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過去の予感



「助かった。ありがとう」

「いいわ。……でも、あの人、本当にクラウドの部屋に置いておくの?」

「…………レノに頼まれたんだ」

「お仕事、なの?」

「まぁ…そんなところだ。
完治するまで責任がある」

「だからって、あんな…誰かもわからない人…」

「…………………昔の、……知り合いなんだ。…だから、大丈夫だ」

「……なら、看病なら私がするわよ?」

「いや。大丈夫だ。…頼まれたからな」

「………そう…」

「あ、」

「何?」

「……着替え、とか、頼むと思うんだが…構わないか?」

「ふふっ、はいはい。任せて!」

「助かる」

「いいのよ。
あの人を…助けたいのね?」

「………ああ」

「なら、任せて!
………私だって、あんな状態の人ほっとけない。
着替えさせる時に見たけど、酷い痣だった。
とっても時間がかかると思う。
星痕…体の中まで…きっと…」

「……うん…」

「明日はあの服のまま泉の中に入って良いから。
帰ってきたら、また着替えさせるから言って」

「わかった」

「で。…クラウドは、今日はどこで寝るの?」

「えっ!?…いやっ、もちろん、椅子で、だな…!」

「え?椅子?」

「お、同じ部屋っておかしいか?まずいかな?
でも、痛みで苦しむから、泉の水で拭いてやったりしないと…飲めるなら、少しだけでも飲ませたいし…。
全く変なつもりはない!看病だけだから!ほら、えと、レノも今日見たとき酷い隈で酷い顔で…たぶん連夜看病してたんだと思うんだ。だから、夜もついててやらないとかな?って思って…ほんとそんなつもりは全く!」

「なーに慌ててんのよ。
大丈夫よ。クラウドのこと、そういう意味では心配してないから」

「………そ、そうか…?」

「でも。…そんなに慌てるのは、珍しいかなー?」

「は?」

「なんでもない!
もし、彼女が起きて、何か食べれそうなら言って。作るから」

「ありがとう」

「それから。
いい?この人がクラウドの大事な人なら、なおさら!クラウドが無茶して体を壊すなんて駄目だからね!?」

「あ、ああ、わかってるよ」

「ほんとかなぁ?
クラウド、私だっているんだから、徹夜も程々に、ね?
クラウドの大事な人なら、私にとっても大事な人だよ」

「ありがとう。…っていや、本当にそういうんじゃないんだ!
レノに頼まれて…それで!」

そう。
ただ、頼まれたからだ。

ただ、見ていられないからだ。
苦しむ、この人を。


袖のない服に着替えさせたため、
彼女の両腕が見えていた。

右は昔と変わらず真っ白で。
相変わらず、任務で付いたらしい傷痕があって。

そんな彼女の左腕は、真っ黒に見えるほど痣で覆われていた。



それから。

朦朧とする彼女に、なんとか泉の水を飲ませたり、毎日抱き抱えて泉に浸からせたりしたのだが。
4日間、彼女が目を覚ますことはなかった。

その間に、一度だけレノが顔を出した。
時おり呻くが、眠り続ける彼女の様子に、少し安堵したように見えた。


「よかった。…指の先…痣が薄くなってきてるな、と。……ほんの少しだが。
腕も、少し薄まったか?…気のせいか…。
……………眠れてるんだな、と」

「眠りっぱなしなんだ。
目を覚まさない」

「今までずっと、痛みで眠れてなかったみたいなんだぞ、と。
意識が無くなって初めて眠ったと言えるような状態で。
眠れているなら、安心だな、と」

「どうして、ほっといた」

「……………お前は、コイツの呻くの、聞いたことあるか?」

「……呻く?…何かの言葉を、ってことか?」

「あーいや?なんでもないさ。
…まぁ、こんな状態だしな、と。
とにかく、早く目を覚ましてくれないとな、と!
んじゃ、またよろしくー!」

「ちょ、レノ!」


レノの言う通り、彼女の指の先が治ってきていた。
昔よりも、ずっとずっと、細い腕。
真っ白だったのに。今は、黒に近い、痣が覆っている片腕。

『………傷痕だらけで、嫌になる』

彼女は人に肌を見せるのが嫌いだった。
いつだか、その理由を教えてくれた。
彼女は優秀なタークスだった。
その戦歴の証が、彼女の体に残る傷痕なのだと。

必ず帰還する。

その為の代償だと思えば、仕方がないと思え…それと同時に、私の罪を表すものでもあって。罪の印で、それでも仲間のもとに帰還し続けた証でもある。
自分にとっては戒めと誇りであるが、どうしても他人に見せたいものではない。と、彼女はそんな風に言っていた。


彼女が行ってきたことを示す傷。
彼女が奪ってきた命の数。

彼女がこれまでどれだけの死線を越えてきたのか。


あの頃のクラウドにはわからなかった。
わかりたかったのに。

今のクラウドならわかる。
わからないままの方が良かったのかもしれないってことも。


もう、見て見ぬ振りは出来ないのか。



彼女の罪も誇りも、痣の中で見えなくなっていた。


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あきゅろす。
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