幻滅デイリー 死亡予想図9 善人の彼女が死なないならば、悪人のわたしはすぐに死んでしまうだろう。「昔話の主人物の様に、良い人は死なないと思いますよ」なんて、気休めにも程がある。 「何を笑っている」 彼は顔を押さえて肩を震わせるわたしに、冷たく言った。もしかして、わたしが泣いていたらどうするつもりなのだろう。まあ、簡単に泣く様なわたしでも無いが。 「いや、我ながら可笑しな受け応えをしてしまったものだなとね」 「は? 何だそれ」 「日本人の癖に、わびさびも知らないのか」 まあ、帰国子女の彼に言っても解らないかと次のレッスンの準備して、立ち上がると手首を掴まれた。 「何だ、教えて行け」 仕方なく、あった事を教えてからドアノブに触れる。すると、彼は痛快そうに言った。 「おぶって、お前の家に届けてやるよ。どうせ、畳の上──いや、フローリングの上なんかで死ねなさそうだからさ。ハハッ、何せ悪人だって自覚しているんだからな」 一口に日本人と言ってみても、細やか神経を持っているわけではないと改めて知らされた。 [戻][進] |