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前を向くための


「えっ、持ち方悪いんですか!?」

「というよりは…変に力が入ってるんじゃないかな?」

「変に…力…。
あとで!…は遅いか…。明日っ、明日、時間あったら見てもらえませんか!?」

「ええー?明日はお勉強の後、マリンにお話読んでくれる約束!」

店に帰るなり、奥から二人の声と、ケリーのちょっと困ったような笑い声が聞こえてきた。

カウンターのティファにただいまと手を上げると、ケリーさん疲れてないかしら、と心配そうに言いながら水の入ったグラスを渡してくれた。
少しカウンターの席に腰掛けてグラスを口に運びつつ、「いつから?」と聞いてみると。

「お昼過ぎから」

との答え。
今日は短距離ながらも数件の配達があったため、もう陽が傾いてからしばらく経つ。
近頃、彼女はデンゼルとマリンに読み書きや計算など、簡単な勉強を見てあげているらしかった。
最初はティファにも言われてしぶしぶ受けていた二人も、彼女の豊富な知識の片鱗を感じ、彼女も二人の興味のあることと絡めた授業内容を努力してくれているらしく、徐々に楽しんで授業を受けているようだ。
しかし、どうやら、最近は勉強だけに留まらずに二人が彼女にくっついている様子。
今のように、彼女の周りで二人がケンカしても、彼女は困ったように笑うばかりで怒りもしないし、体が痛もうが疲れようが顔に出さない。
彼女も、まだまだ星痕の治らぬ身なのに。ティファやクラウドの心配もちゃんと受け取って欲しいのだが…。


「その辺までにしとけ」

未だケンカしている二人に呆れながら、クラウドは三人の座る席に向かった。

「クラウド!」

「おかえり!」

デンゼルとマリンがクラウドを見るなり、笑顔を作って迎えてくれる。

「ただいま」

それにむず痒いような心地になるのは、未だ慣れない。どうしても素っ気ない返事になってしまう。

「おかえりなさい、クラウドさん」

一拍遅れて、彼女からも声が掛かる。
おかえり、と言われたのは、彼女がここに来て…初めてのような気がした。
驚いて彼女を見れば、彼女は優しい、温かい笑顔を向けていた。

「た、ただいま…」

何故だか苦しくなって、早口で挨拶を返し。

「あれ、クラウド、顔赤いよ?日焼けした?」

「だ、大丈夫だ!」

準備してくる、と言ってその場を逃げた。
擦れ違ったティファからは苦笑され。
散々だなと思う。

「ほら、ケリーさんはそろそろ泉に行かなくちゃ。二人ともいい加減にしなさい」

「「はーい」」

階段を上りながら聞こえてきた声にも何故だか胸が騒いだ。
また泉に入るのだが、今日は何件も配達があって汗をかいたし、と、言い訳のように思ってザッとシャワーだけ浴びた。
モヤモヤした気持ちまで流れてしまえば良いと思った。




「ごめんなさいね、二人とも…大人に甘えたいんだと思うの」

「ティファさんもクラウドさんもいて、恵まれてますね」

「……ううん。私も努力はしてるけど…どうしても店のこともあるし、クラウドだってずっとここには帰らないことのが多かった。
この辺りの…というよりは、今この星は…というのかな。それまでの普通の暮らしを取り戻す為に大人は皆必死で、子供はどうしても取り残されてしまう。
私たちはあの子たちを引き取ったけど、それでも寂しい思いをさせてると思うんだ」

彼女を泉に連れていこうと、再び店に戻ろうとしたが、どうやらお客もいないのか、ティファとケリーの話し声が聞こえてきて足が止まった。
階段の上からはデンゼルとマリンの声が聞こえるから、二人は上に行ったのだろう。

「…それでも、です。
それでも、あの子たちは恵まれています。きっと彼らは、不幸だなんて思ってない。
だって、ティファさんとクラウドさんのこと、大好きだって言ってます」

「………そっか…。ありがとう」

「ティファさん、」

「ん?」

「仲間にも、兄弟にも、きっと家族にも。「血」なんて関係ないんですよ。
仲間とか、そんなくくりすら…もしかしたら関係ないのかもしれない。
大切な人、…それは仲間であり、家族であり…他人だろうと、大切だって思いが全てなんだと思うから」

だから、ここの皆さんは…素敵だと思う。
彼女は静かに、穏やかに、そして少し寂しそうに言った。

「………貴女にも…そんな人が?」

「……いました、ね。昔のことです」

「それは……レノは違うの?」

「え?…あはは、ふふっ、レノは…レノも、そうでした」

「もしかして…忘れてたの?」

「ふふっ、はい。
レノも、大切な人…ですね、一応。
あいつしぶといから、最後の最後まで生きてるでしょうけど」

だから、心配するだけ損で、ついつい忘れちゃいます。と何故だかティファまで一緒に笑っていて、少しだけレノに同情した。

「それはそうと、ティファさん、私は、あの子たちに救われています。だから、気にしないでくださいね」

「え?」

「星痕、治さないと…二人のこと悲しませてしまうから」

「うん」

デンゼルは特に。星痕によって死にゆく人々をたくさん見て、自身も星痕に苦しんだ。
そんなデンゼルを間近で看てたマリンも。
近頃は二人がケリーに体調を気遣う姿をよく見かける。
もう、星痕病で亡くなる人を見たくない。そんな思いが強いんだろう。

「必ず治すと約束させられてしまいました。
だから、…治さないと。」

「うん。…うん。そうだね」

「それまで、お世話になりますね」

「今さらだよ!
治るまでは帰さないからね!
………治っても、あの子たちも私も、待ってるからね。会いに来てね」

「ありがとうございます」

ケリーは、「うん」とは答えなかった。




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あきゅろす。
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