.人を呪わば-3-.



あの体勢から助走も反動も無しで一足跳びで屋根の上まで跳んでみせた相手を見上げてフェーリは唇を噛む。

(人間離れしすぎでしょ…!!)

いくら隣の魔導学校とはカリキュラムも1歩進んだレベルをこなしているとはいえ、フェーリはまだ学生、半人前だ。
屋根の上のアレはどうやら一人前のそれも相当高い部類に入る魔導師らしい。まともにやれば勝ち目はない、の、だが。

(先輩のため私のため…!!)

フェーリは気合いを入れ直す。自分の魔導系統からして相手の血の1滴、髪の毛1本でも手に入れればいいのだ。ハナからまともにぶつかる気はない。

屋根の上のソレは不敵に笑い見下ろしてくる。

「俺が闇の魔導師だと…知ってるんだよな?確か」
「当たり前よ、せんぱいの為…消えなさい」
「おもしろい。ぷよ勝負ばっかりで退屈してたんだ。……相手してやるよ」
「上等じゃない…この…化け物!!」

言って街の外に走り出す二人。一応周りに迷惑はかけないようにという配慮はお互いあったのだろうか。それとも単に、街中だと動き難いからという理由かもしれないが。

そして暫くの静寂。

「ぇ…、えーっと…」

取り残されたアルルは、放心状態で事の通り過ぎた街並みを見つめていたが、ややあって少し離れた場所からの爆発音で我に返った。

「あわわ、大変だっ」
「ぐーっ」
「そうだね、カー君!!」

そして、肩にカーバンクルを乗せると慌てて今だ混乱している街並みを縫うように走って行った。





「…っく!!」

走りくる電撃を辛うじて交わすとフェーリは受け身をとれずに地面を転がった。

擦りむいた左足が痛んだが気にせず、その体勢のまま無理矢理魔導を展開する。

力の差は歴然。術の規模だけでなくレパートリーからして差がでかい。オマケにリーチ、体力、経験全てにおいて勝てる要素がないと来ている。

だからフェーリは形振り構わず攻撃を展開した。

せめて髪の毛1本!!

「グランドトライン!!」

完全に奇襲の形だったはずだ。発動と同時に踏ん張れずに体が反動で後ろに飛んだが、魔導は地面を削りながらも速度を落とすことなく目標に走る。

しかしシェゾは、舌打ちを1つした後に無造作に下ろした剣のひと振りで、その衝撃を2つに、割った。

(どんだけよ!!)

その動作に悪態をつきながらフェーリは身体を起こす。握った手が地面の砂を引っ掻き、ジンジンと痛む左足から血が滲む。

「……この程度か…?」

シェゾは静かに、凍るように冷たい視線を、フェーリに向けた。容赦なく人を切り捨てる視線。ただしそれは物理的にではなく、精神的に、だが。

その瞳に浮かぶのは明らかな、失望。

「退屈しのぎにも、ならないな」



ざわ。

瞬間憎悪が膨らんだ。馬鹿にされた見下された、その事実がフェーリのプライドを逆撫でし、同時にいくらなんでも相手に傷ひとつ負わせられない自分にも腹が立った。

「馬鹿に…しないでよね…!!」

フェーリは口の中でなにやらぶつくさ言いながら立ち上がる。ざり、立ち上がるついでにロッドが無様に地面を掻いた。左足を引きずったまま目の前の男を睨み付け、すかさず展開するのは詠唱の短いそれ。

「ルミナリー!!」

叫んで両手を2方向に突き出す。右から出た太陽は真っ直ぐシェゾに向かい、対する左の月は。

「なっ」
「……!!」

左の月はフェーリの真後ろの地面に放たれ、その爆発がフェーリを前に飛ばすベクトルを生んだ。

さすがにそう来ると思っていなかったシェゾは、フェーリの魔導を弾いたすぐ後に飛んできた彼女自身をどう扱ったものか瞬巡する。フェーリはそのままきつく目を結び体ごと突っ込んだ。

流石にそれで相手にダメージは与えられないが、奇襲は相手を動揺させるためにある。その役割は充分だと言えた。

フェーリは地面を滑りながら飛んでいる間に練った魔導を解き放つ。

「…っ、プリンシパル…スター!!!!」
「…シールド!!」

だが、それでもなお、シェゾはもはや無意識、本能的スピードで防御魔導を唱える。詠唱も何もない簡易的なものではあるが、立て続けに魔導を放ったフェーリにとってそれは大きな痛手となる。

はずだった。

(…まだよ!!)

「バル!!」

彼女が吼える。と同時にシェゾの背後、先ほどまでフェーリがいた地面が光り、そこから鎧を着た獣が躍り出た。

「…んなっ!!」

フェーリとて無駄に地面をなじっていたわけではない。己の足とロッドとを持って、気付かれないように地面に魔方陣を引いたのだ。

かくて彼女の呼び出した魔獣、バルトアンデルスはその鋭利な牙を愛する主人の敵に剥けて飛び掛かる。

シェゾは振り返った先の獣の、人間なぞとは明らかに違う速度に、闇の剣を握った右手を。

「バゥーッ!!」
「ん…のゃろ!!!」




鮮血が、舞った。





.next..back.

単に戦闘シーンが書きたかっただけとか。シェゾサイドから見ると圧倒的過ぎてつまらなそうだったのでフェーリ寄り視点でした。

(シェゾがあくやく!)



あきゅろす。
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