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呪いモノ語り
呪い、考察
「さて…何から話そうか。そうだな。疑問点だ。いや呪いについてだな。そもそも、何で僕が疑問に思っているのか…それは徳川君が呪い文の効果と、七不思議で呪い文の伝承が全く別の効果を発揮しているからだな。そうだ。その点を指摘するとして、徳川君が言っている呪いの効果は『高熱を出す』という典型的な呪詛の効果だ。いや、高熱を出すのが典型的と言うわけじゃない…対象者の具合を悪くして徐々に弱らせ、しまいには死に至らしめるのがセオリーだ。だとして、高熱発病は結構、強力な呪いと見るべきなのだが…確かに水神の力が発揮されているならそれもありうるかもしれない。しかし、七不思議は『呪い文を受け取った数日後に水死体となって発見される』だけだ。前述に『高熱を発症し』などの一文がないのが気になる。昔の人間なら事実をありのまま書いて伝承するはずだ。特に奇怪なモノは詳しく記述されるはず…妖怪の怪奇譚がそのまま受け継がれるのだからそれは当然だと思うんだが…日本史のように研究し足りない所があって分かる所だけを教科書に載せている
感じなのか。まぁ、まずはそこを置いておくか。実際偉人の話など本人が書いているわけではなく他人が聞いたことをそのまま伝え書いている具合だからな。しかし、よく考えてみれば水神の場合は呪いじゃなくて『祟り』か…――あれ。よくよく考えてみれば、勝手に呪いだと思っていたが実際、呪い文って名前に『呪い』と付いているだけでアレは祟りだな。呪怨や着信アリじゃないからな。さてさて。それから僕が気になっているのは…――そうだ、祟りの効果の種類が複数出ているという…――」
「ちょぉおおっと待ったぁああ!!」

 綱吉はオカルトのマシンガントークが収まらない斑を止めにかかる。
 今まで顎に手を沿え、心底真面目な面持ちで俯いていた斑が、顔を上げて首を傾げた。

「何だ。今の一言で疑問点か?」
「一言?! 一言じゃないですよね?! 滅茶苦茶喋ってましたよ?!」
「ん? そんなに喋っていたか? いや、どれも僕の考えだからどうしようもないが。で、何処まで考えていたかな…えっと…――始まりが疑問…だったな、そうだ。徳川君が呪われているって言う話と水神の呪いが別の効果を発揮している、という点だったな。それにしても今更思ったが、七不思議の五番目の題名は『呪い文』なんだな。それまでは場所の題名だったのに。まぁ、そんな所は些細なことか。六番目なんて『祭り』だしな。さて…そういえば、高熱を出すなんて祟りの類にあったかな。昔の人間が高熱を出したというのは疫病や流行り病の類だからなぁ。そう考えると…――」
「九先輩! オレの声聞こえますか?!」

 すると、斑はキョトンとして「あたりまえだ」と答えた。

「そこまで老いた覚えはない」
「あの、呪いの話…聞かせてください…――」

 こんな話を聞かせてくれなんて頼むのは、これから先もコレだけにして欲しい。

「あぁ。大分纏まったから話してやろう。ただ、まだ疑問が残っているのでその点についてアドバイスを頼むぞ、助手」
「助手ぅ?!」
「何だ。オカルトオタクになりたいんだろう? …あぁ! そう言う場合は弟子か!」

 目を無邪気にキラキラさせている。内容が内容だが、内容を省いて考えれば彼はそれなりに子供っぽい。そのノリに合わせて「師匠」と言って説法をお願いするが、「斑で良い」と返された。

「九と呼ばれるより、下の名前で呼ばれた方が耳に入り易いんだ」
「そう…ですか…」
「だって、『いちじく』って植物の名前だろ? だから自分の名前だって実感が沸かないんだ」

 照れたように、微笑を浮かべる。
 まさか、植物と同じ名前だからって自分の名前じゃないって思うことあるのだろうか。いや、斑ならではの感覚なのだろう。少しどころか、自分とは全く次元が違う。そう…――雲雀のように。

