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ガラス越しの温度


案内された研究所の奥の部屋には、クラウドが昔入れられていたポッドよりも少し小型のポッドが置かれていた。
少し小型なのは、そのポッドをまた何重にも装置や防御壁で囲うからだとレノが説明した。

仮にもジェノバやセフィロスからの干渉や、テロ組織に悪用されることを最大限に防がなければならないから。



ここで、ケリーが眠りにつく。


ポッドが斜めに倒され、扉が開いて。

駄目だ。

まだ、駄目だ。


「俺は、…ちょっとだけ、お前に期待してたんだがな、と。クラウド」

ポッドへ向かうケリーの歩みが止まった。

「レノ」

嗜めるように、彼女がレノの名を呼ぶ。
レノは肩を竦めて、そして笑う。

「最後なんだ、お別れ会くらい、いいだろ?と」

「お別れ会…してくれるの?」

「おう。
シャチョーからも、よろしく言われてるんだぞ、と」

「ルーファ…。
うん、いつか、ルーファのこれからの積み重ねで…みんなに許される日が来るのを祈ってる」

「伝えとく。
あと、ルードからも。
『この馬鹿の世話は任せておけ』
だと。…ったく」

「はは、ルードなら大丈夫。
もうしっかり手綱の握り方知ってるものね」

「ちっ、
他には?伝えるやつはいるか?」

「カルロたちに…ごめんなさいって。信用してなかったんじゃない、これが私の選択だったからって。
診療所、応援してるって伝えて。
きっと、彼らなら償えるから」

「わかった。
俺からは…、特別にはいらないよな?と」

「ん。
レノ。ありがとう」

「……」

「ありがとう、ございました」

「っ、やめろ!
…やめてくれよ、と。
……………また、な」

「……………うん…」

レノは、彼女をポッドの中に寝かせて、あとはコントロールルームで操作する、と言って出ていった。

部屋には、もうクラウドとポッドの中のケリーだけ。

クラウドの番、ということなんだろうか。

まだポッドは開いたままで、
クラウドとお別れが済んだら…きっと閉まって眠って…終わりなのだろう。


「…クラウド」

「………」

躊躇っていたけれど、名を呼ばれてポッドのそばへ歩み寄った。
伸ばされた手を取る。

「クラウド、ごめんね」

「なんで…謝るんだ」

「ごめんね。
私、責めてない。…ザックスのことも、セフィロスのことも。
最後は…クラウドに殺されたかったんだ。
クラウドに失望されて、恨まれて、殺して…思い出も全て、消し去って欲しかったの」

「そんなこと…出来るわけないだろ」

「うん、…ごめん。
だから、責めたのも、全部ウソ。
ザックスも、エアリスも、自分の気持ちのままに生きただけ。
クラウドを守りたいって、そう思って生きた。
だから、クラウドは、感謝だけ…すれば良いんだよ」

「…だけど、」

「私だったら、…クラウドが生きててくれて、星のみんなも生きていて。嬉しいと…思うから」

「…………」

「セフィロスのことも。
両親のことも。
両親のことは…クラウドとは全く関係ないし。
セフィロスも。…もしかしたら、セフィロスも望んでいたことかもしれないと思ってる」

「望ん、で?」

「…セフィロスはね、本当に、最強のソルジャーだった。
ザックスなんかでも軽く遊ばれるくらいにね。
そのセフィロスが…本当に本気で星を滅ぼそうとしたら、…もっと早く確実に滅ぼしたはず。
私がそう思いたいだけかもしれないけど、セフィロスはどこかにまだ正気な自我が残っていて…星を守ったような気がするの。クラウドに倒されたかったんだろうって」

「セフィロスのこと、どうして…そこまで、」

「どうしてかな…。セフィロスは、本当に『英雄』に相応しい人。そんな風に、ずっと思ってた。
人の痛みがわかるのに、わからない振りをして、傷付いて。
日常や平凡に憧れてて。
他人は大事に出来るのに、自分を大事にしない人だった」

「…………好き、だったんだろ?
セフィロスのこと」

「……今、思えば…。憧れの人だったんじゃないかな。
尊敬する人。だったと思う。あんな風になりたかったって。
私の、好き、っていうのは…もっとワガママな気持ちだから。
欲しいなぁ…って、セフィロスに思ったことはない。
それに、クラウドに会ったからね」

「本当に…、ザックスもセフィロスもいて、…どうして…俺なんか好きだったんだ?」

「不思議?」

「今でも、信じられないよ」

「ひどいなぁ。
はじめは、ただカッコいい綺麗な人だなって思ってて」

「いや…それこそ…セフィロスとか見慣れてて不思議なんだけど…」

「悲しそうな顔で笑わなかったでしょ?
セフィロスもザックスも、時々…悲しそうな顔で笑ったから。
太陽みたいに、クラウドは笑った。
私のこと優しいなんて信じられないことを言って…、私にもザックスにも本気で心配したり…本当に優しかった」

