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LOGICAL×BURST
序章〜悲劇の徹底否定型〜
By マギー指揮
2011-11-26 22:26:12
2013-新生

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By マギー
2018-01-25 08:09:51




#000『時は今も微睡みの中に』



度々訪れる、どうしようもない現実に。
誰か、助けてくれと叫びたくなる。
何処かで誰かの心が潰れて
痛んで、傷んで。やがて歪み始めても
世界は変わらず平穏を演じる。
行き交う人の群は、今日も時間に追われ
他人の悲劇など。目にもくれない。
爪弾かれた『異端』が。
どれほど悲鳴を上げたって
救済は、やって来やしない。




『そこから、飛び降りたら。きっと少し楽になりますよ。気休め程度には』



『・・・まぁ、そうだろな』



『そうも簡単には行きませんか。そこから飛び降り無い事と。生きたいって意思とでは、同義じゃ無いんでしょうけど』




『・・・むしろ。アンタには、無かったのか? 死にたくなるような日』




『そうですね・・・絶望の根元って。何だと思います?』




『・・・?』




『希望が絶えたんですよ。希望がある人間だったら。死にたくなる日だって大いにあるでしょうね。そう言う積み重ねと言うやつが。人の心を破壊する。私は、途中から人間らしくある事を諦めて、全て投げ出した』




『あー。糞だな。与えられて来た「救済」は省みなかった訳だ』




『ええ。優しさも。愛も一通り知ってますよ。希望があれば。それに気付ける。きちんと与えられもしましたから。それでも。憎悪、嫉妬、悪意の方が。全てを上回った。希望を「奇麗事」だと割り切れてしまった。だから私は「絶望」なんです』




『・・・中二かよ』




『でも、貴方なら判るでしょう、指揮? この世界に蔓延した、身を焼かれるような痛みは。悲劇は。人類平等を謳うクセに、決してそれを掲げてはいないって』



『さっぱり判んねぇって。言いたいけどな。判るから、此処に居んだろうさ、俺も』




『私はね、指揮。みんな平等に悲しければそれでいいんです。かつての私と同じように。痛んで。傷付いて。吐き気がするような、この現実に打ちのめされて。消えて行けばいいって。それが。私の理想です。綺麗なものは何にも無い。真っ暗な世界。いつか、誰もいなくなって。浄化出来たなら。また一から築き上げますよ。私が無くして来たものの全てを、そこに』




『うーわあ。さぞ、つまんねぇ世界になるだろうな、それ』




『今の方が、余程』




『そーかい。アンタとは気ぃ合わねぇなあ、やっぱ』




咥えていた煙草を踏み潰して。
壊れた腕時計に目をやった。
4時45分で止まったままの時計。
レンズはひび割れてて。秒針が曲がってる。
『何があったか』なんて。
自分だけが判ってりゃいい。
何があって、何を背負ったのか。
何を捨てて、何を諦めたのか。
誰にも痛み分けなんざ出来やしない。
柵の向こう側、広がる青空。
白々しく。風が吹き抜ける。
此処にある悲劇を。絶望を。誰も知る由は無い。
全部壊したら。確かに、楽だろうさ。
何にも無けりゃ、痛む理由も生まれない。
でも、きっとな。俺は
アンタみたいに割り切れねぇから。




『・・・さて』




『何処へ?』




『・・・俺は。何にも無くなった世界から。俺も消えて無くなるのが一番の理想だね』




『それは無意味と言うものです』




『俺が愛して来たものは。全部。記憶の中に眠ってる。それで充分だ』




『その記憶が。貴方を殺そうとしてるのにね』




『・・・俺は。アンタと違って。弱くてどうしようもない「人間」なんだよ。白羅』




柵を越えて。ダイブした。
人離れたした。身体能力も
魔の域に達した特殊な能力も。
俺を『人間』と、形容する事に
躊躇いを生むけれど。
絶望を抱えたまま、雑踏の中に溶け込んで。
何食わぬ顔をして。その群集に成りすます。
破壊の先にあるものなんて
たかがしれてるのに
それ以上の、何を願うんだよ。







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By マギー
2017-03-02 06:54:48
#000『宵闇nostalgia』



文明の残骸は。そこいらを占めている。
ぼんやり眺めていても。動き出す事はない。
完全に、背景と化しているが
死んでいるのかと問われたら
それまた、少し違う気がする。




