.人を呪わば.

右手を押さえた闇の魔導師。闇の隣に佇む彗星の魔導師。か細い鳴き声をあげる魔獣。その隣で焦ったのは魔導師の少女。

見下ろす先には占い師。

かすかな血の臭いに混じったのは。鉄ではなくて塩の味。
涙の味。



「だ、大丈夫?!」

いきなり泣き出したフェーリに焦ったアルルは痛みのせいかと、慌ててヒーリングをかける。しかし淡く優しいその光は逆にフェーリの嗚咽を増大させた。

えんえん泣きじゃくる少女は普段の強気で自信に溢れた態度とはまったく重なる気配をみせない。

無様ね。

普段の彼女ならこう言うだろう。実際自分でも泣きながらそう思っていた。

なんて惨めなの、なんて無様なの!
なんて!!

(私はただ、先輩に褒めてもらいたかっただけなのに)

フェーリは泣きながら考える。こうも運命が捻れるなんて、逆に怒られるだなんて、何処で間違ったのか。占いは合っていたはず、だ。

なのに。

止むことのない嗚咽を響かせるフェーリの肩に、アルルがそっと手を添えた。

「…泣かないで」

ふわりと、優しい声に安心したのか冷静さを取り戻したのか、フェーリは大きく息を吸うとぽつり、呟いた。

「……んで、」
「ん?」
「何でせんぱいはアイツばっかり…」

呟いて。

それが嫉妬だということに気付くのに、大して時間は必要としなかった。
わかっては、いたことだけれど、改めて口に出すとそれは明らかだった。

闇を排除するだなんだと言ってはいたが、結局自分は嫉妬していただけだ、あの闇の魔導師に。
レムレスの隣に並ぶことが出来る、その存在に。

アルルは俯いたままのフェーリに優しく笑いかけた。

「…よくわかんないけどさ」

そしてハンカチを取り出すとフェーリに差し出す。

「ボクから見たら、君の方がレムレスとは仲良しだよ」

シェゾなんかと違ってさ。すっ、と、拭われた顔。フェーリが視線をあげたらアルルと眼が合った。その、なんの曇りのない笑顔はフェーリには眩しすぎて、やはり惨めにさせられるのだけど。

その、心の闇など一切を払うような笑顔は。

(……心の、や、み?)

瞬間、さっと、血の気が引くのを感じた。心の闇?心の闇を払うだと?

まさか、まさかまさか。

フェーリは慌てて懐を探った。懐にしまっておいた今日の占いの結果を再度見直す。床に広げたタロット、乱暴に手をつくと震える口で反芻した。

『闇があなたの光を遮り、あなたは心が見えなくなる。惑わされず月で闇を祓いなさい、さすれば彗星はあなたに微笑むでしょう』

彗星はレムレス、これは動かないだろう。だがこの闇が、もし、闇の魔導師ではなく、自身の心の闇だとしたら?
遮られる光は心の光、人の良心。

「じゃあ月は…?」

アルルも何事かとフェーリを覗き込み、占いの結果をみつめる。占いは得意ではないが、過去に魔導学校にあったカリキュラムを思い出して口を挟んだ。

「これ、なんだっけ…月は女性的魅力の比喩とかだよね?」

「女性…魅力?」

フェーリは大きく息を吐いた。自分はとんでもない勘違いをしていたのではないだろうか。
これは、完全に読みを間違えた。これは。

これは。





(嫉妬心があなたの良心を遮り、あなたは冷静さを失ってしまう。落ち着いてあなた自身の魅力で心の闇を祓いなさい、さすれば彗星はあなたに微笑むでしょう)

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終わらなかった(苦笑)男性陣が全く出てこないとか、か、か





あきゅろす。
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