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「えっ、」
「あっ、あいつ!」
呆然とその背中を見つめていると、周りから起こるざわめき。それに、辺りの男たちを見てみれば、先ほどまで気色悪い笑みの浮かんでいたその顔は、今や一つの感情に支配されている。
「おいっ、あいつって!」
「あ、あぁ! あいつは、西谷中の」
西谷中?
そう聞こえたままを頭で反復するも、酷く重い頭は正常に動いてくれない。せめて、その顔だけでも拝みたい。そう思い、動かした足は、
「あんた体調悪いんだろ? じっとしてろよ」
軽くこちらを振り返り放たれた言葉にぴたりと止まる。いや、止まるしかなかった。他にどうすればいいというのか。
混乱する頭のなかで、ふと聞きなれた声を拾う。声のほう、背後を振り返れば、そこにはよく知る幼馴染みの姿。いつも眉間にあるしわが、いつも以上なのは幻覚か幻か。
その幼馴染みの背に、自分たち以上の数を見つけたのか。表情に怯えの色をのせた男たちが、散り散りになるのは時間の問題であって。
「おいっ! 大丈夫か!」
「お前、くるのがおせぇ」
「なっ! これでもとばしてきたっつーの」
「ならもっとはやく............あ、」
「あ?」
そこで思いだす。あの背中の存在を。
急ぎ振り返ったそこに、もう男の姿はなく。
いまだ正常に動かない頭のなかで、あの男の存在がぐるぐると円を描いて回りつづける。
「あ? おい、赤林!」
暗転する視界のなか、あの背中だけがくっきりと映って。
自分を、守ってくれのだろうか。あの背中は。
自分を心配してくれたのだろうか。あの言葉は。
俺が、あの赤林美幸としりながら?
俺はきっと、彼のことを知らないのに。
なんか、すげぇ胸があったかい。
これが、露実樹林高校(ろみじゅり高校)トップの一人。赤林の初恋であった。
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