山茶花の小説

樽チェアのこと   その後1

 ラダ×カノン   

「じゃあ、この色にしよう」
「はい、毎度。形はどうするの?また、前のと一緒にしとくかい?」
「そうだな、今度は前のより幾分か小ぶりにして、二つ作って欲しい」
 
 聖域の麓にある市場でカノンはとある買い物をした。あまり物に執着しなくなったもうひとりの兄が、珍しく自分から強請ってきたものだから出来る限りは希望に沿ってやりたかった。
 
 注文の品が出来上がるまでの間、なにか適当に食べる物でも買ってのんびりしようと、カノンは思った。今日は家で待ってる者もいないし、折角の休みなのだから公園で日向ぼっこでもしてよう。

「カノン?…カノンではないのか?何故こんな所にいる?」
 急に呼び止められて振り向くと、どこかで見たようなカモメ眉毛が訝しげな顔をしてこちらを見ていた。
「それはこちらの台詞だろう。お前こそ、なぜ此処にいるのだ?」
「む……」
 頬を染めて俯く大男と言うのは、余り見て楽しいものではないようだ。
「お前の顔を見たくて海底神殿まで行ったら、今日は来ていないといわれた。さりとて、聖域にはお前の兄が居るしどうしたものかと思って市場をうろうろしていた」
 お前は乙女かよと、いささか呆れた思いでカノンはくすりと笑った。
「笑ってくれるな、俺もかなり情けないと思う。だが、あんな別れ方をしてお前が心配だったのだ…その、兄に虐められてやしないかとか」
 思いがけない優しい言葉にカノンの微笑が深くなる。
「顔に似合わん言葉だな」
「ぬかせ!心配してやって馬鹿を見たわ!」
 帰る!と踵を返しかけるのをなだめて、腹具合を聞く。
「なぜ、そんな事を聞くのだ?」
 訝しがるラダマンティスに笑って答える。
「いや、俺はぼちぼち腹が減ってきたので、そこらの露店でなにか買ってピクニックとでもしゃれ込もうかと思ったのだが」
 厭ならば、ムリにとはいわんがと誘えば厭だとは言ってないと、これまた無骨に乗ってくる。
「行きたいなら、行きたいといえばいいじゃないか」
「そう迄して行きたい訳じゃない」
 カチンと来たカノンは意地の悪い事を言ってみる。
「だったら来なくていい!俺独りで行く!」
「な!」
 くるりと踵を返し、背中を向ければ肩越しに地団太踏んでいる気配がする。
「一緒に行こうぜ」
 にんまりと笑いながら振り返れば大きな溜息を吐きながら頷いた。

 そうと決まれば長居は無用。何時誰に見つかるかわからない聖域の麓の市場より、二人っきりになれる何処かへ行こう。
 そのためには、何か美味しいものとお酒も少々、海に行くなら水着も要るよね。山にだって川くらいはあるだろう。
 カノンはぶすくれるラダマンティスを嬉しそうに引き回した。


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