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変化の途中



ガタゴンッ

そんな音が響いてきた。

「クラウド、オレが見てくるよ」

「…わかった。何かあればすぐに叫べ」

デンゼルに行かせるのに、ティファは少し心配そうな顔をしたが、ついでに、とレノから彼女宛に届いていた荷物をデンゼルに持たせた。
さすがにもう状態も安定してきたケリーが暴走するのは考えにくい。
この数日でデンゼルとマリンもケリーと食事の時などに話すことが増えてきていて、特にデンゼルなんかは、彼女から勉強やトレーニング法など軽くアドバイスをもらったのを切っ掛けに、それらを教えてもらいたいようであったから、クラウドはデンゼルの気持ちを汲んでみたのだ。
だが。
戻ってきたデンゼルは不思議そうに首を傾げるばかり。

「なんか…カップを落としちゃったってさ。割れなくて良かったって言ってたけど」

それだけってこと…ないよな?と。

あの音で?

クラウドももちろん納得いかない。

「でもさ、よく確認しても、部屋の中も外も…何でもないんだよ。痛そうでもないし」





さて。

クラウドはその後、いつもより少し早いが泉に向かっても良いかもしれない、と彼女の部屋の様子を見に行けば、やはりデンゼルの報告の通り。大人しく寝台に寝ていたし、部屋の中も外も何の変化もない。だったのだが。
相変わらずなのか、とため息が出た。

「………おでこ、赤くなってる。
一体どこに行こうとしたんだ?」

「……っ!!」

おでこの右側が微かに赤くなってるように見え、少しカマを掛けたのだが、やはり。

「…………どこに、とかじゃなくて…」

「本当に?」

「だって、…約束、したでしょう。
……ちょっとだけ、歩く練習がしたくて…」

どうやら、嘘ではないらしい。
今の彼女は数歩くらいならヨタヨタと歩くことが可能だが、部屋から部屋への移動になると痛みと戦いながらの挑戦となる。
なんとかトイレ洗面所へは行けるものの、廊下の移動や、ましてや階段なんてかなりの苦痛になるだろう。
先程の音は、部屋の中で歩く練習をしようとして倒れ込んでおでこを打った音だったらしい。
それで、デンゼルが来る前に慌てて寝台に戻って取り繕って?
痛みを堪えたからか、うっすらと額には汗も滲んでいて、置いてあったタオルを少し水で濡らしてから額にあててやる。
ほ、と少しばかり表情が和らいだのを見て、少し熱も出ていたのかも、と思う。

「まだ、体の中まで星斑が入り込んでいる状態だ。
とても一人で歩ける状態ではないと思うが?」

「………そうみたいね」

「どうして」

「え?」

「どうして歩く練習がしたかったんだ?」

「どうしてって、私が歩ければ、貴方は仕事に行けるでしょう?」

「その話はもう終わったと思っていたが?」

「………私は治療に協力して欲しいだけで、付きっきりで看病して欲しい訳ではない」

「………………貴女が良くなれば、考える。」

「私は…、私の治療には…時間が掛かるわ」

「さぁな。わからないだろ?
すぐに治るやつだっているんだ」

「……もし、…治らなかったら?」

「は?
泉が湧いてから、星痕病の治療で治らなかった例は俺の知る限り無いんだが…。
だけど、もしそうなったら…俺は仕事失敗ってことになるな。貴女を治すと、レノの依頼を受けた。
だから、何でも屋の意地にかけて、必ず治すよ」

「クラウド、さん…」

「歩きたい、って気持ちはわかる。
だから、もう少し良くなったらリハビリすれば良い。
泉までは…ちょっと距離があるから、徐々にだけど」

「そうさせてもらえたら嬉しい」

「ああ。
だが、完治するまではここで預かる約束だからな?」

「……………」

「不本意そうだが、約束だから。
ここから泉に通ってくれれば良いだけだ。嫌なら俺は着いていかない。
ただ帰って来てさえくれれば好きにしていて良いさ。
ま、それは歩けるくらい快復してからの話だ。さて。泉に行けるか?」

「…はい、お願いします」


泉の教会で、
お願いがある、と切り出された。

『私は、大丈夫だから、
私のことは気にせずに少しだけでも仕事をして欲しい』

自分への監視ならば、これを使ってくれと、小さなモニターの機械を差し出して。

「これは?」

「私の場所を表示するモニター」

「は?」

「私の体内には発信器が埋め込まれている」

「なんだって?」

「タークスだったの。おかしくないわ。レノから私のことは聞いているんじゃ?
それは私の信号だけを表示するモニター。それがあれば安心でしょう?
それから、私はこれを着けるから」

「それは?」

「魔力を封じ込めるアクセサリー。
これを着けてればほとんど魔力はゼロになる」

「…………以前、暴走した時は他人のマテリアを使っていたくらい常人離れしていた気がするが?」

「その節は…ごめんなさい。
じゃあ、試しに着けてみて?」

バングル状のアクセサリーを片方嵌めると、すぐに異変を感じた。
魔力が塞き止められる感覚。

試しに、とブリザガを唱えるも、こぶし大の氷が作られただけ。

「モニターもそれも、レノに探させたもので…神羅製なんだけど…精度は保証するわ。
モニターは実際にタークスで運用されていたシステムだし、…そのアクセサリーは……対ソルジャー、…セフィロスに対して開発されていたものだから」

「セフィロスに!?」

「そう。…科学部門では、セフィロスが反旗を翻した時に対処できるように秘密裏に対策を講じていた。
もっとも、そのくらいじゃ効果は微妙なものだけど」

「…………」

嵌めたバングルと、先程の氷の塊に目を落とす。

「安心してください。
それ、両腕に嵌めるから。
魔力はほとんど抑えられるわ」

す、と片腕を上げて見せる。
そこには同じバングルがすでに嵌まっていた。
これなら、貴方も外に仕事に行けるでしょう?と。

「はぁ…。……キミは…変わらないな…」

「え?」

「キミは、いつでも、自分よりも他人のことだ」

「……クラウドさん?」

「わかった。
近場の仕事なら引き受けることにする。それでいいな?」

「はい」

「だが、…俺は監視していたつもりじゃない。
貴女は無茶もするし、我慢ばかりだ。様子を見ていないと心配なんだ。
だから、俺がいない時はティファたちに見ていてもらうから。
というか…ティファも店があるから、実際問題デンゼルやマリンの相手を頼めたら助かるんだが…いいか?」

「私でお役に立てるなら」

「ありがとう。
それから、このバングルは、本当に俺が出かける時だけにしてくれ」

「え?」

「これ、身体に負荷がかかるだろ?」

「そんなには」

「誤魔化しても無駄だ。
魔力があればあるほど、これは効果を強める器具では?」

「……………」

「俺も、ソルジャーになったからな…。魔力は未だに増えている気がする。
セフィロスほどとは言わないがそれなりに魔力があるんだよ」

「っ、なら早く外し…」

「ほらな。少なからず負荷があるんだな?
それを両腕に、なんて…。
まぁただ、ソルジャーになった今、貴女の魔力の大きさも、十分感じ取れるようになった。
ティファが安心するまでは、俺の不在の時だけ…着けてもらうかもしれない」

そのかわり、なるべる早く帰るから。
そう決めて。
彼女は、とりあえず静かに頷いていた。

『クラウドさんは、……私の…』

ぽつり、と、彼女が呟いたが、
その後の言葉はいつまでも出てこなかった。

彼女の記憶に、きっと俺はいないんだと思う。

それで良かったと思う俺と、
それに痛む心とが、
俺の中で渦巻いていた。



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あきゅろす。
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