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やうこそ、
いらつしゃひました



お忙しひ中ご足労を。












さて、げにも恐ろしきは
人の心


世に言ふ其れは、
恋は盲目。



さても此れはそんな御話。



しばらくの、ご清聴をば。


















とある安穏とした陽、
関係者達の証言。



証言・其の壱

ランク1stのソルジャー




そうそう、もう開いた口が塞がらないよな。
いや、いつもの事だぜ?
あの二人に振り回されてるのは。
ただ今回は事が大きくなりすぎたってか、広げすぎたっていうか。





「今度は何の用だよ」


いつもの英雄様からの急な呼び出し。
例に漏れず今回も奴の執務室に来いと。


『代わりに書類を提出しておけ』
とか、まぁ大体そんな感じ。

恋人のクラウドを膝に乗せながら、それは人に物を頼む態度じゃあないだろう。そんな言葉はこの御方には届かない。
非道い時には扉を開けた瞬間、今まさにクラウドを貪り喰おうとするシーンに遭遇。

『何の用だ』

なんて、それはコッチの台詞だ。
人を呼び出しといてそれは無いだろ。
てか職務中に一発ヤろうなんて考えるなこの絶倫。


日頃の欝憤も発散できないまま、ノックもせずにそう言って扉を開いた。
どうせまたクラウドに迫ってたりするんだろう。
せめて最中ではありませんように。
そんな願いを込めて部屋に入ったら、



「…………ぇ、ぇええ!?」


こんな、こんな光景あっていいのか。
それともこれは夢?俺の願望が具現化されているのか。



「………な、何やってんだ?」



床に這いつくばる英雄に、おそるおそる声を掛けた。

「あ、ザックス…」


英雄様の代わりに言葉を放ったのは机の裏から突然現れたクラウド。少し困った表情だ。
てか何でそんな所から?
何だこのミステリー空間は。



「……いいから貴様も探せ」


「は?」


床を這いながらこっちには目もくれずに英雄様が仰った。



「探せって、何を?」


まさか、其の為に呼び出したのか。


「クラウドが、大事な物を失くした」



大事な物?



