呪いモノ語り 都市伝説 「口裂け女にも諸説あってな。双子の姉妹と三姉妹が整形手術をして失敗したのが定説だ。手術の失敗を隠すために病院に隔離したとかな。ところでポマードを三回唱えれば怯むと言うのは知られているだろう? 僕も本を読んで知ったのだが、あれは整髪料のことを言うらしい。恐らく、整髪料が臭い過ぎて背を向け際に口が裂けた説、手術が成功した後に化粧水や整髪料のせいで肉が爛れて裂けた説が起因すると思うのだが、実際、手術が成功して化粧水などで肉が爛れた場合の説を有力視した場合、ポマードを三回唱えるだけで怯むとは思えないのだが、徳川君はどう思う? それならポマードの他にも化粧水の名前を叫ぶ必要性が入ってくるとは思わないか? あと気になるのは何故、ベッコウ飴という飴が好きなのか、というものだ。地方で好きな飴が別れているのが普通だと思うのだが…――地方ごとに着衣や現れ方は違うんだぞ? 知っているか? 車に乗っているものやオートバイに乗って現れるのもあるそうだ…――」 うんざりです。 綱吉は肩を落として、漸く見えてきた保健室に救いを覚えた。 此処まで来る間にテケテケとかいう下半身か上半身が無い化け物の話を聞かされている。斑は先を結構なスピードで歩いていたのだがしかも、話し始めた途端に急激に速度は落ち、本来なら教室から5分とかからない保健室までの距離が20分までに拡大していた。 熱が入ると歩いているのを忘れて立ち止まるのだ。あと、前を見て歩いていないのでほったらかしにしていると全然違う所に曲がって行ってしまうのである。 「先輩! 中に入りましょう!」 綱吉は斑の背中を押して保健室に押しこむことに成功する。 尚も彼は語り続けていて。 「口裂け女の噂が立つようになったのは面白いことに、噂の流行した年代が特定されている珍しい都市伝説なんだよ。コックリさんやトイレの花子さんは1970年代頃とされているのだが…――」 「あ、あの! 九先輩! お話ししたいことがあるんですけど!」 大声でそういうと、そう言うと彼は目を瞬かせて。 「何だ。口裂け女は聞き飽きてつまらないか。じゃあ赤いマントでも話をするか。これは都市伝説だけではなく、現代に現れる妖怪の話だ。まず都市伝説から赤マントとを話すと…――」 「すみません! 聞きたいことがあるんです!」 すると、斑は「ん?」と首を傾げた。あんなに饒舌に話していたのに、止まったのである。それにこっちが以外で目を瞬かせてしまった。 「何だ、聞きたいことって…――日本史か?」 「え?! 日本史?!」 「あ。あれってそれとも地理か? んまぁ良いや。日本各地の名城の知識ならば最近、抑えてきた。兵庫県の姫路城はなかなか面白いぞ。刑部姫という妖怪も出る所なんだが、1613年に病死したと言われている池田輝政がその本では実は…――」 「ごめんなさい。オレの話を聞いて下さい」 頭をぺこりと下げて、取り敢えず話が長くなるので座ってもらう。そこら辺の丸椅子じゃ悪い気がするのでシャマルの使っている椅子を持っていく。 山本も傍に丸椅子を持ってきて座る。 「あの…『呪い文』について、もっと知ってることありませんか…?」 「ん? 『呪い文』についてか? 正直言ってないな」 あっさりと斑が吐き捨てる。 がく、と綱吉は肩を落として頭を振る。 「あの…――実は獄寺君が…」 「ごくでら? 誰だったかな…? えーっと…」 「銀髪の怖い顔した人、覚えてないですか…」 容姿で説明して分かるだろうか。 銀髪で怖い顔、と斑は腕を組みながら考えて、あ、と何か閃いたようだ。 「『呪い文』を受け取った生贄君だな。思い出した思い出した。で、早速呪いでも発動したのか?」 「そ、そうなんです…」 ざっくり真実を突いて来た彼に綱吉は肩をまた落とした。 「原因不明の高熱を出しちゃって、その…」 「原因不明の高熱?」 「はい…それが、呪いの影響なのかなって…」 「それは変だな」 「え?」 