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雨の日は
葛藤




 尚希にキスまがいのことをされたその日から、俺は俺でなくなった。


 男である尚希の一言一言で一喜一憂して。
尚希を見ると何故かドキドキして。


最初に気づいた時は、誤魔化した。
そんなの、異常だって。


 でも、キスまがいのことをした後、何も変化のなかった尚希を思い出すと、胸が、痛い。
 尚希にとっては、なんともないことかもしれない。けれど、俺にとっては……。


そう思って、やっと自分の気持ちを認めることができた。
 


 顔、だけじゃない。
俺といる時の優しい声。
いつも感じるさり気ない気配り。
何より、俺とのバス通学やメールを楽しみにしているところ。
俺を必要としてくれているところ。


そんな君――尚希が好きなんだ。
男同士でも、いいじゃないか。
好きな気持ちはどうしようもない。
性別なんて、関係ない。よな?



不安はあるけれど、認めてしまえば少しスッキリした。


(尚希の方の気持ちは分からない。でも、これから、伝えていく努力をしよう。)



そう決意し、実行し始めた頃のことだった。






――尚希からの連絡が途切れたのは。




 メールをしても返事が来ない。


前に教えてもらった携帯の電話番号にかけても、携帯の電源を切っている。


メールが来ないから待ち合わせは出来なかったけど、期待してバス停で待ち伏せても姿を現さない。



――明らかに俺のことを避けている、みたい。


(何か嫌がることしたか……? あ、)



まさか、俺が尚希のことを好きなのがバレて、気持ち悪がってるとか……?



その仮定は、あまりにも現実味を帯びていて。


(そうだ、ちょうど気持ちを伝えようとし始めたら、連絡取れなくなったし……)



尚希に気持ち悪がられている。
そのことを考えるだけで涙が出た。




 どうしよう、という焦りと、尚希を失うことへの恐怖。




しかし、それと同時に別の気持ちも沸き上がってきた。





 尚希に対する恨み、怒り。

 そして自分への肯定。


(尚希が悪いんだ。あんな、キスまがいのことをするから。だから俺だって期待したんじゃないか。俺は、悪くないし!)

――それなのに、今更気持ち悪がって、避けて。
酷いじゃないか!




俺の心を護るための、子供じみた、それでも懸命な自己防衛だった。



 

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あきゅろす。
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