3 「えっ、」 「あっ、あいつ!」 呆然とその背中を見つめていると、周りから起こるざわめき。それに、辺りの男たちを見てみれば、先ほどまで気色悪い笑みの浮かんでいたその顔は、今や一つの感情に支配されている。 「おいっ、あいつって!」 「あ、あぁ! あいつは、西谷中の」 西谷中? そう聞こえたままを頭で反復するも、酷く重い頭は正常に動いてくれない。せめて、その顔だけでも拝みたい。そう思い、動かした足は、 「あんた体調悪いんだろ? じっとしてろよ」 軽くこちらを振り返り放たれた言葉にぴたりと止まる。いや、止まるしかなかった。他にどうすればいいというのか。 混乱する頭のなかで、ふと聞きなれた声を拾う。声のほう、背後を振り返れば、そこにはよく知る幼馴染みの姿。いつも眉間にあるしわが、いつも以上なのは幻覚か幻か。 その幼馴染みの背に、自分たち以上の数を見つけたのか。表情に怯えの色をのせた男たちが、散り散りになるのは時間の問題であって。 「おいっ! 大丈夫か!」 「お前、くるのがおせぇ」 「なっ! これでもとばしてきたっつーの」 「ならもっとはやく............あ、」 「あ?」 そこで思いだす。あの背中の存在を。 急ぎ振り返ったそこに、もう男の姿はなく。 いまだ正常に動かない頭のなかで、あの男の存在がぐるぐると円を描いて回りつづける。 「あ? おい、赤林!」 暗転する視界のなか、あの背中だけがくっきりと映って。 自分を、守ってくれのだろうか。あの背中は。 自分を心配してくれたのだろうか。あの言葉は。 俺が、あの赤林美幸としりながら? 俺はきっと、彼のことを知らないのに。 なんか、すげぇ胸があったかい。 これが、露実樹林高校(ろみじゅり高校)トップの一人。赤林の初恋であった。 [*前へ][次へ#] |