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呪いモノ語り
夜会議
 あの後、並盛の七不思議を知っているか訊ねてみたがそれは知らねぇなぁと、江戸っ子っぽく返答された。
 そして、この話は山本にしないことと、川べりに近づけさせないようにしてくれと綱吉と獄寺に剛は頭を下げた。更に賄賂として寿司を無料提供され、獄寺はとにかく高い寿司ネタを漁って食べるのだった。
 何故盆前でもないのに水辺には近づかないように言われたのかの疑問は解決だ。確かにそんなことがあれば親父さんはトラウマものだ。
 山本には特にどんな話をしていたのかは聞かないで見送られたが…――その夜。綱吉は獄寺と携帯電話を使用して口裏合わせを行うことにした。

「でも、どうやって誤魔化そう? それらしいことって…何か有るかなぁ…」
『そのまま言っちまって良いんじゃないですか』
「獄寺君。秘密にしてって言われたよね?」
『寿司って言う賄賂も貰いました』

 自覚してるのに獄寺君は…――。

『あいつ馬鹿ですし、要点省けば大丈夫ですよ。あいつ、自分で「昔、川にずんずん潜って行ったことがある」って笑って言ってたじゃないですか』
「た、確かに…」

 ごろんとベッドに横たわる。いつものように、荒れ放題の部屋はゲーム機と漫画だらけだ。

『それがあったのが珠贈り前だって言えば、あのアホは信じます。任せてください』

 電話越しだけど、良い笑顔が見えるよ獄寺君。ぐっと握り拳を作って親指を立てているんだろう。
 しかし、それで心配していたことが1つ解決して、小さく笑みが溢れる。ベッドの上に仰向けになって、つい彼の名前を呼んだ。

「雲雀さんに恨みを抱いてる人って誰なんだろう…」
『そうですね…――アイツは誰にでも恨まれそうな奴ですからねぇ』

 笑えない。まさにその通りだ。

『明日、草壁の野郎に面会できるか聞いてみて、行けそうだったら行ってみますか?』
「…獄寺君?」

 そんな提案が、受話器の向こうからされた。

『どんぐらいヘロヘロになってるのか見てみたいですしね』
「獄寺君!」
『マジですよ』

 そう答えた獄寺の声は低くなっていた。真剣にそう思っているようだ。しかし、それは嘲りではないことが分かる。

『もしかしたら、オレなら探せるかもしれないですから』
「! それって…!」

 驚愕的な告白に口を開けて間もなく、獄寺は『この鼻ですよ』と続けた。

『この前、十代目を探しに行った時に雲雀の野郎がオレの嗅覚を頼って来たんです。それに、古文では犬の嗅覚で呪物を発見している話があったでしょう?』
「…―――――あった気がする」

 うん。教科書で見た気がする。安倍晴明も出ていたような。
 犬が門の前に埋められていた呪いの皿を探しあててワンワン吠えたのだ。
 それにしても、雲雀が頼ってきたと言うのも驚きだ。雲雀ならツンとした顔で、誰にも何も詳しく言わずにことなきを得ようとするはずだ。誰かに手を借りるなんて死んでもいやだと言うであろう彼。

 ――…そうだ。

 『その雲雀』が、『頼った』のだ。

 ぱっと、視界が明るくなる。

「獄寺君!」
『はい。やってみる価値はあると思います!』

 元気の明るい声音が帰ってくる。
 もしかしたら少しでも近づけるかもしれない。
そして、犯人も…――!

 今すぐにでも飛び出して行きたい気分だ。その気分が綱吉の身体を起こす。

『今すぐ行ってみますか?』

 とても魅力的な申し出だ。しかし獄寺の苦労が増えるので「明日で良いよ」と胸の内に留める。もう夜の9時だ。生憎病院も閉まっている。今時の子はまだ活動時間だが明日に備えて貰おう。
 例え草壁がまだ面会謝絶を解除していないと言っても、ドア壊して入って行ってしまえば良い。俺ならそれぐらいやれる。そんな横暴な策が雲雀の思考と似ているとは露とも気付かずに、綱吉はウキウキと「ありがとう!」と声を張り上げた。

