だいじょーぶはおまじない
このんはドリンクとタオルをひよこリュックパンパンに詰めて運んだ。
今ほとんどが試合中のためコート近くのテントにある机に置いていく。
桃百合はコートに近いベンチに座って日吉対赤也を応援していた。
桃百合が黄色い声を上げるたびにコートの２人や近くにいた者は眉をよせていたが…
柳生「おや、暁来さんお疲れ様です。
そのひよこリュックで持ったこられたのですか？」
「やぎゅー先輩、お疲れです。
あい、カゴは重たくて運べないから…ひよこちゃんに入れてきたのです」
ちょうどひよこリュックからドリンクボトルを取り出しているところを柳生が見かけ、尋ねる。
このんは間を空けず肯定を示す。
柳生・仁王は宍戸・鳳とダブルス戦をしていた。
４人ともいい汗をかいている。
このんはふわふわなタオルを４人に配ってからドリンクボトルも差し出した。
「あせ、かいたままダメです…におー先輩。」
そう言えば仁王はニヒルな笑みを浮かべ、タオルを受け取った。
それからコート脇にいる姫華に目を向けた。
仁「あの女、仕事しちょらんじゃろ。
応援なんてもんは応援団やチアリーダーやファンクラブぐらいがすればいいぜよ…」
宍「あ、そういえばそっちってファンクラブはお前ら公認済みか？」
柳生「えぇ、
立海は厳しいですからね。ファンクラブが無駄な応援や偵察などを注意してくださってます」
柔らかい笑みを浮かべ、いつも助かってます。と言う柳生に鳳も笑顔を浮かべる。
鳳「うちも公認済みなんです。
ファンクラブというより、親衛隊だと言ってましたけど。」
４人で少し話していればまた氷帝ダブルスコンビが呼ばれた。
四天のラブルスとのようだ。
宍戸が金色に猛アピールを受けて顔が引き吊っていた。
「ひとうじ先輩ジェラってる…です」
柳生「ジェラってるとは…？」
「ジェラシー剥き出しって意味…らしい、です」
クラスのケンゾーくんが言ってた…です、と一氏を見ながらタオルを回収するこのん。
仁「ほぉー、ケンゾーくんとやらはよう知っとるのぅ。
でもちびっ子が使うのは似合わんぜよ。」
ポンポンと軽くこのんの頭を叩いてから仁王と柳生呼ばれたのかコートに入っていった。
他の試合の様子を見て、まだしばらくかかりそうだと考え、一度使用済みのタオルやドリンクボトルを洗いに行くことにした。
途中で姫華を小屋に戻ることを伝えたが彼女は相変わらず応援に頭がいっているようでこのんのことを無視した。
なので仕方ないと一人小屋に戻っていった。
「……応援、仕事じゃないのに…」
小屋に帰って流しにある椅子に立ちながらチラッと窓の外をみる。
部員たちの苛立ちがプレイによって目に見えている。
自分がなんとかしないといけないとわかったいても、先ほどのようにワケのわからない言葉をまた浴びなければいけないと考えると気が引ける。
「……ろくでなし…」
ボトルを洗いながら下唇を噛む。
呟いた言葉は、小学生の頃、イジメられていた時に言われた言葉だった。
日吉のおかげでもうイジメられることはないが、その一言だけが今も頭に残っている。
小さい溜め息が漏れた。
日「―阿呆、
また気弱になってるのか」
後ろから日吉の声が聞こえ、このんは振り向いた。
「…ひよしくん……
…ひよしくん、ひよしくん…試合は…？」
日「終わった。
…またバカみたいに考えてんだろ。」
呆れたような、どこか心配そうな表情で日吉は言った。
このんは小さく眉を下げながら頷いた。
「バカみたい、よけー」
日「バカみたいに、だろ。
あの人に何言われたか知らないが、気にする必要はない。」
お前のことだから気にしてないだろうがな、と日吉はこのんの頭を軽く撫でた。
このんは目をパチクリさせていたが、ヘニャリと笑った。
「わかしくんに頭撫でてもらうと、だいじょーぶな気がするの…。
ありがとー」
猫のように日吉の手に擦り寄る。
日吉の表情も少し柔らかいものだった。
が
桃百合「若ぃ〜、どこぉ〜？
次薫と試合なのにぃ」
桃百合が自分を探しているのに気づいて日吉は顔をしかめた。
試合があるのだからさっさといかねばいけないだろう。
日「…俺は試合に戻る。
とにかく、あの人の言葉を気にするな。
それと、一応警戒だけはしていろ。わかったな？」
「…あい。ふぁいと〜、ひよしくん。」
日「あぁ」
姫華が小屋の近くからいなくなってから日吉は出て行った。
残ったこのんはぼんやり日吉が出て行ったドアを見ていたがすぐに出来たドリンクと乾いたタオルをひよこリュックに詰めてテントに走って行った。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ…
がんばれるよ……ね、ピーちゃん。」
走りながらひよこリュックに笑いかけた。
ひよこの形をしたお気に入りリュックも大丈夫だと言ってくれている気がした。
テントに戻って癒やしを求めた財前に抱きつかれるまであと２０秒…
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