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呪いモノ語り
連絡
 握っていた携帯電話が突如揺れ始めた。
 慌てて背面ディスプレイを確認すると、シャマルからだった。

 ――遅いよぉっ!

 綱吉は机からガタンと立ち上がってポケットに携帯電話を突っ込んだ。そして「トイレに行って来ます!」と教師の承諾なんぞ取らずして教室から飛び出した。
 リボーンの指示通り、学校に向かい(遅刻したが)待っていたのだが、かれこれ連絡を待っていたら授業が2つも終わってしまったのだ。
 今朝、すぐに自分の顔が真っ青なのに気づいて、山本はどうかしたのか聞いて来てくれたが、まだよく分からないと濁して伝えると彼は納得してくれた。その後に獄寺が来ていないことにも気づいてくれたので、それも後で必ず教えると言っておいた。
 吉報であれば良いと淡い期待を抱いてトイレに逃げ込む。一室に飛び込んで、籠った。

「シャマル! 獄寺君、どうだった?!」

 耳に当てた携帯から、返事がない。
 何でもなければ、すぐにヘラヘラした声が聞けそうなのに…――。

 やっぱり、誰かに襲われて…!

 すると電話の奥から「代われ」とリボーンの一言。さらにシャマルに獄寺を見に行くよう指示を出して、『オレだ』とリボーン。

『獄寺なら襲われてなかったぞ』
「ほ、本当?!」
『とりあえず、高熱でぶっ倒れてたみてぇだ』
「こ、高熱…?! でも、何で?!」

 まさか、お寿司高価なもの食べ過ぎたせい?! 神様から天罰?! でも、何気に酷いな!! 良いじゃんか高いお寿司食べたって…――。

『医者からの診断は今のところ『原因不明』だ』

「原因、不明…」

 『原因不明』って…それ…。

 一瞬力が抜けて握っていた携帯電話が滑り落ちる。手から抜けて我に帰り、落下する携帯電話を捕まえた。
 一気に肌から火照りが抜け出して、身体がぶるりと震えた。血の気が引いて行く。

『今から精密検査するそうだ。それで分かるかもしれねぇ。まずはお前の勘が当たってたことだけ言っておいてやる。詳しい検査結果もあとで伝える。んまぁ、安心しろ』


 彼の声に、綱吉は唇を引き結んだ。


 それ! 雲雀さんと『同じ』じゃん…!


『ツナ。どうした?』

 その問いかけに、口から「あ…」と小さく零れる。意味もなく当てる耳をかえ、ごくりと唾液を飲み込んだ。

「リボーン…――オレ、午後の授業サボる。そっちに、行く。並盛中央病院だよね?」
『わざわざサボってくんじゃねぇ。ただでさえダメダメから漸く一個ダメが取れたぐらいなんだから…――』
「リボーンに、話したいことがある…――」

 電話越しの家庭教師は一瞬沈黙したが、「わかった」と一言。

『怪異絡みだな』
「うん…」
『お前が最近、ゲームより真面目に取り組んでるのはそれぐらいだからな』
「取り組んでないよ!」
『言ったからには逃げ出すんじゃねぇぞ。逃げたらぶっ放す』

 いつでも彼らしいリボーンに、自然と笑みが零れる。うん、と頷いて綱吉は電話を切った。個室の鍵を解放し、綱吉は扉を開け。

 ごつ。

 何かに、引っ掛かった。
 扉は少ししか開かなくて、出られない。まさかこんな所で運の悪さを発揮か。

「あ、悪ぃ」
「山本?! いつの間に?!」
「うーん。小僧に話があるって言ったぐらいからかな」

 山本がドアを開けて、漸く綱吉は個室から出ることが出来た。

「何か分かったのか?」
「うん…――えっと、獄寺君が今日休んだ理由なんだけど…『原因不明』の高熱だって…これから、精密検査するって言ってたけど…」

 そうか、と山本が眉を寄せた。

「今朝から顔色悪かったのは、その所為か…」
「うん…――いっつも迎えに来てくれるのに居なくって、それで連絡したら苦しそうだったんだ。それからシャマルとリボーンに獄寺君の所に行ってもらってオレは学校来たんだけど…」

 頭を過るのは、『原因不明』という言葉。
 雲雀も同じ症状で今、苦しんでいる。
 やっぱり、『呪い文』が原因なんだろうか…――。

「山本…オレ。授業サボって九先輩に会ってくる。あと、午後は早退するから」
「獄寺の所に行って来るんだな?」
「うん…――会えるかどうか分からないけど…」
「オレも行くぜ」
「でも…」
「昨日、おいて行くなって言ったじゃんか」

 な、と山本がぽんと肩を叩いてくれる。にっこりと人懐っこい笑みを浮かべて。
 何となく安心できるその笑みに、複雑な思いを抱きながらしっかり頷く。

「九先輩の所に、行ってみよう」
「そうだな。あの先輩、詳しそうだし」

 呪われているんだろうなと、ぽつりと言い放ったあの九斑。
 いつもは雲雀に頼っていたが…――今回は彼に力を貸してもらおう。
 でも、貸して貰うだけだ。頼っちゃいけない。頼ってばかりは嫌だ。そして駄目だ。
 自分で辿りつかなくちゃ…――。

 それは、頼りの雲雀が居ないからじゃない。自分がそうしたいから。

 何時ものように、何も知らないまま並盛神社で迷った。
 それに…──激しい後悔を覚えた。
 如何に雲雀に頼ってばかりだったかが分かって…──しかも、並盛神社から帰ってきてすぐに彼が呪われた。

 今も解決の手段は見えずに、こうして手をこまねいている。
 きっと雲雀のように知識があれば、こんな所で右往左往していないで早くに動けたかもしれない。
 雲雀は既に高熱を出して食事もままならない。弱っていく一方だ。
 それが、獄寺にも降りかかっている。

 それって、かつてないほど、『時間』がないんじゃないんだろうか?

