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約の翼
正反対な二人
「わたくしはルシファー様とパイモン様より貴方の監視をするよう、おおせ付かっています。貴方が勝手な動きをしないように」

濡れ葉色の髪をかきあげながら、ゴモリーはマラカイトグリーンの瞳でベリアルを睨みつける。
ベリアルは形式上、ルシファーの配下であるが、忠誠を誓っている訳ではない。

ゴモリーはベリアルが主に向ける感情に気付いていた。
狂おしいまでに歪んだ感情。それは彼がまだ天にいた時からだ。ベリアルの異常なまでのルシファーへの執着はゴモリーならずとも腹心である仲間たちは知っている。恐らくはミカエルも。

「随分な言いようだな、ゴモリー。私はそんなに信用ならないか?」

「何を馬鹿なことを。当たり前だと言えばよろしいですか?」

信用ならないか、と言いつつもベリアルは笑みの形を崩していない。蠱惑的な赤紫の瞳を見れば、たいていの者は惑わされてしまうだろう。それだけの色香がベリアルにはあった。
だがゴモリーは力でこそ劣るが、彼と並ぶほどの悪魔である。惑わされるはずがない。

自分より上段にいるベリアルをその美しい瞳で睨みつける。ゴモリーは天を堕ちた今でも破魔の瞳を失っていなかった。彼女の孔雀色の瞳はありとあらゆる魔性を暴き、打ち破る。

「あまりその目で私を見るな。不愉快だ」

「それはそれは。ですが仕方ありません。わたくしの瞳は貴方の下劣な本性を暴き出しますから」

赤紫の瞳と孔雀色の瞳が激しくぶつかる。魔性の瞳と破魔の瞳。高位の悪魔である二人がぶつかれば周囲への被害は甚大だ。地獄の城は彼らの力を考えて強固な作りではあるが、ベリアルもゴモリーも、そもそも他の悪魔とは一線どころか二線以上をがす存在である。

だがゴモリーが乗るラクダだけが、我関せずと言ったように大きな欠伸をした。
その時、二人の間に割って入る影がある。

「お二人とも、それくらいで。公爵同士の死闘は禁じられているでしょう?」

思わず聴き惚れてしまうほど心地よいテノールに、ベリアルとゴモリーの動きが止まる。ゴモリーはどこか呆れたような、だが親しみを持った顔で、ベリアルは警戒心を露にした状態で現れた人物を見つめていた。

「公爵同士の死闘の禁止などルシファー様はおっしゃっていません、ベリト」



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あきゅろす。
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