幻滅デイリー 彼女の、弟 「みんな嘘なんですよ、山坂さん」 弟のいる姉、というのは強いイメージがある。いや、正確には偉いイメージか。本来なら、跡継ぎとなる男の上にいる姉という女。俺は、それが何だか受け入れられないでいるのだ。 「あ、こんにちは。今、姉は出掛けているんですよ山坂さん」 玄関から出てきたのは、彼女の弟だった。 「あー……。いつ頃、帰ってくるかな?」 「すぐだと思いますよ、そこのコンビニに行っているので。待ちます?」 「あ、良いのかい?」 「ええ、行き違ってしまったら大変ですし」 「じゃ、お邪魔します」 そうして、彼女の弟に招かれたのが失敗だった。 「どうですか、姉よりぼくの方が綺麗だと思いませんか?」 俺の膝の上で、彼は姉のブレザーの制服を着て迫っていた。 「どう見ても、負けていないと思うんです」 何と、倒錯的なのだろうか。 「大丈夫ですよ、山坂さん。本当は、姉はバイトに行っているんです。だから、当分帰って来ませんよ」 うふふ、と彼は笑った。 「ねえ、山坂さん。ぼくに、乗り換えてみませんか。とても、良くしてあげますよ。ぼく、こう見えても得意なんです」 段々と擦り寄る彼を、俺は突き飛ばしていた。 「ふふ、つまらない」 [戻][進] |