.人に呪われ.



「……たく、何で俺が」

ぶつくさと文句を言いながら歩みを進める黒服の青年。その手には人参だジャガイモだのが覗く紙袋。さらさらと風が彼の銀髪を撫でていく。

「案内してあげたじゃん」

対照的にその前を軽くスキップしながら歩く青い服の少女は、ふわふわと茶髪を弾ませながら手提げを揺らす。手提げから覗くのはカレールー。

「……はいはい」

先日異世界からこの世界に飛ばされてきたシェゾに、一足先に飛ばされていたアルルが、町を案内がてら買い物をしようと言ったのだ。
アルルは流石に慣れたもので、まるで自分の町かと言うくらいに詳しかった。それだけでなく、何故だか店の人ともさも当然の様に親しいのだ。

「あらアルルちゃん、色男連れてるじゃないの」

彼氏かい?なんて言う恰幅のよいおばちゃんに照れたように笑いながら店先のらっきょをひとつ。
それから世間話。

(………女ってのはどうしてこう話が好きなんかね)

それを見てシェゾは鼻で嘆息。向かいの壁に背をあずけ荷物を抱え直す。それから不意に視線を横に、通路に伸ばした。 平和な、街だ。

太陽が明るく照らす。頬を撫でていく風が暖かい。少し先の広場では鳥が囀り花が咲き。近くでは少女とおばさんの笑い声。何というか暖かい。空気までもが優しい。

何と言うことはない。ただ、平和。だが平和すぎて逆にシェゾには。

(……居心地が悪い)

無意識に、だけでなく、意識的にすら居づらかった。ここに闇は必要ないと、言っていた縫いぐるみを思い出す。事実その通りなのだろう。何か、居心地が悪いのだから。

自分は既に潜在的に闇だ。

たとえいくら(許されないことだが)平和ボケしていようが、たとえいくら目の前の少女が(これも腹がたつと言えばそうなのだが)「キミは悪い奴なんかじゃないよ」と叫ぼうが、もう、既に潜在的な属性が“闇”なのだ。

魔族とか悪人とかいう話ではない、唯一で絶対の闇なのだ。

この世界は悪人を受け入れない。そのシステムからは省かれないらしいが、けれど闇を受け入れることもない。それがシェゾには疎外感をもたらした。

(……いっそ牙を剥かれた方が楽なんだが)

こんなじりじりと生殺しみたいな空気を味わうより。自分は決してこの世界には慣れないだろうと、シェゾは思った。

そのとき、だった。





「え…?!」

背後からの爆発音に驚いた様に振り返ったアルルの目に入ったのは、崩れ、煤けた壁と、その下に転がる、紙袋。と。

それだけ。

「………シェ、ゾ?」

先ほどまで彼が持っていただろうそれから、野菜が、転がった。




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