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変化の先



デンゼルやマリンと仲良くなってから、ケリーはよく笑うようになった。

前に、デンゼルたちと「ちゃんと治す」と約束したと言っていただけあって、近頃の星痕の治りは早くなってきている。
彼らとの約束が、少なからず彼女を前向きにしたということだろう。

首まで見えていた痕もすっかり服の中に隠れ、一面星痕に覆われていた片腕も、肘の手前まで後退し。なんとか指先は痛みも落ち着いてある程度動かせるようになったとか。

まだ腕を上げることは痛みを伴うものの、なんとか歩くことも可能で、最近は少しずつ歩ける距離を伸ばしているらしい。
とは言っても、クラウドから見れば、まだ体内の星痕は消えていないようで。
クラウド以外には見抜けないが、時折痛みを感じている素振りがある。
面と向かって言っても絶対に認めないと思うため、クラウドはティファと相談して、歩行練習の時間を制限することに決めた。

それを守らせるのは専らデンゼルとマリンの仕事である。

一緒に外に出られるとあって二人は喜んだし、デンゼルなんかは剣などの練習を見てもらいたいと毎日のようにねだっているそうだ。
動く片腕だけでデンゼルの相手をするのに、全く敵わないんだ!とデンゼルが目をキラキラさせていた。

もちろん、ティファと二人で止めようとしたのだが、ケリー本人が良いリハビリだと言い張り、ほとんど座って相手をしてると言うから渋々目をつむることにした。
きっとそのうち、立って相手をし始めるんだろうなぁ、と今から頭が痛いクラウドだ。

ティファは別の意味で…彼女が神羅のタークスだったことから、デンゼルに剣の稽古を付けることを心配していたらしいが、彼女の教えるものは基礎の基礎、剣の振り方、重心の乗せ方など、本当に教科書のような基本的なことで、体を上手くコントロールすることに重しをおくものだった。
マリンにも、とすごくすごく簡単な護身術を教えてくれたり(むしろ、ティファのものよりも穏やかなものだと思う)、どちらかと言えば身を守るのに適したものを教えてくれていて、それを確認したティファは安心して二人を預けるようになった。

この星で生きていくのに、まだ無防備ではいられないから。


それを思う時、クラウドは自分達の罪に押し潰されそうになる。

この結果を招いたのは、少なからず自分自身である、と。

バレットたちは、それはクラウドだけではない。自分達だけでもない。
神羅だけでもない。
星に生きていた人間のほとんどが関わっていたことだと言ったけれど。

それでも、逸らせないだけの罪がクラウドにはあった。




「ほんっと、座った上に片手なのに…どうやっても受け止められちゃうんだもんなぁ。
これで動いて、両手使ったら…もう、クラウドとだってきっと良い勝負だよな!」

夕食を皆で一緒に食べていたら。
デンゼルは剣の稽古でいかにケリーがすごいかを熱弁し始めた。

「ケリーさん、デンゼルに付き合って、体は大丈夫?無理してない?」

「大丈夫です、ありがとうティファさん。おかげで私も少しずつ体を動かせるようになってきたし、ちょうど良いリハビリみたい」

「それなら良いんだけど…」


「なぁ、クラウド!」

「なんだ?」

「前はどうだったんだ?
クラウドのが強かった?」

「は?」

キラキラした目を今度はクラウドに向けて、デンゼルは尋ねてくるが。
クラウドとケリー?前は、とは?

「クラウドと、ケリーさん!
病気になる前、どっちが強かったのかなって!」

「デンゼル…、彼女と俺は一度も戦ったことがないから。
この先だって、戦わないし、…わからないな」

「そうなの?
同じソルジャーなら強さ比べたりはしないんだ?
なんだー」

ん?
と思ったのはクラウドだけじゃなくて、ケリーも不思議そうな表情を一瞬浮かべて、その後で自嘲するような…少し陰った笑みを浮かべた。
ティファは、ケリーが強いのでイコールソルジャーだったんだろうと、デンゼルの子供らしい単純な考えにふふふと笑い。
クラウドは、ただただ困惑して。

「ケリーは…、…ケリーさんは元ソルジャーではないよ」

「えっ?」

「女性のソルジャーはいないんだ」

「嘘!そうなの?
ソルジャーの瞳だったし、強いから…クラウドとソルジャー仲間なんだと思ってたよ!」

「何言ってるんだ?
目の色は黒…いや今は茶、だろ?」

「えっ?」

「ん?」

「……クラウド?ケリーさんの眼、碧だよ?きれいな、ライフストリームの光みたいな。陰るときもあるけど。あ、陰ったら茶っぽいかな」

だよね?と、デンゼルはティファやマリン、ケリーに振り向き、同意を求めた。

まさか、と思いながら、クラウドもそれぞれの顔を見渡して。
ティファは相変わらずふふふと笑い、
マリンはうんうん、と頷き。

「ゆらゆら揺れる緑色で、マリン好きだなぁ」

マリンが、にこにこと言った一言で。
ガタ、と勢いよくケリーが立ち上がった。

「ケリーさん?」

蒼白な顔。
ティファが心配して声を掛け、ケリーは絞り出すように、
「ごめんなさい、…ちょっと…痛みが…お先に休みます。…お休みなさい…」
そう、やっとやっと挨拶だけして、部屋に消えた。


「大丈夫かな?…無理させちゃったかな?」

心配するデンゼル達に、とりあえず大丈夫だと言い、後で様子を見てくるよと安心させた。


ケリーの瞳が、碧?

動揺、していた。







小さく、ノックだけをして。

夜、クラウドはケリーの部屋を訪ねた。



「ケリーさ…っ!?」

部屋には、誰もいなかった。

「っ、クソ、……どこへ!?
約束、しただろう!?」

開いたままの窓を見て、クラウドは当てもなく彼女を探しに出ることを決めた。

善くなってきているとは言っても、まだ、治療は必要だ。
何もしないで治る病ではない。
それに、あの蒼白な顔。
恐らく、瞳の色の会話が原因で、彼女は不安定になっているだろう。

クラウドだって、衝撃だった。

再会して、少し以前よりも色が薄い気もしていたが…。
黒や茶の瞳が碧になるとは…聞いたことがない。
あるとすれば…ソルジャーだけ。

だが、ソルジャーならば青のはず。
個人差はあるけれど、皆青い瞳に変わる。
クラウドはもともと青かったのであまり変化を感じたことはなかったが、それでも、色みが少し変わった。

ソルジャー化。

それに匹敵する程の変化が、彼女の身に起こっている…ということ?


あの様子では、きっと、彼女自身でも気付いていなかったんだろう。



変化も気になることだが…今は。
まず、彼女を探さなければ。


「っ、クラウド?どこ行くの!?今から!?」

「ティファ…、…ちょっと出てくる」

「ちょっとって待っ」

「!!」

出る矢先、クラウドの携帯端末が着信を知らせた。

そこでハッとする。

以前、ケリーから持たされた彼女の居場所を知らせるモニターの存在。
あれがあれば、少なくとも居場所はわかる。

クラウドは少しばかりホッとして一息つき、それから、端末を操作して着信に応えた。






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