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第1夜 人形操師 ◎

 


── ヨーロッパ 中心街 ──


屋根の上にふたりの男。周りには不気味な機械が数体浮いている。綺麗な長い黒髪を結い上げているひとりは面倒臭そうに舌打ちすると背中の刀を抜いた。闇夜に煌めく刀の唾に指を添え口にした。

「六幻抜刀!!!」

容姿に反して太い声を発した男は刀を振った。一番奥にいる周りのボール型の機械たちとは違う個性的なデザインの機械が警戒するように声を上げる。

「オマエタチエクソシスト!!」

もうひとりの短髪の男が背中のポシェットから木の骨組を取り出しながら、口角を上げて笑った。

「壊れろよ、糞AKUMA」

























「テメェ毎回毎回言ってんだろっ!!本気でやりやがれ!」
「キャー、ユウ君こわーい。つーか、俺のイノセンスを最大限使うには神田が邪魔なんだけど。そこいたら吹っ飛ばすぜ?」


棒読みで告げると殺気がヒシヒシと飛んでくるのでそっぽを向く。神田がザックザクとアクマを斬るのを屋根の上であぐらをかきながら眺める俺の名は───篠神 神月。これでも一応ちゃんとしたエクソシストだ。あぐらをかいた俺の上には自身のイノセンスである少し古臭い、いわゆる身代わり人形が足をパタパタと動かしながら座っている。


「ファーストネームで呼ぶんじゃねェ!!テメェシンクロ率99%だろ。それくらい加減出来る癖にサボんじゃねェぞ」
「ちっ」


長年の付き合いの神田に嘘は通じないらしい。そろそろからかうのは止めにするか。最初からいたレベル2が増援を呼んできたらしい。俺がサボっていても神田ならお釣りが来るだろうが任せっきりにするわけにもいかねェしな。


「そっちのレベル1頼んだ」
「………」


無言なのでそれでいいということだろう。人形<ドール>が立ち上がり俺の頭の上に乗ってから俺も立ち上がった。あんな風に言いはしたが暴れるためには少し神田から距離をとるべきだろう。
数歩だけさがり屋根のふちで思いっきり飛んだ。そのまま落下する前にそばにいたレベル1を踏み台にジャンプし、ついでに最初からいた司令塔らしきレベル2も踏み台にしてやる。


「フギャア!?」
「こっち来いよ。テメェが司令塔だろ。テメェも俺が相手してやる」
「上等ダ!!」


自我があるレベル2は踏み台にされたことを怒ったらしくやすやすと挑発に乗って俺を追いかけてきた。俺は奴らを踏みつけながら屋根から屋根を移動する。神田とあるていどの距離をとったところで立ち止まる。


「さてと、やりますか」


頭から俺の腕の上に降りてきた人形<ドール>を俺は思いっきりアクマ共の中心に投げこんだ。


「ハ?」
「Ver.普通<ノーマル>サイズBIG! 」


投げ込まれた人形<ドール>は俺の声に従いアクマ達の中心で二階建ての家のサイズまで巨大化した。焦っているアクマ達に容赦なく人形<ドール>は腕を振り回して数体のアクマを叩きつけた。


「マサカキサマガ噂ノ“人形操師<パペッター>”カ!!」
「アクマ共の間で有名になっても嬉しくねェんだよ。さっさと壊れちまえ!人形<ドール>骨貫<ピアスフレイムワーク>!!」


人形<ドール>の中の骨組みが布を破って飛び出し、近くに居たアクマ達に突き刺さる。突き刺されたまま反撃したアクマも数体いたようだが人形<ドール>にアクマの攻撃は意味がない。
人形<ドール>のイノセンス<ほんたい>は今戦っている人形<ドール>とはまた別物だ。人形<ドール>の本体は俺の腰ベルトに着いている小さい人形なのだから、いくら攻撃されてもイノセンスが壊れる心配はない。ただし攻撃されて破れた布は発動を解かない限り直らないので不便って言われるとスゲェ不便。
指を鳴らすと人形<ドール>は骨組みをアクマから引き抜いて収納した。


「ギャァァァァアアア!!」


それに断末魔をあげたアクマ共は派手な爆発を起こして粉々に砕け散った。全部倒れたのを確認して俺は屋根の上に寝転がる。


「Ver.鳥<バード>」


したに置き去りになっていた人形<ドール>は俺の声に反応して姿を鳥へと変化させ、屋根まで飛んできて、俺の頭の上に乗るとそのまま寛ぎ始める。


「あのさ、たまに思うんだけどおまえ意志でもあるのかよ」


明らかに首を傾げている人形<ドール>に俺は速攻でその件に関しては考えるのを放棄を決めた。考えてもわかんねェもんはわかんねェ。
遠くに聞こえていた爆発音がピタリとやんだ。終わったかな。いっときすると下から怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい篠神!ここでくつろぐんじゃねェ!終わったならさっさと帰るぞ」
「へーい」


