.人を呪わば.

右手を、開いて、閉じる。ヒーリングが効いてきたのか、さして苦もなく動作を繰り返せるようになって、シェゾは支えの左手を外した。

「大丈夫?」
「俺よりあっちの小娘の心配をしたらどうだ」

緩やかに覗きこんでくる顔を見てから、視線を泣きじゃくる少女とそれを慰めるアルルに移した。それにつられるように同じく視線を移したレムレスは、小さくため息をつく。

「うん、けどアルルに聞いた限りだと悪いのはフェーリみたいだから」

少しだけお仕置き。言って視線をまたシェゾに戻した。心配には心配なのだが、フェーリを甘やかすばかりでもいけないので、レムレスはここはフェーリを敢えて放置し、慰める役はアルルに任せたのだ。

「手厳しいな」
「嫌だな、僕は充分甘いよ」
「…………言ってろ」
「これはフェーリが自分で気付かないといけないことだからね」

自分が悪かったって。そこでレムレスは静かに微笑むと、不意に視線を落とし、優しく、シェゾの右腕に触れた。

「ごめんね、フェーリは悪い子じゃないんだ」
「…………」
「君を本気で嫌ってる訳じゃないよ」
「…別に嫌われてても、」
「だから君も、余り自分を追い込まないでね」

君はここに居てもいいんだよ。

さらりと言われた言葉にシェゾは静かに動揺を示した。じっと、レムレスの見えない瞳を見つめて、固まる。優しく微笑まれて、居心地の悪さに視線を逸らしたら、いつの間にか泣き止んで床で何やら呟いていたらしいフェーリと眼が、あった。

彼女はきっと此方を睨み付けると、ツカツカと足音をたてて近付いてきた。

アルルが止める間もなく迫ると、シェゾを睨みあげて。レムレスが無言のプレッシャーを送る中、フェーリは2、3度迷うように口を開き。

1度視線を外してポツリと呟いた。



「………ごめんなさい」



「は、」
いきなりの展開に一瞬シェゾが間の抜けた息を吐く。
フェーリはもう一度睨みあげると何時もの調子で、吠えた。

「今回はアタシが非を認めてやるって言ってんの」
「フェーリ」
「……わ、私の勘違いだったの、だから、ごめんなさい」

半ばやけくそのようだったがしかし、途中一度レムレスが名前を呼ぶとフェーリはしおらしくシェゾに頭を下げる。シェゾは事態が飲み込めなくてフェーリの頭頂部を見つめた。

(もっとも、腕がとれかける目にあわせておいて勘違いでしたごめんなさいも無いのだが)

「なにを勝手に、」
「そんなシェゾだってフェーリに怪我させたんだからおあいこだよ!!ね!!」

一瞬、反論を示したシェゾを遮るようにアルルが絶妙のタイミングで口を挟む。
そしてそのまま、シェゾのそれは正当防衛だと言ってしまえばそうなのだが、わざわざ付き合ってドンパチやる必要も無かったので半ば自業自得、お相子ということにした。(シェゾはまだ納得がいかなそうではあったが)

レムレスは事態の流れを見るとフェーリの前に屈み込む。フェーリはビクリと肩を震わせた。

「フェーリ」
「……は、はい」
「反省してる?」
「はい…早計、でした…」

そこまで聞くと、うん、と。レムレスは頷き、フェーリの頭に優しく手を添えて。

「よくできました」

言って、優しく優しく微笑んだ。




「……なんだかな」

先ほどまで此方に敵意剥き出しだったフェーリが顔を真っ赤にしているのを見て、シェゾは軽く嘆息した。結局、わけのわからないまま、事態は自分が理解できないうちに収拾に向かっているということだけは理解できた。

「まぁまぁ、いいじゃん、何事もなかったみたいで」

結局強引にことを纏めたアルルを軽く睨んだら、アルルは何故か少しだけ楽しそうにシェゾを見上げた。

「ありがとう」
「………なんだよ」
「フェーリに手加減してあげたでしょ」
「本気を出すまでもないだろうが」
「それに昔の君だったら、あそこでバルを切り殺してた」
「……闇の剣を獣臭くしたくなかったんだよ」
「あはは、シェゾらしいや」

楽しそうに笑うアルルにシェゾは少しだけ眉をしかめて、もう一度息を吐くと諦めたように視線を上げた。

逸らした視線の先、フェーリに懐く犬がきゅんとか細い声をあげると、レムレスが一同を見渡して高らかに宣言した。

「お詫びにみんなに街に戻ったらスイーツを奢ってあげるよ」
「そんなせんぱい…っ」
「大丈夫、僕がみんなで午後のティータイムを楽しみたいだけだから」
「わーい、やったねカーくん!!」
「ぐーっ」

そんなレムレスを申し訳なさそうに見上げるフェーリに、手を差し出すとレムレスはにっこり優しく微笑むから、フェーリも微かに表情を緩めてレムレスの手を取った。

そんな二人をみてアルルは少しだけ羨ましそうに目を細めると、すぐに笑って静かにシェゾの手をひいた。





「こういうのを、人を呪わば地固まるっていうんだね」
「………それを言うなら雨降って、だ」
「あ」

シェゾの手をひいたまま固まるアルルに、シェゾは小馬鹿にしたように。

「ばか」

だけど微かにだけど確かに微笑むから。

「い、いいじゃないかどっちでも!!」

アルルは顔を赤くして、握った手を強く引いて前を歩くふたり(と1匹)に走り寄った。





(人を呪わば繋ぐ手、ふたつ)




.FIN.
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.TOP.back.
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ようやく終わりました…長かった。まさかこんなになるとは。
のわりに詰め込みたかったこと言い切れてないとか。ていうか正直詰めすぎたと思います爆。

フェーリかシェゾがどっちかに焦点絞ればよかった…!!っていうはなし

ぶっちゃけると描きたかったのは
・戦闘シーン
・レムシェっぽいレムフェリ
・割りとラブラブなシェアル
・フェーリのボロ泣き
・シェゾと流血

でした!!(みもふたもない)





あきゅろす。
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