クラウドを見やると、何だか途方に暮れた表情で、しかし寂しげにこう洩らした。


「……もういいよ、セフィロス。ザックスにまでそんな事させられない」


何かを諦めた様な物言い。無性に胸が痛む。
嗚呼クラウド、そんなチワワみたいな目で俺を見ないでくれ。






大事な物、
誰かからもらった思い出の品か。
もしかすると、大切な人の形見とか。




「いや、クラウド俺も探すぜ。大事な物なんだろ?絶対見つけてやるよ」


胸を張って言ってやる。
一応コイツの親友でもあり世話役だ。
遠慮するなんて水臭い。


「ならば早く貴様も探せ」

欝陶しい。
せめてアンタは礼ぐらい言えよ英雄。
てか顔ぐらいこっちに向けろ。


仕方無しに俺も床に屈み、英雄様と同じポーズになる。クラウドは再び机の裏へと戻っていった。









「あ、そう言や大事な物って何だ?」



それが解らないと話にならないだろ。



俺の問い掛けに完全無視を決め込んで、黙々と床を這い回る英雄。
………今更だけど凄い光景だ。
記念に写真でも撮っておいた方がいいかもしれない。





漠然とそんな事を考えてたら、またまたクラウドが机の裏からひょっこり顔を出した。
ちょっとモグラみたいだ。
何をしても可愛いのはクラウド故。



「実は探してもらいたいのは…………」










後悔先に立たず。
今回俺が得た教訓は、それだな。






証言・其の弐


副社長




まさか俺がこんな茶番に巻き込まれるとはな。
あぁ、金輪際あの二人には近寄りたくは無い。
……下らない会議が潰れたのがせめてもの救いか。



「……お前達はそこで何をしている?」


いつまで待っても会議に現れない男を、何を間違ったか俺直々に迎えに行ってしまったのが運のつき。

どうせ、また恋人と時間を忘れて話し込んでいたりするのだろうと、高を括っていたら。



目の前、否、目下で床に這いつくばる人間が一人、二人。
人が地面に這いつくばる様を見下ろすのは、何とも言えず快感だ。

扉の前でつっ立ったままそんな事を考えていると、地を這う人間の内の一人がこちらを向いた。


「おっ、副社長様々じゃん!めっずらし〜」


人を天然記念物の動物の様に言うな。今この場ではお前達の方が珍獣だろう。


「えっ!?副社長!?」


驚きの声と共に現れたのはクラウド。
何故かソファの下からの登場。


「………これは何の遊びだ?」

まさか会議にも出ずに、神羅の英雄がこんな所で這いつくばっているなど誰が想像しよう。


「え?いや〜、副社長こそ何用で?」
「お前には聞いてないぞ猿。……セフィロス、確か13時からの会議に出席する筈じゃなかったか?」


猿を黙らせ、セフィロスに問い直す。
現在時刻は13時半になろうとする所。


「会議?……そんなもの腐れ狸共だけでやれ。生憎、俺は忙しい」


仕事で忙しいならまだ解る。ああ、会議も仕事の内だがな。
最優先すべきは重役会議であって。
明らかにこの今の状況を見た限りは遊んでいる様にしか見えまい。
むしろ、何かの儀式に見えなくも、無い。


「……俺を、馬鹿にしているのか?」


英雄と言えど、雇われている身。そして俺はその上に立つ存在。
未だ這いつくばる英雄に向かって挑発的に吐き捨てる。



「……ごめんなさい」

俺たちの険悪なムードを断ち切って言葉を紡いだのは、先刻までただ縮こまっていたクラウド。


「お前は悪く無い、クラウド」


「そーそー。てか誰も悪く無い」


今にも泣きそうなクラウドを結構必死で慰める珍獣二匹。
俺が悪者に思えるのは気のせいか?




「…ごめんなさい、副社長、セフィロス。まさか会議があるなんて知らなくてこんな無理矢理に……」


「何を言うんだクラウド。あんな金の無駄使いなだけの会議に出るよりもお前と共に居る時間の方が遥かに重大な事だ」


それはお前だけに言える事だ。というより、そういう事をするのは職務時間外にしろ。


「ありがとう……セフィ」


嗚呼、何だか息苦しい。



「……じゃ、そう言う事で副社長も手伝ってくれるんだろ?」


何だそのフランクな言い方は。と言うよりも、


「何の話だ」




そう言えば今だにこの現状を把握できていなかった。
何故ソルジャー二人が床に這いつくばり、一般兵がソファの下に潜り込んでいたのか。




「クラウドが〜、大事な物失くしたんだよ」


大事な物。

金か?勲章か何かか?


「貴様も探せ」

「断る」



仮にも副社長に向かって『貴様』とは何だ。
即答してやると、それを無視してセフィロスが再び床に屈み込んだ。
いい度胸だな。



「副社長〜、アンタ大事な物失った事ないだろ?」


馴々しい猿め。肩に手を置くな。


「大事な物?ふん、そんな物失くしてもすぐに新しく買い替えれば済む話だ」


至極最もなこの意見。しかし猿は肩を竦めて深く溜め息を吐いた。


「……解ってないねぇ、本当に大事な物は、この世に一つだけしかないんだぜ?」


「猿の分際で生意気な口を……そんな物、ある訳が無い」


しかし実際、それがあるのなら見てみたい気もする。そんな俺の心を読んだか、猿が見透かした様に言う。


「なら一緒に探そうぜ?クラウドの大事な物」


「ふん……お前達よりも先に見つけてやる」



この下らない時間を一刻も早く終わらせる為。
男に二言は無い。



「あっ、マジで〜?ラッキー☆実はさぁ、大事な物って言うのが……」








その時初めて思い知った。
変にプライドが高いのも考え物だと。





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