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月夜竜

あれから数日のたった時の事


梵天丸は自室の前でそわそわとキョロキョロ辺りを見回していた。

用を申し付けた小十郎がなかなか戻らなかったからだ。

『何をしてるんだ、小十郎は』

梵天丸は丁度廊下を歩いていた喜多を呼び止めた。
彼女は小十郎の姉であり、小十郎と共に養育係を勤めている者であった。

『小十郎を見なかったか?もう随分待ってんだけど』
とは言ったものの、まだ五分も経ってはいない。

しかし喜多は弟が無礼を働いたものと思い、血の気が引いた。
『申し訳ございません!すぐに見つけてお連れしますゆえ…』


此れでもかと言うほどに頭を下げた喜多を梵天丸は特に気にもせず部屋へ戻って行った。

不可解な言葉を残して。
『頼んだ、人を待たせてるからな』

喜多は首を傾げた。

開いていた襖の間から見えた梵天丸の部屋の人の気配など無かったからだ。

不思議に思いつつも喜多は急ぎ小十郎の姿を探しにいくのだった。


当の小十郎は、梵天丸の用を成すために訪れていた台所から丁度出てきた所だった。
そこを輝宗に捕まった。

『その…、梵天丸の様子は…、どうであろう?』
輝宗が心配していたのは先日の一件。
義姫との口論を聞かれてしまってたことで梵天丸が塞ぎ込んでいるかと気が気ではない。

『梵天丸さまなら相変わらず元気にお過ごしです』

小十郎の言葉に輝宗の表情が緩む。

『そう、それで知らせなんだが…』
輝宗の知らせというのは新しく梵天丸の養育係として禅僧の虎哉宗乙を迎えると言うものであった。


『彼は素晴らしき僧で、お前と共に梵天丸の支えになってくれると思うてな』

虎哉宗乙は仏教、学問だけでなく様々な知識を修めた方だと言う。

『此れからも梵天丸を頼んだぞ』

『そのお役目、精一杯勤めさせていただきます』

小十郎は深々と頭を下げた。

その視線の先に山ほどに積み上げられた団子が飛び込んだ。

『…あ』
小十郎は梵天丸に用を申し付けられていた事を思い出した。

『…して、その手にある山のような団子は何なのじゃ』



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あきゅろす。
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