「君もザックスも、とても優しい人だった!」

「騙してたのに?」

「トモダチだって、言ってくれたのも?」

「………ううん、それは、その気持ちだけは嘘じゃない」

「ほら、優しかった。だろ?
トモダチだって、二人が言ってくれたことが、俺にとっては宝物だったんだ。
それだけで、十分だったんだ」

「……そういうとこがね、…好きだったよ」

「…っ、」

「ふふ、今でも赤くなるのね」

「く、…見ないでくれっ」

「最後だから、見せてよ」

「俺はっ、君に生きていて欲しい!」

「クラウド…」

「君の言う通り、俺は幸せを望まないし、君もそうだ。
一緒に生きる道が無いのはわかってる。
でも、…この星のどこかで、同じ時間に生きていて欲しい。
それだけで、きっと俺も生きていけるから」

「それは、出来ないよ…」

「君がそんなに強情だから、俺は、だんだん欲張りになる。
君の言う通りだ。
好き、って気持ちはワガママなんだな。
俺は幸せになっちゃいけないって思ってたけど。…君を生かせるためなら、幸せにだってなりたいと思い始めてる」

「え?」

「君をここから連れ出して、レノからも誰からも守って。
ティファやマリン達にも協力してもらうし、神羅側に必要ならリーヴに手を打ってもらう」

「クラウド…」

「君が死にたいなんて思わなくなるほど、幸せだと思わせて。
ずっと繋ぎ止めておくんだ」

「……………」

「でも、今、それは無理だから、、
俺、考えたんだ。
………必ず、君を起こす。迎えにくる。
この星を早く立ち直らせて、君と俺が許される時が来たら。必ず、迎えにくる。
そしたら。星に帰るまで…一緒に暮らそう」

「っ、」

「ザックスの思い出話も一緒にしたい。
犬かチョコボを飼ったら…名前はザックスって付けたいな」

「っ、はは、」

「セフィロスのことも、聞かせて欲しい。
俺にとっても、…憧れだった人だ。どんな人だったのか、ちゃんと知りたい」

「……」

「俺は、仲間のことを話すよ。
ちょっと恥ずかしいけど、母さんのことも。
デンゼルもマリンも、きっと君に話したいことがたくさんあるだろうし。
何でも屋も…手伝って欲しい。本当は手伝わせたくないけど、一緒に出来たら楽しいかもしれない。
ケリーに家事をさせるのも…なんだか似合わないしな」

「う、」

「だから、家事も一緒にしよう。
それから、チョコボとも仲良くなれるコツ、今度こそ教えるよ」

「えぇー」

「大丈夫。君と相性の良さそうなチョコボをちゃんと見付けておくから。
それから、それから、……」

「クラウド…」

「…君のご両親や母さんの、ザックスやエアリス、セフィロスの、…大切だった人たちの墓参りも」

「…うん、」

「君には、まだやらなきゃいけないことがある。
……必ず、迎えにくる。
その時は、俺が必ず幸せにするから、ケリーも、俺を幸せにして欲しい。
じゃないと、エアリスとザックスは俺たちを迎え入れてくれないだろ?
『まだ駄目』ってきっと言われる」

「………そ、だね…」

『……ケリー、そろそろ、…閉めるぞ、と』

コントロールルームからレノの声が入る。
「…うん」というケリーの小さな返事の後、ポッドがゆっくりと閉まっていく。
繋いでいた手も、ポッドの透明な壁に阻まれて。

「必ず、起こしにくる。
そしたら、きっと、幸せで忙しい日々が待ってるから。…だから、ゆっくり眠ってくれ。
必ず、迎えにくるから。その時は、二度寝するのは無しで頼む」

完全に閉まったポッドの中で、
彼女がふふっと笑った。

駄目だ。

やっぱり、こんなの駄目だ。

眠りにつく。それは、ヴィンセントの方法とは違い、もう二度と目の覚めない眠りだと、散々研究員が説明していた。
再び起こす技術は、今現在では不可能だ、と。数十年後の技術革新に期待する以外に他はない。

でも、きっと。

いつかもう一度会いたい。

すがる思いで、手を伸ばすけれど、
ポッドの透明な壁はただ冷たく、彼女には届かない。
だが。
ケリーも、ポッドの内側から手を伸ばして。壁越しに、手を合わせる。

感じるのは冷たさだけなのに、
合わせた手のひらが、温かい気がした。

『良い、夢を』

またレノの声がして。
ポッドの上部から液体が降ってきた。
その中で。最後に。

『好き、クラウド』

彼女の声は届かなかったけれど。
自惚れでなく、そう言ってくれた気がした。





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