」 ベッドに縛り付けるなんて所業は流石にやらないって言い返してやりてェところだが、相手が現婦長と言われると流石に俺でも口を閉じざるおえない。病人を治すためなら婦長ならやりかねないことを身に染みている俺はコムイの条件にしぶしぶ承諾した。 そのときノックが聞こえ入ってきたのはあいかわらずしかめっ面の神田だった。どうやら報告書を出しに来たらしい。 「目覚めたか」 「おぅ」 「大見得切ってたくせに倒れるなんて実にアホ神らしいな」 「るせェよバ神田」 「いっとき大人しくしてろ」 「任務ねェと暇だろ…」 「おい、コムイ。ベッドに縛り付けておかねーとこいつ逃げんぞ」 「その時は強制入院で休暇引き伸ばしだよ」 「げぇ…余計なこというんじゃねェよバ神田」 「はっ、自業自得だろ」 「テメェ」 効果音にバチバチと火花が飛び散りそうなくらいに神田と睨み合う。その様子を見ていたコムイは一言。 「君たちも毎回そんなに喧嘩していてよく飽きないね」 「「うるせェ」」 俺と神田は息ピッタリに言い返すと飽きれたようにコムイはため息をついた。 「大体今日の任務もテメェは出過ぎなんだよ!一応コンビを組んで任務やってるからには、単独行動はやめろって言ってんだろバ神田!」 「ついて来れねぇなら足手まといなだけだろ」 「テメェだけで任務やってんじゃねェんだよ!少しくらい合わせろぼっち人間!」 「ガミガミうるせーんだよ、てめーはジジイかよ」 最後の一言に俺の中のなにかかブチンとキレた。反射的に手を人形<ドール>にかざした。 「人形<ドール>!」 「ちっ…!六幻!」 お互いにイノセンスを手に取り発動させようとした瞬間だった。パコッという可愛らしい効果音が神田の頭の上で鳴り、続けて俺にも同じ音と同時に頭に軽い衝撃が走る。 「「!?」」 「もう二人ともいい加減にしなさい!」 その音で拍子抜けしてしまった俺達は声がする方を向くと、そこにいたのは黒髪のツインテールの少女───室長コムイ・リーの妹リナリー・リーだった。手に持っているのはファイルのようで、どうやら俺達の頭をそれで叩いたらしい。 「リナリー帰ってきてたのか」 「篠神達より少し前に帰還してたの」 「なるほど。おかえりリナリー」 「ただいま。篠神も神田もおかえりさない」 「おう、ただいま」 「ちっ…」 「おかえりリナリー」 「ただいま兄さん」 眩しい笑顔のリナリーと兄の顔を見せるコムイに雰囲気を削がれ、俺達はお互いにイノセンスから手を離した。気を削がれ座り直した俺の顔面にバシッと思いっきり何かが叩きつけられる。 「って!何すんだバ神田!」 「お前はさっさと寝ろ」 叩きつけられたのを持ち上げるとどうやらそれは報告書らしい。なんで俺に報告書をと思った時目に入った報告書の名前を見ると俺のになっている。え、これまさか俺の分?倒れた俺の分まで書いてくれたってことか? 神田の方を見るとこちらの視線に気がついたのかそっぽを向いた。それだけで答えは十分だった。 「……ありがとう神田」 「ちっ」 「舌打ちすんな」 「うるせぇ」 「ったく」 3人でコムイに報告書を渡すとコムイは内容に軽く目を通して不備の確認をし、3つをまとめこちらを向いた。 「みんなお疲れさま。とりあえず次の任務があるまでリナリーと神田君は待機。篠神君は体調よくなるまで休暇!」 「うーっす」 寝ているあいだも着ていたため少々暑苦しく感じる団服を脱ぎながら2人と室長室を後にした。 二人の後ろを歩いて気付いた。リナリーの足や顔には包帯が巻かれていたり、ガーゼが貼られている。報告書を出していたということはリナリーも任務だったのだろうから、そのときの怪我だろう。 「リナリーは怪我大丈夫か?」 「ええ、深い傷はないから大丈夫。それよりも篠神の方こそ大丈夫なの?」 「ダイジョーブ、ダイジョーブ。心配しすぎだって」 「室長室前でぶっ倒れたヤツの言えるセリフじゃねーな」 「ぬぐっ……」 「篠神本当に大丈夫?」 立ち止まり俺の腕を掴んで心配そうにこちらを見るリナリーの頭を撫でる。 「熱は出てねェからキツくはないし、これ以上無茶しなきゃ大丈夫だ。休暇命令も出てるから大人しくしてるよ」 「本当に大人しくしててね篠神。私、篠神が倒れる所なんて見たくないわ」 「すでに倒れてあとだけど」 「篠神」 「あーー!わーった、わーったよ!大人しくするって約束するからそんな目で見るなって!」 「絶対だからね!」 「はーい」 返事まですると満足したようにリナリーは笑った。ったく、俺が可愛がってる奴のお願いに弱いの利用しやがって。 俺の手と神田の手をリナリーは掴んだ。 「そろそろ夕食の時間だから二人とも食堂にいかない?」 その言葉にいち早く反応したのは神田だったと思う。俺が口を開く前に神田が俺の顔を手で叩いた。 「ぶっ!?」 「体調わりーやつを食堂に連れていけるか。俺はこいつを医務室まで引きずって行くから、ほかのヤツ誘え」 「ちょっ神田!?」 俺の首根っこを掴んで歩き始める神田に文字通り引きずられるように俺も歩き出す。 「篠神のことよろしくね神田。篠神お大事に」 「ちっ…」 「バ神田、首根っこ掴むんじゃねェ!!」 「うるせェ、黙ってろアホ神」 止めるどころか手を振って見守るリナリーにため息をつく。俺の首根っこを掴む当人は今すぐは離す気はないようで俺はいっとき引きずられるハメになった。人が少ないところまで来て神田が手を離したので俺は当人を睨む。 「ったく、急に何すんだよ」 「お前を体調悪いときに食堂に行かせるとロクなこと起こらねぇんだよ」 「悪かったな、体調ワリィ時にろくでもねェことばっか起こして」 「おまえは医務室で寝てろ」 「そうさせてもらいまーす」 結局本当に医務室までついてきてから神田は去っていった。ったく、相変わらず素直じゃねェな。そんな態度取られるとどうしていいのか困るんだけど。一応礼言っとくべきだったな。 俺は人が多い時間帯の食堂は極力避けるようにしている。なにせ俺は元々千年公側の人間だ。俺のことを疑う目や嫌悪する目が食堂になるとより強く感じられる。体調ワリィとなおさら気になってイライラして喧嘩売りかねない、というか過去に何度かそれやってコムイに怒られている。 神田は俺がリナリーの返事に頷く前に阻止した。それはありがたいけど、医務室に連れてこられるとか。部屋に帰るつもりだったのに。 「医務室行くと婦長がウルセェんだよな」 「うるさくて悪かったわね篠神」 「げっ、婦長」 「室長から連絡を貰ってるわ。ほら、早く来る!」 「わかったから、寝るから引っ張るんじゃねェって!」 「放っておいたら帰るでしょう!」 「ナンノハナシデスカ」 「いいからくる!」 「ウッス…」 結局俺は婦長に引きずられ無理していたのがバレ、強制入院となった。 休暇命令 NEXT [*前へ][次へ#] [戻る] |