『イノリ、店番を頼む。鉢屋に注文された紅色が漸く入荷された。届けて来るよ』



『へいへい』



『お前、サボるなよ?』



『へいへい』



釘を刺されても。まあ。気にしない。
俺に店番を頼む方が悪い。
この時間は暇だ。暇だと眠たくなるもんさ。
客がいなけりゃあ、する事もない。
ぼんやりと。売り物を眺めて、欠伸ひとつ。
水晶金魚の身体は光を反射するもんで
目には眩く、キラキラ刺さる。
透けた尾鰭を悠々と揺らめかせながら
水槽の中を巡っている。
餌は細かく砕いた飴細工。
パラパラと撒けば。すぐに集まってくる。



『きんぎょー』



『ん?ああ、兎屋のチビか』



『キラキラ。綺麗だねえ!』



『おー。綺麗だろう?』



『キラキラー』



『餌でもやってみるかい』



『いいの?』



『いいとも。別に駄目な理由も無ぇさ。ほら。飴細工。少しずつ、摘まんでやるんだ』



『おおー』



チビは長い耳をぱたつかせ
水槽の中に飴を撒いてる。
以前はよく。猫屋のチビと一緒に来ていたっけ。
猫屋のチビが旅に出てからは
大抵、独りでいるな。
誰とも連まず。独りで遊んでる。
他に友達がいない訳でもないだろうに。
猫屋は『親友』だったらしいので
その喪失感は埋められんのだろう。
確かにいつも連んでた友人がいなくなると
なかなか。どうしたって。
埋まらねぇもんもあるな。
俺にだって覚えのある話だ。
きっと誰にだってよくある話だ。
けどまだ子供だ。割り切れねぇ。
だから多少。見かけた時には
優しくしてやりたくもなるさな。




『チビよ。お前、寂しくないか』



『なんでー?』



『独りは寂しいもんだぞ』




『・・・うーん』




『独り遊びも、いずれ飽きる。だから、ほれ。少し気を晴らそう』




『お?』




『一匹やる。お前が面倒見てやりな』



水槽の中。一番煌びやかな奴を掬い上げた。
水晶金魚は。生き物じゃない。
水から引き上げりゃ忽ち
動きを止めて硝子細工になる。
故に死ぬ事は無いが、割れる事はある。
置物として飾る事もできるのだが
俺は泳いでる方が好きだ。優雅でな。
チビに一匹手渡すと『いいの?』と首を傾げた。



『いいさ。大事にしろよ』



『うん!ありがとー』



耳がピンと張って。満面に笑みを浮かべた。
チビは無邪気だ。まだ毒を知らない。
寂しさは、いずれ。きっと少しばかり
心を汚すだろうが。そうやってみんな
喪失に馴れては嫌な大人になっていくものだ。
猫屋のチビもまた然り。
旅先で。少しは大人になったろう。
便りが無いと。親は嘆いていたが。
あれはプライドが高いから
今はまだ甘えられんのだろう。
郷愁に捕らわれると
また心は弱くなるもんさ。




『酉屋の兄ちゃん』



『んー?』



『兄ちゃんは、いっつも一人でいて寂しくないの?友達いないの?』




『お前、なかなか失礼なことを言うな』



『兄ちゃんいっつも、店番の時、一人じゃん。店番じゃない時も一人でいるじゃん』



『よく見てんねぇ』



『兄ちゃんは寂しくないの?』



『・・・俺は。まあー。待ってんだ。またいつか此処へ戻ってくんのを』



『誰が?』



『まあー。唯一。趣味が合って。話が合って。気の許せた「友達」よ』



『兄ちゃんの友達も旅に出たの?』



『だなあ。だから、お前と一緒だな』



『そっか!』



『そ〜だ』



『仲間!』



『ん?』



うんうんと頷いて『金魚ありがとう!』と叫ぶと
チビは、ズタタタタっと走り去った。
相変わらず足が速いこと。
俺は、また欠伸をして。
兄が戻るまで見飽きた景色を眺めて過ごす。
その内、うたた寝しちまって。
懐古の夢を見るんだ。



(俺も、いつか。此処を出てぇな)


(一緒に来るか?)


