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無視できない寂しさ
ケリーに『誰?』と問われ、
これ以上失うものはないと思っていたクラウドは…唯一最後に残ってた希望まで奪われた気持ちになった。
過去を恨むばかりだったクラウド。
不甲斐なく弱かった幼少時。
あのセフィロスに憧れたこと。
新兵となっても、ソルジャーにはなれず。
ザックスには格の違いを感じ、羨み、憧れ。
故郷も、母も、護ることは出来なかった。
助けられるばかりだった親友すら、犠牲にして生き延びた。
あげくに、その親友になりきり…罪の意識から逃げて。
大事な女の子にまで、守られて…助けられなかった。
星のためと言いながら、セフィロスを倒して英雄扱いもされたけれど、
他に方法はなかったのか。本当に星のためだったのか。自分のためじゃないと胸を張って言えるのか?
その過程で、仲間を裏切り、星にダメージを負わせたのも、クラウドだ。
悔やむばかり。
生きている資格があるのか。
そんな思いばかり浮かぶクラウドにとって、過去の中で笑顔を見せてくれたケリーの存在は特別で、レノから生きていると聞いた時にどれ程の希望を感じたか。
彼女が生きてくれてさえいれば。
それだけで、過去のクラウドが(自分すら存在を消し去りたい)存在を許されている気がした。
彼女の中に、過去のクラウドが笑ってくれていたら良い。
そう思っていたのに。
『誰?』
そんな問いを訴えた彼女の瞳の中に、もうクラウドはいないのか。
自分だって、全て忘れて他人に成り代わって生きてたのを棚に上げて、ただただショックだった。
それどころか、彼女との思い出すら、その頃の自分が作り上げた幻だったのかもしれない、と全てが崩れ落ちる思いを知った。
だが、夜更けにティファと話して。
幻じゃない、と信じてみようと思えた。
きっと、思い出せば彼女はクラウドを恨むだろう。
憎しみを向けられるのが怖かったけれど、忘れられることのほうがずっと怖いと気がついた。
神羅時代のクラウドは、もうクラウドと彼女の中にしかいないから。
彼女に忘れられたなら、
もう、あの頃のクラウドを知る者はいなくなる。
あの、一番情けなくて、一番、楽しかった、時間が、消えてしまう。
「…………ぁ」
「起きた?気分は?…あの、どうですか?」
「…え、……ぁ、大丈夫、です、」
「痛みは?」
「平気、」
「……………俺のことは、わかりますか?」
「………クラウド……さん、」
「良かった。
少しでも何か食べれたら、食べてください。ティファが用意してます。
泉の水も、少し飲んでもらわないと。貴女は体の中まで星痕に冒されているみたいだから」
「はい」
「そしたら、治療のために…泉に行きます」
「よろしくお願いします…」
「ここで食べますか?それとも、下に降りますか?」
「……えと…」
「降りられたら、…ここにいる人間と、ここのことを紹介しますが」
「では…そうします」
「すぐ行けますか?」
「はい。……って、ちょ、え、」
「え?」
抱き上げて行こうとしたら慌てられて。
「だ、大丈夫!歩けます!」
「………はぁ」
歩けると言い張る彼女はベッドを降り、本当にゆっくり歩き始めたので様子を見てみたのだが。
「悪い」
「えっ、あの!」
数歩進んだところで後ろから問答無用とばかりに抱き上げた。
そのまま横抱きで廊下を進む。
「痛むのに、無理に歩くの禁止」
「でも、歩けます…」
「歩ければ痛くても何でもいいと?
そんなだから、治りが遅いんだ。
我慢禁止。無理禁止」
「我慢も無理も、私の問題…では?
