幻滅デイリー 本末転倒、落とし穴 「ふぅ」 少女は、小さなスコップを手元に置く。端整な顔が泥で汚れてしまっていて、真っ白な服も台無しになっていた。 「何してるの?」 青年が訊いた。勿論、彼には彼女が何をしているか解っている。実際、穴を掘っているのだから。 「穴を掘ってます」 無表情のまま、彼女は彼を確り見据えて答えた。一点の曇りも無いが、光も無い瞳。まるで、人形を想像させるような彼女だった。彼が何もリアクションを見せないので、彼女はもう一度言った。 「穴を、掘ってます」 「いや、それは解っているんだけどさ。何で?」 少女は手元のスコップを取り、青年に見せる。 「スコップで、です」 「あー、ゴメン。質問が悪かったな。物では無くて、理由。何故、君は穴を掘っているの?」 「あなたが、『どこまでも、二人で落ちよう。落ちていこう』と言ったからですが。それが何か」 冷静過ぎる程の表情。いや、彼女は元から表情が乏しいのだ。そんな顔をしつつも、実は照れているのかもしれないと青年は考え直す。 「それじゃあ、落ちようか。どこまでも」 「はい、その分は計算して掘り終えましたから」 「行くよ」 青年は、少女を抱える。少女は青年に抱えられたまま、短く答えた。 「はい」 [戻][進] |