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条件の約束

『一週間すれば出ていける』

彼女がそう発言してから、今日でちょうど一週間だ。

彼女の様子はと言えば、指先まであった痣が指の付け根まで後退し始めたくらい。あとは首の痣が顔までは届かなくなった。
依然として腕も、腹部も、痣に覆われた状態で、クラウドもティファも…まだまだ毎日泉に通わなきゃいけないし、きちんとした看護下にいるべきだと考えていた。
その原因は、彼女の「生きる」気力が薄いこと。
そうでなければ、ここまで治りが遅いことはないはず。
それこそが一番の問題だと、深刻に捉えている。

それについて、クラウドはティファと話し合い、レノのもとへ帰すべきかを近いうちに判断しなければ…と考えていた。


そして、彼女が以前口にしていた一週間という期限。

その朝。
タイミングを図ったかのように、フラりと現れたのは、レノだった。




「はい、これ」

「何?着替え?…え、ちょっと、何枚あるの?」

「え、だって必要だろ?洗濯も着替えも楽なようにワンピースにしといたぞ、と」

レノが彼女に手渡した紙袋からは、黒のワンピースが5枚も出てくる。

「それから、寝間着もな」

「ちょっと、袖ないんだけど!なんで!
だいたい私スカート嫌だって知ってるでしょ!?
ちょっと、寝間着って…レースとか…ちょっと…」

「えええ?だって、洗濯頼むの、ティファじゃん?今のお前、洗濯無理じゃん。
袖とかズボンよりさ、より、楽な仕様のが良いだろ、と」

「…う、」

「いいじゃん、着て見せろよ、たまには俺好みの着てくれたって…っぐはっ」

やっぱり!という言葉と共に、レノの顔面に枕が飛んだ。
ドアを開けて廊下からそんな二人のやり取りを眺めているクラウドとティファだが、ティファなんかは彼女の態度の変化にただただ驚いているばかり。
きっと、大人しく、静かで、儚げな印象しかなかったのだろう。
それが、レノに対しては…なんていうか、…自由で。まぁ、レノもいつもに増して自由な気もするが。

クラウドはといえば、
複雑な胸中だった。

知っている。かつての彼女は、この姿だった。
普段は凛として、だが、ザックスやクラウドと会えば表情がコロコロと変わる。

『ほんともー、いい加減にしなさい!…あっ、ちょっと馬鹿!クラウドもちょっと何か言ってやって!』

ふざけるザックスに向けて、いつも呆れながらに注意して…。
彼女の中で忘れられてしまったらしい、今のクラウドには。全く見せてもらえない、懐かしい姿だった。


「………レノ、悪いけど、私、帰るわ」

「ん?」

「一緒に連れて帰って」

「うわ、…なんて魅力的なお願いなんだろうな、と。
…だが断る!」

「どうして」

「第一に、まだお前は一人で帰れないと自覚があるほど弱ったままだ。
第二に、その状態で帰ったとして、俺らが仕事してるときに教会に通える手段がない。事実上、帰れば治療の終了になる。
第三に、お前はここでやるべきことがある」

レノの言葉に、俺もティファも驚いたが、それはケリーも同じだったらしい。

「なんだかわからないって顔だな、と。
だから、まだ駄目なんだよ。
それがわからない内は、連れて帰れない」

レノらしくない、真面目な声音だった。

ケリーは、悔しそうな表情で俯いて、それにレノが仕方ないなといった体で笑う。

「その代わりに、
今日はオレとデートしませんか、と、お姫様?」

「…………は?」

「またちょっとミッドガルを離れることになってな。
すぐ戻るけど…何日かは会えないだろ?寂しくない?」

「……………別に。いってらっしゃい。気を付けて。」

「またまたぁ。
んじゃ、…まだしばらくコイツのこと頼んで良いか?礼はそれなりに用意してるから」

レノはくるり、と振り返り、クラウドと…むしろティファに向けて頭を下げた。

「それは…もちろん良いが」
「うん、そんな状態で帰せないし」

この機会だ、と、ティファと話していたことを提示してみようと思った。

「ただし、条件がある」

「…なんだ?」

レノにしては珍しい警戒した声。

「約束して欲しい。
『絶対に俺達の了承なく勝手に出ていかない』こと」

「………なるほど。やるな、と」

「レノじゃない。
ケリー自身に約束して欲しい」

うん、とティファも大きく頷く。

当のケリーは、少し驚いたような、困惑したような顔で。一度レノを見上げるも、レノには肩を竦められ、逃げ道がないとわかりため息を吐く。そして、ようやく小さく頷いた。

「約束、してくれ」

「わかりました。出ていく時は、必ず言います」

「『了承』を」

「…………はい。約束します」

「なら良い」

「良くなるまで、ずっと居てくださいね!」

ティファもホッと安心したようだ。

「んじゃあ、デートですよ、と。
ほら、せっかくだから服着替えて!」

「なんでよ…スカートやだってば」

「だって、そのシャツ…クラウドのだろ?スパッツもティファの。
ずっと他人の借りてるの…ねぇ?
そんなにクラウドのシャツ着てたいのか?と」

「…………っ!!」

本日2度目の枕が飛んだ。









「……………。」


「………ティファ、」

「なぁに、デンゼル」


「…………。」


「…ティファ、クラウド…どうしたの?」

「クラウドねぇ…」


「……………出掛けてくる。」


「クラウド?」

「…いってらっしゃい」


ドアを閉める直前、ティファの困ったような笑い声が微かに聞こえてきた。

『半日、二人でデートしたいから、
ちょっとケリー連れ出すぞ、と。
治療もあるだろ?帰りはあの教会に送り届けるから、悪いけど教会に迎えに来てくれ。それでいいか?』

もとより、クラウドとティファには頷く以外の選択肢はない。
文句を言うかなと思っていたが、ケリーは意外にも『デート』に嫌そうではないし、少しムッとした顔ではあったけれど、『さぁ、姫、参りますよ』と横抱きで窓から飛び去って行く際も特に何も言っていなかった。

「どこにいくのか?」
「二人の関係は?」

とか。

聞ける訳がないクラウドは、ただただずっと下の店の片隅で約束の時間を待つのみだった。
その様子にデンゼルは首を傾げ、ティファは苦笑をもらす。
情けないな、とわかってはいたが、ばつが悪いクラウドは店を出て。約束の時間まではまだまだ時間があるが、とりあえず教会に向かって歩き出すのだった。




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あきゅろす。
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