.人を呪わば(4).

「……、がっ!!」

瞬間の痛みに剣を取り落とす。頭は庇ったが代わりに右手が使い物にならなくなった。

開く力はあまり無いくせに閉じる力はやたらとあるものである。獣の顎というやつは。シェゾは咬ませた右腕が噛み千切られる前に魔導を叩き込まなければならないのだが、痛みと焦りが邪魔して集中できずにいた。

「…く…そっ!!」

ぎり。

腕が、悲鳴をあげた。
間に合わなそうなのでこのまま右手を棄てるしかないかと思いかけたシェゾ、そこに新たな魔導が乱入した。

「シュクレフィレ!!」
「「な…!!」」

驚愕の声が重なる。
乱入魔導は真っ直ぐにシェゾを。否、シェゾの右手を目指して飛んできたので、その先に喰らいついていたバルトアンデルスは仕方なくシェゾの右手を諦めて跳躍する。

そしてすたん、と、静かにフェーリの隣に降り立った。

「貴様…」

腕が解放されたシェゾが声の方を見れば、アルルと。恐らくアルルが連れてきたきたのだろう(どうして中々いい人選をしている)、先ほど魔導を放った、レムレス。

「大丈夫?」

彼は緊迫した空気を無視して、それはそれは緩やかに微笑みながら、そう、言ってみせた。





「フェーリ」
「せん…ぱ…」

レムレスはゆっくりフェーリに向き直ると名前を呼んだ。フェーリはビクリと身体を強張らせる。
レムレスは困ったように、しかしはっきりとこう言った。

「駄目だよ、もう少しで彼の腕が取れるところだった」

それだけ言うとレムレスはフェーリに背を向けてシェゾの元へ。
態度には出さないが、怒っているのは確実だった。

焦ったのはフェーリだ。
どうして。どうして。どうして。

どうしてせんぱいがここへ。どうして敵を助けたの。どうして先輩がアイツを心配するの。どうして私にそんな顔をするの。どうしてどうしてどうして。

立ち上がろうとしてあちこち擦りむいた全身の痛みに腰をついた。顔だけで彼方をみやれば右腕を押さえるシェゾにレムレスが話しかけている。傷の心配をしているらしい。

いやだ、先輩。あたし、は。
どうして私よりアイツの心配をするの。私は、私も。

「いた…っ」

もう一度動こうとして駄目だった。バルが心配してかフェーリの傷を舐める。フェーリの元にアルルが駆け寄ってきた。

「大丈夫?いまヒーリングかけるから」

そう、優しく語りかけてくれる、彼女。

「こんなになって、痛いよね」

それがなんだか余計に。






「ごめんね、シェゾってば本当迷惑ばっかりかけて」

惨めで。











「…ふっ…く、あ……、うぁああああん!!」

柄にもなく。
フェーリは堰が壊れたように泣き出してしまった。



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あと1話で終わるのだろうか





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