「まぁ、どうしても師匠という呼び名が良いのなら師匠で構わない。勿論、『どうしても』というならな」

 顔を逸らして少し弾んだ口調。
 師匠と呼んでほしいことが手に取るように分かる。
 しかも、チラッチラこちらへ視線をよこしている。
 綱吉は、はにかみながら「じゃあ」と呟いて。こう続けた。

「師匠って呼びます」


∞∞∞


「まぁ、しかし。呪いについて話すことなんてそんなにないと思うんだがな。弟子、呪いについて知っていることはあるかね?」

 口調もそれなりにお偉いさんみたいに喋りだす。多分、獄寺のよう形から入って行くタイプだ。

「えっと…一応、聞いたことがあるのは、人が悪意を持って呪うのが『呪詛』だっていうことです…」
「うむ。教えてくれた人は結構な知識の持ち主だな…直接その人に聞いた方が早いんじゃないか?」

 え?! まさか、こんな所で放棄されるの?!
 ひやっとしたが、斑は「まぁ良いか」と呟く。

「まずは呪いが何も『悪い』ものだけではないことを知っていてもらいたい。その人物も、前もって悪意を持って呪う方を呪詛、とちゃんと識別して発言しているからな。で、僕が言いたいのは『人は人のために呪うこともある』と言う事だ。そういう場合『祝い』の文字を使う。だからと言って『祝』という漢字に『う』を当てて『のろう』とは読まないがな。まぁ、祈祷のようなものだ」
「人のために…呪う…――?」
「あぁ。よく考えてみろ。『呪術』と『祈祷』――『方法』を除いて実の所違うのは何だ? 極論、呪いも祈祷も、所詮人間が他人に思いを込めるモノだろう? そこに差があるとすれば『善悪』だ。これを色で分かり易くしているのが『白魔術』・『黒魔術』だ。ゲームではそんな事細かく別れていないだろうが、黒魔術師は『呪い』のように暗いイメージがあり、白魔術師は『癒し』のように明るいイメージが強いだろう?」

 頭の中で過ったのは、艶やかな黒髪を靡かせていた、あの人。
 いや。自分の瞳の中に、その人が写った気がした。

「白魔術に至っては縁結びの『呪い』というものがある。こう見ても、呪いは全てが『悪』だとは限らない。まぁ、黒魔術師になるか白魔術師になるかは当人次第だな…──まぁ、もともと黒魔術は白魔術が悪い方に発展した魔術だがな」

 うむ、と斑が頷いた。
 今になって、最後まで雲雀の姉であったあの人の言葉が頭の中で残響する。

『だって、そのために『呪い』をかけたんだから!』

 そうだ、と綱吉は閃く。
 その前に…雲雀さんを異界に来させちゃいけないって…――。つまり、その為に呪った…? 雲雀さんが『異界に来れないようにするために』…――?

 すると、斑が自分を見て首を傾げた。

「どうした? 話していることは初歩的な話だぞ? 感動したか?」
「ツナ…?」

 山本に覗きこまれて、綱吉は気づく。
 目頭に微弱ながら熱が籠っていた事。しかし、それにより熱は更に強さを増して瞳が潤みだし、視界がぼやけた。

「おい?! ツナ?! 大丈夫か?!」

 山本が驚いた顔で覗きこんでくる。
 溢れた塩水は瞳から溢れ出て滴となった。
 顔を覆って、綱吉は俯く。
 肩が、震える。
 しゃっくりが、出る。

 ずっと疑問だった。あの優しい人が、何で雲雀に蛇の呪いをかけたりしたのか。
 あれは雲雀への警告だったんだ。
 どんな理由かは分からないが、異界に近づかないでと祈りを込めた『呪い』。
 きっと、異界に関わることで降り注ぐであろう災厄から、彼を遠ざけようとする。

 あの呪いは…――彼女の『願い』そのものだったんだ。


∞∞∞


「さぁ。あるんじゃないか? 実際の所、呪いなんてよく分からんからな」
「そう、ですか…」

 気が落ち着いてから斑に災難から遠ざける呪いがあるのかを一応訊ねてみた。災難、と表現しても良いものか。だからと言って『怪異から遠ざける』と言って、怪異とは何か質問されたらこちらはどう答えたら良いかは分からないので、敢えて避けた。