その声に俺は起き上がり人形<ドール>の発動を解くと手元に骨組みが落ちてきた。それを俺はポーチにしまい、屋根から飛び降りて馴染みのやつの前に降り立つ。やや不機嫌そうに腕組みしている若干青みがかった黒髪をポニーテールにしている男。今やもう着慣れたであろう黒い団服と胸にあるクロスローズは同じエクソシストの証。目が合うと思いっきり舌打ちされる。


「サボってんじゃねェ」
「最低限の仕事はしただろ」
「おまえのイノセンスの方が一気に数倒せんだろ」
「俺が出る前に先に飛び出して行ったの何処のどいつだよ」
「さっさと倒した方が早ェだろうが」
「何度もいうけどな、先に出られると邪魔なんだよバ神田!」
「そのくらい手加減出来る癖に手抜いてんじゃねェアホ神」
「誰がアホ神だパッツン侍!」
「誰がパッツン侍だ!!」


お互いに襟元掴み額をぶつける。いっとき睨み合っていたが俺達を見つけにきた探索部隊<ファインダー>の姿が目に入り、同じタイミングで舌打ちをして襟元を離した。


「帰るぞ」
「言われなくとも帰るっての」
「いちいち一言うるせェんだよ」
「そのセリフだけはテメェに言われたかねェよ」
「ああ!?」
「いちいち突っかかってくんじゃねェバ神田」
「うるせェアホ神」
「んだとごら、やんのか」
「上等だ」


再び額に頭突きをかますがあからさまに戸惑ってる雰囲気の探索部隊<ファインダー>にこれ以上目の前で喧嘩すんのも大人気ないと思いため息をついて神田から離れる。


「行くぞ。続きするなら帰ってからにしようぜ」
「ちっ」


舌打ちをしてきた神田に素直にイラッとした俺はもはや慣れたように反射的に人形<ドール>の本体に手が伸びた。


「人形<ドール>殴れ」


ポーチの中から飛び出してきた人形<ドール>は神田に見事なスカイアッパーを食らわせた。ものの見事に食らった神田から殺気が漏れてるのに気がついて俺は人形<ドール>と探索部隊のやつを引っ掴んだ。


「えっ!?」
「悪ィ!ちょっと我慢な!!」


全力で走り始めた俺達を鬼のような形相の神田が追いかけてくる追いかけっこは、駅につくまで行われた。真っ青な顔してる探索部隊<ファインダー>君、巻き込んでマジごめん。
神田が落ち着いてから列車に乗り込んだ俺達は終始無言だった。昔からホントに変わんねェな、コイツは。ボーッと見ているとこちらを向いた神田と目が合う。


「篠神」
「何だよ?」
「……お前大丈夫なのかよ」
「は?」


神田から出た言葉に思わず素で惚ける。


「物珍しい目で見んじゃねェ。コムイからこの前の任務で倒れたって聞いただけだ」
「あの野郎、あれだけ言うなって言ったのに…」
「普段なら2、3日は寝込んでるだろ」
「倒れたくらいで大袈裟すぎんだよコムイは。大丈夫だって」
「はっ、何が大丈夫だ。おまえにしたらいつもより動きが鈍ってんの丸わかりなんだよ」
「なんで普通に見てんだよ」
「左腕の怪我も治ってねェだろ。それでよく医務室から出してもらえたな」
「……テメェさっきの腹いせか」


肯定するように鼻で笑われた。畜生、コムイの野郎後でぶっ飛ばす。
言われた通り左腕の団服のしたには包帯が巻かれている。団服の上から触ってもズキッと傷が疼く。その痛みに少しだけ安堵する自分がいて、顔を手で押さえる。


「…………ユウ」
「ファーストネームで呼ぶんじゃねェ」
「バ神田」
「喧嘩売ってんのか」
「……やっぱなんでもねェ」


神田から視線を外して走る列車の中から外を見る。大丈夫、まだこれを痛いと感じられるうちは大丈夫だ。左腕を右手で強く握りしめた。


「……篠神」
「ん?」
「そのシケたツラどうにかしねェなら叩き斬るぞ」


少し寒気が走るくらいの雰囲気で俺を見てきた神田に思わず固まる。


「テメェ何のために教団に入ったんだよ」
「そりゃ……千年公殺すため」
「だったらグダグダ余計なことで迷ってんじゃねェ。今はおまえはエクソシストだ。それ以外何を考える必要がある」


真っ直ぐに意志の強い瞳が俺を見る。
ああ、そうだ。そうだったよ。俺は今はエクソシストの篠神 神月だ。それ以外考えねェ。


「ああ、そうだな。俺はエクソシストだ」
「それでいい」
「ありがとう神田」
「バカ神」
「うるせェバ神田」
「誰がバ神田だ」
「テメェ以外に誰がいんだよ」
「ああ!?テメェも大概バカだろ」
「つーか、あんまり年上にバカバカいうんじゃねェよ」
「バカにバカと言って何が悪い」
「んにゃろ、いい加減にしろよ女顔」
「いい加減にすんのはテメェだろ」


結局帰還するまで俺達は終始口喧嘩を繰り返し、探索部隊<ファインダー>を最後まで困らせた。





人形操師と長髪侍


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あきゅろす。
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