(どーしたもんかね)


(お前といると楽しいが。二人でずっと馬鹿やってたいが。きっと。それ以上に悲しいことだって沢山あるよ。互いにな)



(・・・だな)



(──また戻って来るよ、いつか。そしたらまた、さ)




『イノリ、寝てんじゃないよ』




──────────バシッ




そんでまた。いつも通り。
兄にど突かれ目を覚ます。
まあ、いつも通り。予定調和された日々だ。
夢だけ鮮明でアイツは今日も帰ってきやしない。
けど、まあ。そんなもんだ。人生なんて。
ただ、時折。変化は訪れて
少し味気を変えてはくれる。
翌日から、毎日のように兎屋のチビが
訪れるようになった。
俺は恰好の遊び相手にされたらしい。



『お前、また』



『イヒヒヒヒ、今日はね、兄ちゃんと鬼ごっこするの』



『・・・へいへい』



ちょっと甘やかしたせいで
妙なもんに懐かれちまったみたいだが
まあ。どーせ暇だ。断る理由もねぇな。
寂しいもん同士で。喪失を補えりゃ
見飽きた視界も少しは開けていくだろうさ。





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By マギー
2017-02-19 15:18:12
#000『それでも世界は廻り続ける』




空が青い。煙草がマズい。
太陽は燦々としてる。
大して好きでもねぇミュージシャンの
大して好きでもねぇ曲を聴きながら
屋上で昼寝する。鳥が二匹。
青い視界を遮って行った。
目を閉じて。息を吐く。



『・・・死んでるの?』



『生きてます』



聞き慣れたやる気の無い声に。
目を開く事もせず
『何すか』とやる気無く応える。
相手は隣に座ったようで
『いいヘッドホン』と
今日も人のヘッドホンにだけ
判りやすい興味を示す。




『あげませんよ』



『中古は要らない』



『何やってんすか。苧原さん』



『何って。別に何も。暇だから屋上に来たら、水鏡がいたから』



『暇って。もっとやることあるでしょう、アンタは』




『あるけど。サボってる訳じゃないから』



『あ、そ』



『うん、そう』




五分ぐらいの沈黙の後
ヤケに静かだと目を開けると
苧原は柵の向こうに立っていた。




『何してんだ、アンタ!?』



『この真下ってどんなかなって』



『馬鹿野郎!!上がれよ!!落ちたら死ぬぞ!?』



『大丈夫だよ。今日は死ぬ日じゃない』



『いいから上がれって!!』



血圧があがる。頭が痛くなる。
この男はどうしてこう、素っ頓狂なのか。
俺の怒鳴り声に酷くうんざりしたような顔をして
軽々と柵を乗り越えた。



『水鏡って結構神経質だよな』



『神経質とか鈍感とか、そーゆー話しじゃねぇだろ、これ。アンタ、万が一でも落ちたらどうすんだよ?故意でも事故でも。死ぬなら俺がいない日にしてくれよ』




『そこで「死ぬな」って言わない辺り。水鏡らしいな』




『言わねぇよ。どうせみんな確実に。俺より先に死ぬもん』




『・・・ああ、そうか』




『そ』



だから。余計なもんは極力見たくねぇ。
誰が死んだ、殺されたなんて聞けば
無駄にげんなりしてしまう。
そんなもんが溢れかえってる
テレビのニュースは嫌いだ。




『だから、屋上でボッチしてんの?』




『・・・ボッチ言うな』



『まあ。情報は最低限でいい日もあるね。雑踏の中に四六時中いると酔ってしまうから』




『そ。つう訳なんで。おやすみなさい。俺今から省エネ節電モード』



『ああ、俺と一緒じゃん』




以降。完全沈黙。
ふわりと風が抜けて行く。
頭の中には色々な蟠りが渦巻いてるが
今日は口から外に出す気にもならない。
何があったと言う訳でもない、
ただ。なんとなく。
屋上から見下ろした人混みに
悲しくなったんだ。
此処を行き交う群衆は
俺より先に人生を全うして
俺より先に死んでいくんだなと。
くだらないことを、ふと。
考えてしまったから。




『冴島も』



『あ?』



『おんなじようなもんだから』



『・・・ああ』



『ちょっと。虚しい』




苧原が裂いた沈黙に唖然とした。
そんな風に感情を
口にするような輩じゃなかったし
そもそも虚しいとか。悲しいとか。
感じる心がこの男にもあったのかと。
もっと機械的な奴だと思ってたから。
奴は柵に寄りかかって
遠くに見える煙突から流れ出る煙を
ぼんやりと見つめながら
缶のミルクティーを飲んでいた。



『・・・』



俺は。何一つ返さずに再び目を閉じる。
苧原の「虚しい」が「羨ましい」とも
聞いてとれたから
聞かなかった事にしてやったんだ。
奴の何かが変わりつつあるのだろうけど
多分きっとまだ。無自覚だろうから。
ああ。何だか面倒くせぇな。寝ようと思ったのに。
こうやって。他人について考えてる時が
一番面倒くせぇ。心ってやつは。




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