斑腕を組んでそう言った。 「だって『呪い文』は水神の『生贄』だ。受け取った本人は数日後に水死体で発見されればならない」 何か、テレビのクイズ番組で聞くような法則性を真っ黒いバージョンで聞いているような気がしてきた。 「そして恐怖を煽るならその本人は呪い文を受け取って動揺を見せているか、全くもって気にしてないかが良い。そんな奴がいきなり並盛川で発見されてみろ。人々は水神の呪いだと震えあがり…――」 「で、でも! 現に『呪い文』を受け取って倒れてるんです! 雲雀さんだって、獄寺君と同じように倒れて…!」 「…雲雀? あの風紀委員長がか? 受け取ったのか?」 「え?」 斑がひょんなこと聞いて来て、綱吉は目を丸くした。 「受け取ったのか聞いてるんだ。知らないなら知らないで良いぞ」 どうだ? と首を傾ぐ斑に、綱吉は腕を組んだ。 草壁さんが『視た』んだから、間違いなく『呪われている』だろう。しかし…雲雀は呪い文を以前から受け取ったことを話していただろうか? オレはそんなこと、聞いてない…――。 どうしてだろう? いつもなら自分からネタを持ってくる雲雀が言っていないなんて。 でも、並盛神社で迷っていたのもあるか。それで西院島さんに思いっきりやられて、綱吉と一緒で三日三晩眠りっぱなしだったし、話すチャンスが無かっただけか? いや…――あの人、変な手紙受け取ったらそもそも読むんだろうか。 「そっ、そんな話は、聞いてません!」 やばいよ! 雲雀さんなら読まないで絶対捨ててるよ! あの人は白と黒の山羊より手紙の重要性を認知しない人だぞ?! 「知らないんだな。その顔は」 「そういうことです!」 綱吉は頭を抱えて、思考する。 応接室に行って探してみるか?! いや、でも呪われちゃった後だし、今更見つけてどうなる? 「所でなんだが、僕から君に頼みたいことがある」 「え? 頼みたいこと…?」 頼みたいこと…――ってまさか。 「怪談は聞きません!」 「違う。生贄君が貰った呪い文をもう一度見てみたいと思ったのだ」 「え? 獄寺君の…?」 斑はうむ、と頷いた。 「君から呪い文を借りてきてはくれないだろうか? 要らないなら貰いたい。ついでに呪い文の処分に困っているなら僕に任せてほしい」 「そ、そんなの貰ってどうするんですか?! もしかしたら呪われるかもしれないじゃないですか!」 「それを試してみようと思う」 「なっ…!」 斑は平然とした顔で答える。 「今の話を聞いてもやはり何処と無く疑問が残る…――昨日、生贄君が呪い文を貰ったではないかとはしゃいでいたが、何だかそう思えなくなってきたのだ」 「え…?」 呪い文…――じゃない…? 「そ、それ! どういうことですか!?」 「まんまだ。そして僕自身もよく分かっていない」 「な、何ですか!?」 「ん〜? いや。人に聞いてもらうことで新たに見えてくる発見あるって言うしなぁ…──よし。呪いについてちょっと話を聞け」 「聞きます!」 綱吉は即答して前のめりになる。 「オレ、どうしても九先輩みたいにオカルトに詳しくなりたいんです!」 「ツナ…」 綱吉は斑を真っ直ぐ見つめる。その視線を見に受けた斑は目をぱちくりさせた。 「知ってる人に甘えてばかりじゃいけないんです…オレ自身で『答え』に辿り着けるようになりたいんです!」 呪いを前に倒れている雲雀と獄寺が目に浮かぶ。 雲雀や斑の領域までに到達することは出来ないだろう。しかし、それでも件を早く解決するためには知識が必要になってくるのは痛感済みだ。 「お願いします! 呪いについてと、オカルトオタクになる方法もレクチャーお願いします!」 妙な申し出にも関わらず、斑は満足気ににやりと笑った。 しかし、綱吉自身も斑の話をしっかり聞いておらず、このあと、生まれて初めて『頭がパンクする』という体験をすることとなった。 [←*][#→] [戻る] |