『それでは、また明日』
「うん。また明日!」

 ぷち、と終了ボタンを押して枕に抱き付きながらまたベッドに沈んだ。
 期待が溢れて笑みを浮かべていると、どかん、と荒々しくドアを開けたリボーンが入ってきた。水玉模様のプリティーな寝間着になっている。

「何だ。嬉しそうだな」
「もしかしたら、雲雀さんに呪いをかけてる犯人を見つけられるかもしれないんだ!」
「そうか」

 器用に散かっている物を飛び越えて、テーブルの丁度空いている場所に座りこむリボーンにそう言った。

「もしかしたら、見つからなかったりしてな」
「嫌なこと言うなよ! さ、最低見つからなくても、何か手掛かりは…――」
「見つかると良いな」

 リボーンはそう言って、「ところで」と呟く。

「マーモンが滅茶苦茶文句言って、お前の貯金箱から金取って行ったぞ」
「はぁ?! 何、それ?!」

 リボーンはニヤリと笑って。

「ちょ! ウソだろ?! 貯金箱って…!」
「しけてんなって言ってたぞ」
「当たり前だろ!!」

 ベッドから飛び出して、デスクの上に乗っているポスト型の貯金箱。引っ掴んだ瞬間に、既に重みがない。振ってみると小銭の音もしない。それに栓をしている底をぽん、と外す。

 空だった。

「マーモンっ!!」
「なぁ。オレが聞いた話では『いつひとさん』ってのは、その人間の『願望』を映すんだろ?」
「そうだけど! それがどうしたんだよ!!」

 折角、新しいゲーム買う為に溜めてたお金が!

「試しにマーモンがやってみたって言ってたぞ」
「えぇ?! やったの?!」
「幻術があるからな。見つからずにやるのは簡単だ。でも無反応だったと」
「じゃあ、失敗したってことか…」

 よかった、と思ったのも束の間。すぐに沸々とお金を取られた理不尽さに怒りが沸き上がってきた。

「そんなの八つ当たりじゃんか!」
「いや。オレはそうは思わねぇ」

 リボーンはそう言って、綱吉を見やる。

「あいつはアルコバレーノの中で断トツの強欲だ。強欲な奴が、やっすい願望を持ってるわけがねぇ」
「でも、将来の夢を見たいだけだったら別だって言ったじゃん」
「いや。あいつは誰よりも『将来』を見据えてる奴だ。寧ろ将来と言う『夢』を見てる…――」

 リボーンは、その小さな背中を丸めた。

「オレ達アルコバレーノの中で、あいつは誰よりも『未来に期待してる奴』だ。そんな奴が失敗するとは思えねぇ」

 リボーンが…言い切った…――。
 え。何だろう。だったら何かおかしい気がする。
 自分はマーモンのことをあまり知らないからああ言ったモノの…――リボーンは知人の人格についてよく把握している。そして見抜く能力にも長けている。
 将来に期待する、なんて今の自分でもあんまりできないもの。それを、マーモンは出来るのか。
 ごとん、と貯金箱を置いて何となく天井を見上げる。
 リボーンはぴょん、と跳ねてぶら下がっているハンモックに飛び乗った。

「だったら…おかしいなぁ…――何でだろう?」
「だろ? だからあげた」
「だからってオレのやることないだろ!」
「すぴー」
「寝たっ! 早っ!」

 もう、と綱吉は天井にぶら下がっている照明を引っ張って消す。
 例えそんな理由でお金を取られるなんて、腹立たしさしが相殺されるわけないじゃんか! 
 しかし怒りのぶつけどころであるリボーンはお休みだ。寝たらがっくんがっくん揺らしても起きない。普通、思いっきり揺らしたら起きるものだが。
 ベッドに潜りこみながら、リボーンの顔に油性マジックで悪戯書きしてやろうかと目論む。秋の夜は夏と比べて涼しい。薄い布団を被って、綱吉は心中でありったけの悪口を吐いたが…――あまりにも腹が立って、上手く眠れないのだった。