「弟子。呪(のろ)いと呪(まじな)いの差が、何か分かるか?」
「え…? 何か、厳かなのが呪(のろ)いじゃないんですか? 丑刻参り、みたいな…」
「甘いな。呪(まじな)いでも、夜中にこっそりやるのが条件の物だってあるぞ」
「え?! そうなんですか?!」

 あぁ、と斑は笑う。

「しかも、丑刻参りは呪いをかける対象に『わざと』見られるように行うパターンもあるのだ」
「え?! それじゃあ呪えないんじゃ…!」
「あぁ。その場合は呪いをかけるのが『目的ではない』パターンだ」
「呪いをかけないのに、丑刻参りをやるんですか?」

 斑はウキウキとした表情で「あぁ」と答える。

「例えば、自分を恨んでるだろうなと思っている人間が丑刻参りをしていたら、君はどう思う?」
「そりゃあ…自分に呪いをかけてるんじゃないかって思いますけど…」
「そう『思わせる』のが目的だ」
「へ?」

 山本と一緒になって、綱吉は間の抜けた声を発する。

「考えてみろ。自分があいつに呪われた。それで3カ月後に風邪を引いたらどう思う?」
「え。それ、ただの風邪じゃ…――あ…でも、呪われてると思うかも…」
「そうだろう? 『ただの風邪』であるにも関わらず『呪われてる』と思い違いをする。人間は些細な失敗も案外落胆するものだ。それに単純に厄介事を押し付けられたら嫌だろう? それを単純に『運が悪かった』と考える人間はいるが、『呪われている』と分かっている人間は果たして『運が悪かった』と思うだろうか」
「あぁ。呪われてるからって思うかも…――」
「ん〜? そーかぁ?」

 頭を捻る山本に、斑は。

「野球部エース君。僕が呪われていると言う噂は耳にしているだろう。それならば、僕に関わった人間が怪我をしたという話を聞いたことないかね」
「まぁ…西田先輩からそう聞きましたけど…――」
「ハッキリ言えば、それと同じだ」
「! そう言えば…!」

 くすり、と斑は笑う。

「人間など単純な生き物だ。自分とは全く違う人間を変な目で見て扱うのだ。天才やスポーツマンは憧れの対象とされ、小汚かったり、オタク趣味だったりするだけで変わり者や格下として扱う…」

 くつくつと笑いながら、傑作だったよ、と斑は続ける。

「そいつの家は空き地の前を通るのだが、そこで小学生がよく野球をしているそうだ。たまたまソフトボールが頭に当たったらしい」
「え…」
「野球部のエース君。バッドでボールを打った場合、百発百中同じ観客席にホームランが打てるかい?」
「いや…さすがに、それは無理なのな。フォームによって色んなところに飛んでくぜ?」

 山本の口から、無理って言葉が聞ける日が来るとは思わなかった。

「ボールなんてバッドで打てば何処に行くか分からないだろう? それが偶々当たっただけで大騒ぎだ。しかも、通る度に球がオレの所に飛んでくるなどと妄想し始める。人間とは案外ご都合主義な思考が強くてな。自分の所に飛んで『こなかった』ボールのことなど頭に一々残っていないのだ。自分の所に飛んで『来た』ボールの方が重要だからな」

 分かりやすいその例えに、自分がちょっと恥ずかしくなる。『呪われている』と自分で言いはしていたが、関わっただけで酷い目に遭うのかという想像は少なからずしていた。

「その人って…――」
「転校していった」
「し、しちゃったんですか…」

 引き攣った笑みしか浮かばない。
 斑は腕を組み、足を組んで視線を上向ける。

「自分は呪われたと勝手に病んでな。別の所で元気にやってるんじゃないのか? 晴れて呪いから解放されたとか。馬鹿だよなぁ。本当に呪われていたら場所など関係なしに災難に見舞われるのに。『呪い』についてちゃんと知っていないから、勝手な被害妄想を抱くのだ。さすがに、そのソフトボールが当たっただけで大騒ぎされた時は笑いが止まらなかったぞ」

 そして、斑は肩を震わせたかと思うと、次の瞬間、くるりと椅子で回って、傍にデスクに手を叩きつけながら笑いだした。間違いなく、思い出し笑いだった。

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あきゅろす。
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