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新たな覚悟



ガラス越しに手が触れ合ったまま。

ポッドの上部から、液体が降ってくる。

その中で、ケリーの碧の瞳が閉じられて。



―――シュアッ

「…え?」

最初に異変を感じたのはクラウドだった。
ガラス越しに、だが、ポッドの中から音が聞こえた。

この音は。クラウドが何度も聞いたことのあるもの。

ケリーも。

驚いたように目を開いて、自身の腕を上げて、交互に見比べて確認を始めた。


ポッドの中は。

もう液体は止まり、ケリーは半分くらい、液体の中に浸かっている状態だった。


これは。


ガラス越しに目が合った。

困惑しきった表情で、クラウド、と名を呼んでいるようだ。


クラウドは、
言葉に出来ない思いが溢れてきて。
笑おうと思って、どうやら失敗したみたいだ。

「………よかった…」

気付いたら、床に情けなくへたりこんでいて。
それを見たケリーが心配して起き上がろうと壁を叩く。

その白い腕に。
涙が出そうだった。

彼女の片腕を覆い尽くしていた星痕がみるみる間に消滅していく。


ポッドに入れられた液体は、
間違いない。…泉の水だ。


「なんだよ、もう…、…俺が、どんな気持ちでいたか…」

とにかく、疲れた。
心の中でしか漏らさない気持ちも、うっかり口からこぼれていく。
情けない、と思うけど、そんなことどうでも良いくらいには、ホッとしたんだ。


「まー、そー言うなって」

部屋のドアが開いて、レノが笑いながら入ってきた。
レノはポッドの前まで歩き、床に座り込むクラウドを邪魔だと足蹴にする。

「ほい、開けるぞ、と」

「………っ、レノ!これ!」

ポッドが開いて、ケリーが慌てて起き上がる。

「おかえり、だぞ、と」

そして、柔らかい声でレノは彼女に話し掛け、濡れた状態にも関わらずにケリーを抱き締めた。

「…………レノ…」

「俺にだって、…お前を殺せる訳がないんだぞ、と。
そんなことになったらな、…迷わず一緒に心中するとかしか考えられないって。よく覚えとけよ、と」

「…ん、……ごめん、レノ」

ちょっと待て。
そろそろ離れろ、とクラウドが立ち上がったその後ろから。

「おいっ!もう離れろよ!」

「レノ、まず彼女をちゃんと乾かさなきゃ。
星痕が消えたっていったってね、体力まで戻った訳じゃないんだからね?風邪ひいちゃったら大変なのよ!」

「クラウドっ。
最初にぎゅーしてあげなきゃ駄目じゃない!」

デンゼル、ティファ、マリンまでが部屋の中に入ってきた。

デンゼルはレノを彼女から引き剥がし。
ティファはタオルでケリーの顔と頭を拭いてやり。クラウドに彼女をポッドから出して、と指示し、近くにあった椅子を引き寄せた。

マリンは彼女が椅子に落ち着くなり、クラウドにコップを渡し。
飲ませてあげて、と微笑んだ。

言われるがまま、ケリーがコップの水を飲むのを手伝ってやる。
が、一口飲んだあと、大きく噎せて咳き込んでしまう。

「ちょっと辛いかもしれないけど、全部飲んでね」

ティファの言うことなら、と、クラウドも咳き込みながらも水を飲む彼女の背をさすり、ゆっくりで良いから、と応援した。

飲み終えると、痛むのか、腹部を抑えて屈んだケリー。
心配だが、しばらくすると、
「もう大丈夫」と笑顔を見せた。

体の内部に侵食していた星痕も、これで消えてゆくのだろう。

「ケリーさん、着替えも持って来てるから着替えましょう。
立てる?」

「…はい……あれ、痛まない…」

ゆっくりと、クラウドに支えられながら立ったケリーが、信じられないといった声音で頷いた。
恐る恐る、クラウドの手から離れて一人でしっかり立ち、歩き出す。

「隣の部屋に行ける?」

「ええ、大丈夫」

「よかった!じゃあ行きましょう!」

「マリンも行くー!」

部屋から女子がみんな出ていって。
デンゼルとレノと、クラウドの3人が残された。


「いつから、これを?」

責めるように尋ねれば、レノは肩を竦めて笑った。

「急遽、だぞ、と。
………あいつの目が…あんなに一気に変化するとは…俺たちも予想してなかったからな。
一時は本当に…あいつを消さなきゃって思ったよ。
だけど、俺も、…シャチョーもな。
あいつのこと、殺せる訳がなくてね」