∞∞∞


 上手く眠れなかった結果が、コレだ。

「行って来ますっ!!」

 「お弁当忘れてるわよ〜」と奈々の声を聞いて綱吉は玄関から慌ててUターンして台所に戻る。お弁当を引っ掴み、今度こそ家を飛び出した。
 晴れ渡った空。しかし、朝方雨が降ったのか路面は濡れていた。水溜りを踏みつけて、水を撒き散らす。

「早く寝たのにな」
「大事なお金渡すから、腹が立って眠れなかったんだ!!」

 全力疾走中の横を悠々とついて来るリボーンは塀の上からついてくる。

「そういやぁ、獄寺どうした?」
「獄寺君? 獄寺君が…――」

 あれ…。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、と速度を緩めて綱吉は立ち止まった。家が見えるわけではないが後ろを見やる。

「来てない…?」

 どうしたんだろう。いつもなら来てるのに。
 この前の、『いつひとさん』の時みたいに…――。

 警鐘が、頭の中で鳴り響く。

 黄色い携帯電話を引っ張り出して、慌てて操作する。この前ちゃんと覚えたやり方で電話帳を検索して、獄寺へと繋げた。

 プルルルル、と単調な電子音。

 プルルルル。
 プルルルル。
 プルルルル。

 獄寺も、まだ寝ているんだろうか。
 そんな訳ないとは言い切れないが、不安が募る。
 どうした、とリボーンが戻ってきて塀の上から見下ろしてくる。

「ご、獄寺君が電話に出ないんだ」
「いつでもすぐに出てくれるのは草壁ぐらいだと思え」
「それは分かってるけど…」

 プルルルル。
 プルルルル。
 プルルルル。

 耳朶を打つ発信音に、胸騒ぎがする。
 眠ってるだけだよね…?
 片手で押さえていた携帯電話を両手に持つ。

 早く出て! 獄寺君!

 プルルルル。
 プルルルル。
 プルル。

 出た!

「獄寺君! オレ! 沢田綱吉!!」

 あ、と次に聞こえてきたのは…――妙な、呼吸音。
 ひゅー、ひゅーと、息も絶え絶えのような、そんな音。

「獄寺君…? 獄寺君! ねぇ、返事して!!」

 すると、また「あ」と途切れた声。断続的に聞こえてくるのは荒い、呼吸音。
 おかしい。いくらなんでも、こんなに辛そうなのはおかしい!
 もう一度声をかけようとした矢先、次は「すみ」。

「すみ?! な、何か有ったの?! また知らない人に押し掛けられたの?!」
「貸せ、ツナ」

 塀から飛び降りると同時に綱吉から携帯を奪い取ったリボーンは、路上に着地して大きな携帯電話を両手で支える。
 不安をどんどん膨らませながら、動かないリボーンの横に膝をつく。

 息が詰まって、どんな容態なのか確認したい焦りが一瞬喉の奥に引っ込んだ。しかし、それでもじわじわと身体を支配して行く。
 リボーンは特に何も言わなかったが、最後に「そこに居ろ」と言って携帯電話をぷつりと切ってしまった。

「リボーン! 獄寺君は?!」
「部屋にはいる。ただ無事の確率は相当低い」
「なっ…! ま、また誰かが押し入ったってこと?!」
「それは分からねぇ。が、情けねぇ面曝してる場合じゃねぇ」

 リボーンは綱吉に携帯電話を返すと、垂れた眉の間に皺を寄せた。

「至急、シャマルと連絡取れ。獄寺の部屋に行かせろ。お前は学校行け」
「やだ! オレも獄寺君の家に…――」
「さっさとやれ。連絡はこっちから入れる!」
「もうシャマルに繋げてる!!」

 操作は終わって、苛々と耳に電話を当てる。

「獄寺に奇襲があったら、お前は了平と山本を呼びだして授業サボって固まってろ。良いな?」
「もし違ったら?」

 …――って、違うわけないじゃんか!

 リボーンはむっすりとした顔で見上げて。

「テメェで考えろ」

 リボーンはそう言って、再び塀の上に戻ると「行って来る」と近くの木の中に突っ込んでいってしまった。
 綱吉は未だ出てこないあの変態ドスケベ校医を呼びだすことに専念しながら、再び綱吉は学校へ向かって走り出した。

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あきゅろす。
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