我慢出来ない時はちゃんと言います」
「俺は、レノから貴女を任されている。無理も我慢も、俺が基準だ」
「………っ」
文句を言いたそうに、でも言えずに。
ふい、と顔を背けた彼女の頬は、少しだけ血色が良くなっていた。
そのまま、階下で食事をしながら、
改めて家族の紹介をした。
マリンもデンゼルも、彼女のことを素直に受け入れてくれて、彼女が無理に出歩いたり少しでも辛そうにしたらすぐに俺かティファに教えるようにと言い含めた。
「早く治りますように!」
マリンが彼女のために祈るのに、
微笑みながらお礼を言うケリーだったが。
その横顔は、何か寂しさを感じさせていた。
「着きました」
声をかけてから、教会の椅子にゆっくり降ろして座らせた。
すると、ゆっくりと自分で頭のフードを下ろすケリー。
教会までの道のりを、やはりクラウドは自力で歩かせるつもりはなくて。
しかし、せめて街中はなんとかしてくれ恥ずかしい、と散々駄々をこねた彼女。
抵抗出来ないのを良いことに、実力行使だとそのまま店を出ようとしたクラウドに、見かねたらしいティファがせめて、と彼女が前に着ていたローブを持って来たのだった。
レノに抱かれて来た最初のように長いローブに包まれ、フードで顔を隠し、ここまでやって来た。
彼女には言わなかったが、意識がない時はそのまま横抱きで来ていたし、近所の人はもう彼女が治療のためにクラウドに預けられていることもほぼほぼ知っている。
ローブで覆われている方が逆に目立っているのだが…まぁ本人がこれでいいなら良いのかもしれない。
「………っ、ここ、」
「教会だ。ここの泉のことは?」
「え?、はい、…知ってました。
花の咲く教会の中、星痕病をあっという間に治した奇跡の泉、と」
「知っていたのに、一度もここに来ないで、そこまで酷い状態になるまで放っておいた?」
「……そのせいで貴方がたに迷惑かけてしまったのは、申し訳ないと思っています」
「それは別に関係ない。仕事だから」
「それでも、よ。
私の世話のせいで、他のお仕事出来ないんじゃ?」
「俺の仕事を知ってるのか?」
「デンゼル君に聞いたわ。貴方に憧れてるって」
「デンゼル…。
いや、もともとそんなに仕事もないし」
「後、…そうね、一週間もいれば、良くなるから。
そしたら、出ていける」
「出ていってどうする?その痣は…一週間なんかじゃ絶対治らない。
ただでさえ、…貴女の星痕は治りが遅いんだ」
「自分でここに通って、治療を続けたら良いんでしょう?そのくらい…」
「そうか。
ここのことを知っていて、それでも限界まで治そうとしなかった貴女が急に自ら泉に毎日足を運ぶと、それを信じろと?」
「ええ」
「悪いが、俺が良いというまで居てもらう。
全ての星痕が消えるまで…とは言わないが、完治する兆しが見えるまでは駄目だ」
「そんなの、…貴方のご迷惑になるだけで…」
「迷惑だと思ったことはない」
「それは、私のことを、貴方が良く…知らないから…」
「…………………さぁな。
知らないかも、しれないが。
今、君が辛いのに無理し始めている、というのは知っている」
「無理なんて」
「してない?本当に?
意識戻ったのが昨日で、朝から起きて、食べて、人と話して、ここまで来て。
もう、疲れたんだろ?当たり前だ。
嘘つく必要ないんじゃないか?」
「…………私、そんなに信用ない?」
「残念ながら。
俺は君を療養させるのが仕事だ。
君は気にせず『疲れた。少し寝る』それだけ言えば良い」
「………泉の、治療もあるのに…」
「そうだな。だが、寝てた方が良いんじゃないか?」
「え?」
「こうして、」
ローブを脱いだ彼女をまた腕に抱えて泉に向かう。
「泉に浸かる間はこのまま我慢してもらわないと、だから」
横抱きにすると、ケリーはとても恥ずかしいらしい。
クラウドとしてはもう今さらなんだが、意識がなかった間のことだから仕方がないだろうか。
さすがに、水の中に入るとクラウドにしがみつくように力が入った。
「俺、これでもソルジャーだから、安心してもらって良い。落としたりしないよ。
寝られたら、寝てくれ」
「………ん…」
やはり、限界ではあったのだろう。
泉に入って安定した頃には、眠ってしまったようだった。
寝ている間に、出来ればセブンスヘブンまで戻ってあげられれば、と思うクラウドだった。
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