「シャチョーって…ルーファウスも、か?」

「ん?聞いたことないか?あの二人が幼馴染みって」

「それは、知ってるが…」

ケリーの初恋の人だと昔聞いたのを覚えている。
彼女ははっきりと終わった昔の話と言っていたけれど。

「シャチョーのタークスの私設化は、…まぁ、あいつの為だったんだろうな、と。
昔からなんだかんだと気にしてるくせに、結局人づてでしか動かないから何にも伝わってないが」

「………………」

やれやれ。本当に頭が痛い。
ザックス、君の言った通りだった。
向こうは終わったと思ってないかもしれない。

「ま、おかげで不自由なく計画を実行出来たって訳。使えるもんは使わないと、だぞ、と」

もちろん、お前も、な。
レノはクラウドに不敵に笑ってみせる。
なるほど。レノはなんだかんだで、引く気はまだないようだ。


昨夜、教会から去った後、レノはそのままティファのところへ行ったらしい。
ティファ達も、ケリーの不在に気付いて困っていて。
レノは、朝早くにケリーの身の回りのものを持って研究所まで来て欲しいと、真剣に頭を下げたのだとか。

「だけど、デンゼルやマリンまでどうして…」

「俺たち、行きたい!って言ったんだ!」

「で、ティファが、許可を出したんだぞ、と。
アイツにもなついてたし、大事な証人は多いほど良いからって」

「大事な証人?」

「そうよ、」

着替えが終わったらしく、ティファ達が戻ってきた。

「私たちは、ケリーさんのためだけじゃなくて、貴方のためにも来たんだよ、クラウド」

「俺?」

「…ね?」

ティファはデンゼルとマリンに笑いかけ、二人も笑顔で頷いた。

「ちゃんと聞いたからね、クラウド」

うんうん、うふふ、と3人に詰め寄られて、なんだか居心地が悪い。
ケリーに助けを求めたくて視線を送ってはみるが、彼女も何のことかわからないらしく、苦笑されただけだった。

「『幸せにだってなりたい』って」

「!!」

「言ったよね?」

「いや、だけど、…」

「言ったよな?クラウド」

「言ってたよ、クラウド」

「…………私達が、クラウドの幸せをどれだけ望んでたか…わかるでしょ?」

「…………」

「ほんとは、私達が幸せにしてあげたかった。…でも、クラウドは自分で幸せを見付けた。
……何よりのことだと、思うよ」

「ティファ…」

「ケリーさん!」

「は、はい」

「クラウドのこと、よろしくね!」

「えっ、
……でも、私、」

「まだ生きられないとかクラウドみたいなことうじうじ言うつもり?
『生きたい』って思ったんでしょ?クラウドと一緒に。
泉は、…星は、良いよ、って貴女を許した。だから、治った。
幸せってね、不思議なんだ。
誰かを幸せにしたいって思っても、一方通行は絶対にないの。
大事なのは、自分がまず幸せになること。…そしたら、きっと、幸せは広がっていくんだ。だから、二人でちゃんと幸せになって。
そしたら、一人でも多くの、幸せのお手伝いを」

「ティファ、さん…」

「クラウドも!
彼女を幸せにしたいんだったら、ごちゃごちゃ余計なこと考えないで彼女のこと離さないでしっかり大事にすること!」

「は」

「返事!」

「え、は、はい」

「じゃあ、私たちは帰るから!
ちゃんと二人で話し合って、で、近いうちに今後のこと、話しに来てね。…ほら、レノも!出てくよ!」

「へいへい」



部屋から誰もいなくなって。
急に静寂がやってきて。
椅子に座ったままのケリーと二人。

「ど、どうしようか?」

「…なんだか、……私、全く何も考えられない…」

困った、と。眉を下げるケリー。
そりゃそうだよな、と、クラウドも笑って。

「とりあえず、帰ろうか」

「……私、帰るところが…」

「ん?」

聞けば、崩壊した神羅本社内の自室は住める状態じゃなく、神羅崩壊後に住んでいた部屋はあるが、星痕病が悪化してからはレノに連れ出されていて、部屋の中がどうなってるかわからない上に、鍵も恐らくレノの部屋だとか。

「……俺も人のことは言えないが…。
とりあえず、…今日は教会に帰らないか?」

「え、」

「治ったとは言え、体力は落ちてる。
体も心配だし。どっか行かれても困るしな?」

「あ、うん、そういう…」

「え?」

「いや、なんでもない!」

「もちろん、いつまでも、って訳にいかないから…。
家、建てるまで我慢してくれ」

「え!?家?」

「…もう、俺は腹をくくったんだ。
ケリーも、覚悟決めてくれよ?」

「覚悟って…」


「幸せになる、覚悟。かな?」



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あきゅろす。
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