【アナザー・エデン】@〔結晶港〕

 空からゆっくりと乳頭平原に降りてきた天狗裸女が、長い鼻を上下に揺らしながら言った。
「この地は儂の修験の場じゃぞ、関係無き者はご遠慮いただきたい」
 天狗裸女の立派な鼻を見ながら尻目が言った。
「天ちゃん、久しぶり……あたしだよ、お尻だよ」
 天狗裸女の鼻がピクッと動く。
「お尻ちゃん? あのお掃除好きの? すっかりいい女になりおって、見てもわからなかったわい……すると、この火星タコのような御仁が、お尻ちゃんから連絡があった」
「うん、軍医タコさんだよ」
「そうじゃったか……非礼は詫びる。儂の力を借りたいとのことじゃたな。よしよし、力になってやろう……ただし儂も乳頭より上は行ったコトが無いのでアナザー・エデンで案内人を探さなければならんぞ
 こうして、高慢な天狗裸女が仲間になった。


『アナザー・エデン』の港町【結晶港】……軍医タコ一行がアナザー・エデンの海の玄関口である、この港に到着した時はちょうど漁に出ていた漁船群が、大漁旗を船に掲げて帰港していて。
 船からの魚介の水揚げで賑わっているところだった。
 日本国の漁港と雰囲気が似ているこの港町では体からさまざまな結晶を生成できる『結晶人間』たちが、忙しいそうに動き回っていた。
 裸体で鉢巻きを頭に巻き、ゴム手袋をして、水産長グツを履いたフルチンの裸漁師たちが。
 魚介が入ったプラスチック製のカゴや、活き〆をした魚が入れられた発砲スチロールのトロ箱が、次々とフォークリフトや台車で運ばれている。
 漁港市場からは、威勢がいいセリ声が響いていた。
 軍医タコは木箱のトロ箱〔漁港で水揚げした魚介を入れる箱〕に入っている、見たこともない魚や貝を興味深そうに見ている。
「アナザー・エデンの魚はフォルムが独特ですね……昆虫類と動物類と魚類が合成されたような魚とかがありますね。クモのような単眼がたくさんある、虫の節足が生えた魚とか……巻き貝から複数の頭が出ている魚とか」
 漁港の裸人間たちは、軍医タコたちを特に気にしている様子もなく淡々と作業を続けている。
 どうやら、アナザー・エデンでは軍医タコたちのような、下の世界から来た者たちを特別視はしていないようだ。

 漁港で働く若い裸の娘が、獲れた魚が入った発泡スチロールの容器を持ち上げて運ぶ。
 その様子を眺めていた軍医タコの体を、一人の恰幅〔かっぷく〕がいい裸漁師が持ち上げて、木製のトロ箱に入れようとしたのを軍医タコは制する。
「わたし、漁獲されて逃げ出した海産物じゃありませんから……下の世界から来た観光客です」
 裸漁師は頭を掻きながら、すまなそうに自分のチ●コをいじくって上下に振る。
「おや、観光のタコだったか……それはすまないコトをした」
「お気遣いなく……わたしたちのような海産物系宇宙人は、魚介を扱っているセリ市場では頻繁に起こる間違いですので気にしていません……隊長なんか市場を見学していた最中に、セリから逃げ出したタコと間違われて。そのまま競り落とされた料亭で刺身にされて皿に盛られたコトもありましたから」
 軍医タコが恰幅のいい裸漁師に訊ねる。
「この近くに食事ができる場所はありませんか……地元の料理を出してくれるような、庶民的な飲食店がいいんですけれど」
「それなら港の外れに大衆食堂があるよ、この時間なら開店しているはずだから」
 軍医タコ一行は、教えられた大衆食堂へと向かった。


 結晶港の大衆食堂……。
「あいっ、ご注文の、茹でた【トゲカブト魚】おまちどうさま」
 軍医タコたちがいるテーブルに、頭に三角巾を巻いた二十代前半の若い美女裸店主が、湯気が昇る怪魚を乗せた大皿を置いた。
 カブトガニと魚類を掛け合わせたような見たことがない魚を目前に、どう食べたらいいのか迷っていると……二十代の裸女店主が、乳首を両手でいじくり引っ張りながら言った。
「下の世界から来た、お客さんにはハンマーを用意した方が良かったかね……この魚は地元ではこうやって食べるんよ」
 女店主は片手の拳を、生成した結晶で包むと甲羅魚に向かって拳を振り下ろす。
「ふんむっ!!」
 バキィィィ!



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あきゅろす。
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