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約の翼
全てを見通す者
退屈は無限の時を生きる悪魔たちにとって最大の敵である。彼らにとって人など塵に過ぎず、天使でさえ魔王ルシファーの威光の前で霞む。
生と退屈に飽き、怠惰を貪るのは大悪魔ベリアルも同様である。

悪魔たちが魔界と呼び、人や天使たちが地獄と蔑む世界に数ある領地の一つ、シオウル。
その支配者であるベリアルは自らの居城にある謁見の間できらびやかな玉座に腰掛けていた。

ルシファーの腹心につぐ、あるいはそれ以上の力を有する彼の城は他の公爵の居城と比べて遥かに豪奢である。
大粒のルビーが嵌め込まれた支柱に、金と金剛石で飾りつけられたシャンデリア。磨き上げられた大理石の床に敷かれた絨毯は目を見張るほど鮮やかな血の色をしていた。

ベリアルの機嫌があまりよくないのを知ってか、配下の悪魔たちは殆ど彼に近寄らない。消されてはたまったものではないからだ。
現世で消滅しても、かりそめの肉体であるため、中級ほどの悪魔となると力の一部が削がれるだけで消滅はしない。だがここでの消滅は死に直結する。

「そうしてただ見ているだけも退屈でつまらぬだろう、レヴェナ?」

ベリアルは好んで黒の衣服を身につける。今も金の縁取りと刺繍が施された黒の上下で朱掛かった長い金髪が帯のように背中を流れていた。
ひじ掛けに肘をつき、ベリアルは虚空に視線を向ける。その端正な顔には隠しきれない笑みが浮かんでいた。

「貴方にその名で呼ばれるいわれはありません。『炎の王』、『虚偽と詐術の貴公子』、『シオウルの支配者』」

鈴を転がしたかのようなたおやかな声が響くと、唐突にラクダに乗った一人の女が現れる。年は二十歳ほどだろうか。神秘的な、何者にも侵しがたい静謐な雰囲気を持つ美しい女だ。

艶やかな濡れ葉色の髪に長い睫毛に縁取られた瞳は見入ってしまいそうなほど美しいマラカイトグリーン。
白い羽根と房飾りがついた帽子を被り、腰には宝冠を括りつけている。紺色の礼服から覗く肌は一点のしみもなく、陶器のように白く滑らかだ。

「それは軽率だった。詫びよう、ゴモリー。『吟詠公爵』、『月の女神』、『全てを見通す者』よ」

楽しげに笑うベリアルに、ゴモリーは嫌悪感を隠しきれずにいた。ベリアルが監視に気付いていたことは知っている。認めたくはないが、ベリアルは彼女の主に匹敵する力の持ち主だ。しかし敬愛するルシファーやパイモンの命でなければ近づきたくもない。



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