山茶花の小説

樽チェアのこと

     序

 のんびりとした昼下がり、午後のお茶を愉しみながらふとサガは傍らに置かれた真新しい素朴なスツールに目を留めた。
「これか、お前がどこかの島で気に入ってわざわざこしらえたと言うガラクタは?」
 ふふんと鼻先で笑われて、カノンは上目遣いでぶすくれる。
「いいじゃないか。折角気に入っているんだから、くさすなよ。…離れていても淋しくないように、互いの瞳の色をえらんだんだぜ」
 そんな弟のかわいい思いやりを無にするのか、あんたはと芝居がかって嫌味を言うと、どこ吹く風であったサガの興味がそちらを向いたようだ。おもむろにスツールを手に取り、しげしげと眺めだす。

「こちらの樽には…ふむ、お前の瞳の色だな。よく探した物だ」
 樽の上にくくりつけられたクッシヨンを外そうと試みていたが、案外しっかり括られていたのですぐにその気をなくしたようだ。

「へっへ〜、いいだろ!けっこー気に入っているんだぜ」
「こちらは、アイツの瞳の色…こんな色だったか?」
 もう一方の樽を手に取る。
「こんな色だと思ったんだけどな、まぁ本人も気に入ってくれてるみたいだから別にいいんじゃねぇの」
 手元を覗き込みクッションの手触りを楽しんでいるカノンの腕を無造作に掴む。

「で、私の瞳の色のクッションはどうした?」

 至近距離で見詰めてくる真紅の瞳。

「…えっ…う、ん、…ごめん!こんど買ってくる!絶対買って来るから!」
「…許せんな」

 慌てて逃げをうつカノンの体をすかさず捕縛して己のひざの上に抱き寄せる。

「詫びを入れてもらおうか」
「ち、ちょっと…やめろよ///!こんな真昼間から…おい!何処触って…あぁっ」

 双児宮の迷宮が明るいうちから作動していたのは言うまでもない。


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