 じゃあ、急がなきゃ二人共…!

 綱吉は山本と共にトイレから出る。授業中で閑散とした廊下に、足音が大きく聞こえる。

 綱吉ははやる気持を抑えて、3年A組の教室へ向かった。


∞∞∞


 休み時間になって、3年A組の教室を訊ねると笹川了平と西田直輝を除いて、誰もが奇異の視線を向けてきた。因みに訊ねたい斑はこちらには目をくれてない。了平の前の席に居て、じっとしている。
 どうした、と了平がやってきて目を輝かせた。

「ボクシング部に入部する決心が付いたか、沢田!」
「いえ! 九先輩呼んでもらっても良いですか?!」
「いちじくぅ?」

 すると了平は目を瞬かせて。

「そんな食べ物みたいな名前の奴おったか…?」

 え?! クラスメイトなのに覚えてないの?!
 しかも席の目の前の人が九先輩だけど!!

 了平は「いちじく居るかー!」と大声で呼んだ。
 やっぱり了平の頭の中に九斑という人間は存在していないようだ。
 すると今度はこっちから一斉に斑へと視線が集まる。少し気分が楽になったが…――大声で名前を呼ばれたにも関わらず、斑は無反応だった。
 しかし、そんな斑に誰も声をかけようとはしない。人が呼んでいると言うのに誰も手を貸してくれないとは薄情だ。それとも、やはり関わっただけで呪われると信じているのだろうか。
 すると、了平にこっそり耳打ちする生徒が一人。

「何ぃ?! オレの前の席にいるのが九だと?! それは極限さっぱり忘れていた!」

 待っていろ、と了平は机の合間を縫って斑を呼びに行った。
 すると、入れ違いにやってきた西田の表情が少し固い。

「山本…――それに、沢田君…」
「大丈夫ですよ。話を少し聞くだけっすから」
「だから、それを止めてくれって…――」
「沢田が呼んでいるぞ、いちじく!」

 教室を覗くと了平が斑の肩を掴んで起こした。どうやら今まで本を読んでいたようで、斑は顔を上げて了平を見る。

「笹の葉か。どうした」
「笹の葉ではない! 笹川だ!」
「ん? 間違えたか? いや失礼した。で、笹舟君。僕に何か用か?」
「笹舟でもない! オレは笹川了平だ! 座右の銘は『極限』!!」
「お、オレです! 九先輩! 沢田です!!」

 痺れを切らして教室でそう声を張り上げた。すると、のんびりと彼はこちらに顔を向ける。しばらく重い沈黙が教室を支配したが、斑は思い出したように目を瞬かせた。

「徳川君か。どうした?」
「ちょっとお話ししたいことが…」

 やはり徳川の名前のままで定着してしまったようだ。手招きすると、斑はすぐに立ち上がってこちらにやって来たが…――何故かUターンして机のサイドにかけてある鞄を持ってやって来た。

「その鞄…――まさか、帰るんですか?!」
「どうやら読書を邪魔されるみたいなので、君に話し終わったら帰る」

 自己中ー! しかも『話し終わったら』って、何か怪談話するつもりだ!!

「いつもなら、ずっと読んでられるんだけどな。どうやら今日は生徒側の虫の居所が悪いらしい。八つ当たりされる前に避難だ」

 えー?! しかも、理由がなんか重い! 声をかけられたら八つ当たりされるって…――。

 ちらりと教室中の生徒を見ると、誰もがこちらを気にしている。今、自分と目が合っただけで逸らされた…――気がする。目が合ったかは自身の想像だから今一わかりにくいけれど。

「行くぞ。笹川君」
「いや! オレ、沢田です!」
「ん? さっき笹川って聞いた気がするけど…」
「それはオレのことだぁー! いちじくーっ!」
「まぁ、良いか。では保健室に行こうか」

 さっさと歩き出す斑。それについて行こうとすると、「そうだった」と了平が綱吉の肩を掴んで引き止めた。

「お前に極限頼みたいことがある。放課後、部室に来てくれ」
「あ、すみません…――今日は、午後早退するんです」
「そうか。何処か身体悪いのだな…それは仕方ない」

 うんうんと了平は頷く。

「ならば、昼休み。帰る前に玄関で待っていてくれないか?」
「わかりました」
「極限約束だぞ!」

 了平が小指を立てて突き出してくる。少し驚いたが、綱吉はそれに小指を絡めた。
 まさか了平に小指を出されるとは思わなかった。握り拳をぶつけ合うだけで済ましそうなものだが。
 そのあと、さすがに『指きり』の唄を歌うことはなかったが、しっかりと昼休みに落ち合う誓いを立て、一人先に行く斑を追いかける。その横に山本も並んで来てくれた。
 自分の顔がまた暗かったようで、大丈夫だって、と笑いかけてくれた。

「うん…――そうだよね…」
「そうだ。今日は都市伝説関係が良いな」

 ぽんと、手を打った斑。
 話をちゃんと聞けるか心配になってきた。

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あきゅろす。
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