夢小説【イナイレ】
忘れられない思い(風丸24)
稲妻町に帰って来た。
約7年ぶりの帰郷。
高校の時に交通事故で首から下が動かなくなってしまい、海外で治療を行っていたのだ。
成功率30%の手術を乗り越え、薬物治療とリハビリによって日常生活は送れるようになった。
「……一郎太。会いたいな……。」
プロリーグで活躍していた風丸一郎太は私の彼氏だった人。
中学の終わりから付き合っていたが、私が治療のために海外に渡る時に別れた。
別れたものの、辛い治療やリハビリに耐えられたのは彼への気持ちが強かったから。
こちらの都合で別れておいて、もう一度付き合いたいなんて贅沢は言わない。
だけど……
一目会って話したい。
中学時代、マネージャーとして一緒に戦っていた仲間なんだからそれぐらいは許されるだろう。
彼女がいても……
「そんなこと考えててもしょうがない。……久しぶりだしいろんな所まわってみようかな。」
取りあえず家に荷物置いたら、思い出の地巡りでもしよう。
懐かしい面々に会うかもしれないし……
可能性は低いが一郎太にも会えるかもしれない。
連絡すれば早いんだろうけど、何となくしにくい。
何年も連絡取ってないし。
……彼女さんといたらなんか気まずいし。
家によって色々整理した後、まず雷門中学に立ち寄った。
設備が昔より良くなっている……ような気がする。
卒業してから随分経ってるから当然か。
休日にも関わらず、グラウンドではサッカー部員が練習をしていた。
若いな、と思いながら視線をずらすと、
「円堂くん!」
「ん?……!!理緒じゃないか!!」
「理緒さん!!」
懐かしい人達を見つけた。
円堂くんと音無さん。
中学時代のサッカー部の仲間だ。
「お前、帰って来てたのかー!」
「連絡ぐらいしてくださいよ。」
「あー……さっき帰って来たから。」
こう話していると帰って来たことを改めて実感した。
安心する。
二人とも変わってないや。
少しだけ話し、雷門を後にした。
お仕事中である二人の邪魔をする訳にはいかない。
またゆっくり話をしようと約束はしたから、近いうちに色々話せるだろう。
その後も雷雷件に寄って、飛鷹くんと話したり、商店街の馴染みの店を回って挨拶したり……。
久しぶりの故郷を堪能した。
皆相変わらず優しくて自分がこの町の人間で本当に良かった。
日は傾いて、空が赤く染まって来た。
「最後は鉄塔広場に行こうかな……。」
今の時間はとても夕日が綺麗なはずだ。
昔、彼とよく行った場所。
一郎太と会える可能性が一番高い場所。
気持ちが焦ってる。
今日会えなくてもいつかは会えると思うけれど……ね。
夕日の優しい光を感じながら、鉄塔広場の方向に歩みを進めた。
「やっぱり思い通りにはいかないか。」
鉄塔広場には誰もいなかった。
人生なんてそんなものだろう。
手すりに乗り掛かり、景色を眺めた。
爽やかな風が吹き抜けて頬をなでる。
心地いいけれど、どこか淋しさを掻き立てる風。
色々あったけど、あの頃はあの頃で楽しかった。
今が楽しくない訳じゃないけれど。
夢が叶ってやりたかったデザイナーの仕事もできてるし、順調だし……。
でもどこか心にかけた部分があるのは事実。
その理由もわかってる。
なんともできないのもわかってる。
そう思うと何故か悲しくなって涙が一筋こぼれ落ちた。
その時、
「理緒!!」
懐かしい声。
振り返ると大好きな人の姿。
「一郎太……。」
走って来たのか息をきらせていた。
「なんでここに……?」
私は彼の方へ走り寄る。
驚きと嬉しさが混ざってよくわからない。
久しぶりに見る一郎太は凛々しくて……ドキドキした。
「円堂から連絡が……理緒が帰って来てるって。」
息を整えながらそう言った。
あぁ、円堂くんが伝えてくれたのか。
「……で、ここに来たらいるかと思って。」
会いにきてくれたんだ。
わざわざ。
「っていうか、なんで教えてくれなかったんだよ!!連絡も全然してくれないし……。」
彼は少し怒ったように言った。
私は彼を見ていられず顔をふせた。
「ごめん……彼女さんがいたら悪いと思って……。」
ずっと思い悩んでいたことだ。
「私のこと忘れてるなら、そのほうが一郎太にとっていいかなって……。」
新しい幸せを見つけているなら邪魔したくなかった。
好きだからこそ、そうすることが正しいのだと。
そう、大好きだから……
「ばーか。忘れられるはずないだろ。」
「え?」
顔を上げると一郎太の優しい笑顔があった。
「離れてから毎日理緒のこと考えていたんだから。」
「……。」
「いずれ帰ってくると思ってたし……ずっと待ってるつもりだった。」
待っててくれた?
「私に彼氏がいたらどうするつもりだったの?」
「理緒が幸せならそれでいい。でも理緒が辛い思いをさせられていたら、奪いに行くつもりだったな。」
そういって頭を撫でてくれた。
そうか、彼はそういう人だった。
だから私は彼を好きになったんだ。
そう思った瞬間、涙が溢れ出した。
「ありがとう……。」
私は無意識のうちにそう言葉を紡いでいた。
彼はそんな私を優しく抱きしめて、額にキスしてくれる。
「理緒、もう一度俺と付き合ってくれないか?」
その言葉は私にとってどんなに嬉しかったか……。
言葉が出てこないよ。
黙って彼の腕の中で頷いた。
「どんなことがあっても今度は離さないからな。」
唇と唇が触れ合った。
今私とっても幸せだ。
二人の上の空には一番星が輝いていた。
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