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不安の夜


ザックスがケリーと笑い合って、焼き肉をつついている。
あ、ケリーから生焼けだって怒られた。
全く。相変わらずなんだからなぁ。

「ザックス、ケリー、ごめん遅れた!」

「お、クラウド!」

『…え……誰?』



「う、うぁっ!!」



は、は、と自分の息が煩い。

見回しても、いつも通りの室内。

彼女が意識を戻した後、クラウドは下の店のソファで寝ることにしていた。


「くそ、」

『誰?』不思議そうに問う、彼女の眼が、怖くて仕方がない。


「……クラウド、まだ起きてたの?」

「…ティファ」

降りてきたティファが一つだけ灯りをつけてキッチンに入る。

「私もちょっと眠れなくて。お茶でも飲もうかなって。クラウドのも淹れるね」

「………ああ」

情けないなと思うも、平静を装う余裕はなかった。

「……クラウド、そろそろあの人のこと、教えてくれない?」

「………………」

「大事な人なんじゃないの?」

「……さぁ、どうかな」

「クラウド?」

「彼女は、…ザックスの大切な人だった」

「………ザックスの、……」

「俺も、…知り合いのはずだったんだが…。わからないな」

「わからない?そんなことないんじゃ…」

はい、どうぞ、と優しい香りのするマグカップをテーブルに置いてくれた。

「わからないだろ?
俺はずっと、自分をザックスだと思い込んでた。……ザックスの大切な人を自分の、と勘違いしてるのかもしれない」

組んだ手に顔を押し付けて息を吐く。

『クラウド、』
『クラウド!』

はにかんで嬉しそうに名を呼んでくれたのは、幻だった?

『私も、…クラウドが好き!』

もう会うことはなくても、幸せな思い出になれば良いと…そう思っていたのに。思い出すら、幻だった?


「だから、よ。
私は、彼女の過去を知らないから、混同することもないし、クラウドが知ってることを、クラウドが自分の思い出をそのまま話してくれたらいい。
どこか変だったら教えてあげられると思うんだけどな?」

「…………」

「だって、ずるいと思う。
クラウドもレノも、……あの人が来てから私の見たことない顔をする。
私ばっかり何もわからなくて、…どーせ私は気紛れにからかわれてただけなんだなって…ほんっと何なのよあいつ!あんな本命の、綺麗な大事な人がいるのにチャラチャラして!頭にくる!
あんなにイチャイチャベタベタしといて恋人じゃないとか、有り得ないわよね?
何、いつも飄々とトボけてるくせに、あの甘ったるい台詞!」

「て、ティファ?」

「あ、ごめん。えっと、なんかね?
そうそう、本題ね。
あの軽薄なレノにあんな優しい顔させたり、昔のクラウドが素直に大事な人だって思うような人、一体どんな人だったのかなって」

「……っ、はは、そうだよな。
本当に、すごい人だった。
だけど、俺が知ってるケリーは、彼女のほんの一部でしかないから…レノや、セフィロスとの関係までは、よくは知らないんだ」

「セフィロス…も?」

「俺には、セフィロスの秘書だって言ってた。
本当はセフィロスの担当タークスってことだったんだろうけど。
俺達がニブルに任務で来るまでの半年くらいは科学部門に異動してたから…たぶん接点はなくなってたと思う。
セフィロスと彼女の絆は…ザックスですら入り込めない感じ、みたいだったな」

「ちょっと待って?彼女はセフィロスの…その、恋人だったってこと?」

「うーん、…そういう感情はないって言ってたけど。本心まではわからない。
でも、恋人ではなかったかな」

じ、と。報道の画面の中のセフィロスを見詰める彼女の横顔を思い出す。
あれは、付き合い始めてしばらくして。たぶん彼女が異動してセフィロスに会わなくなって数ヵ月くらい経ってた頃。
真剣な表情で、感じたのは寂しさとかじゃなかった。
信じ切っていたような。
嫉妬したような気もするけど、クラウドはもともとセフィロスに憧れていたから、セフィロスを目指せば、ソルジャーになれば、ザックスやセフィロスと同じように信頼してもらえると信じていた。

「ザックスは?」

「ザックスも、かな。
恋人ってより、兄弟とかそんな感じだったのかな…。
ザックスには…もしかしたらそんな気持ちもあったかもしれないけど…」

「女の子タラシだしね?」

「うーん、そういうのともちょっと違うような…。
…俺も、一回ザックスとケリーが付き合えばザックスの女癖も直るし、続くんじゃないかなって言ったことあるんだけど。
二人とも冗談だろって笑ってて。
ザックスがケリーを口説かなかった理由は、嫌われたくないって思ったからだって言ってたな」

いつの間にか、お茶のマグカップ手を伸ばせる余裕が生まれていた。

「仲間、って感じだったのかな…。
大事な、命を共にする、仲間。
私も、…ちょっとわかる気がする」

「…うん、…今なら、俺も」

星を救う戦いで、俺もティファも、大事な仲間を得た。
喧嘩もして、裏切って、死にかけて、でも、救われてきた。
背中を預けて、護り、護られる仲間の存在がどんなものか。
今なら、理解出来る。

「レノの話は残念ながらあんまり聞いたことなかったけど、もともとザックスとレノは仲が良かったから、ケリーとも繋がってておかしくはないだろうな」

「へ?あ、別にレノのこと聞いた訳じゃないから!」

「そういうことにしとくよ」

「クラウド!」

養成所出身の悪友って言ってた二人だ。彼女も養成所出身だった。
タークスの枷で公に出来ないだけで、レノもまた彼女の大事な仲間の一人だったんだろう。
こうして思えば、彼女のことをクラウドは半分も知らなかったんだ。

「それで?」

「ん?」

「クラウドとあの人のこと、教えてもらってないよ」

「俺?」

「うん」

「…………ただ、初めて会った時からずっと、俺が一方的に憧れてただけだよ」

「それだけ?」

「いつか、ソルジャーになって対等になりたい。
いつか、ザックスやセフィロスみたいに彼女を護れるだけ強くなりたい。
……そう思ってて、…実際は護ってもらうしか出来なかった一般兵だ」

「ふーん?」

「俺は、彼女の仲間じゃなかったし、それだけの絆も…作れないまま、
彼女の大切なものを全て壊した男だから」

「ザックスと…セフィロスのことを言ってるなら…、その罪はクラウドだけのものじゃない。それは何度も言っているわよね?」

「わかってる」

「ならいいけど。
……でも、話してくれてありがと。
クラウドがあの人を大事な訳がわかったわ。
あとね、あの後、レノに確認とったの。
彼女とクラウド、ちゃんと出会ってるわよ。彼女とレノ、クラウドのことについて会話したことあるって。友人だって、言ってたって。
惚けてるのか、それとも、…記憶がないのかのどちらかだろうって」

「……そうか、」

「最近、星痕病の影響で昏睡していて…昔の記憶と今がぐちゃぐちゃになっている可能性と、彼女からは基準以上の魔晄成分が出ていること。一般なら魔晄中毒で廃人レベルの、ね。その影響が病と重なって出てきた可能性もあるし。
後、…自分を守るために、クラウドのことだけ忘れたのかもしれないって」

「…………」

「どっちにしても、クラウドとあの人の思い出は確かに存在したのよ。
だから、安心して。
クラウドだって全部思い出したんだもの。
あの人だって、病治ったら、記憶も全部思い出すわ」


「…うん、…ありがとうティファ」

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あきゅろす。
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