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アビス小説
満たされた器
【シンアリ】



抉られた胸からあふれ出る血が、服に、床に広がってゆく。血溜まりにそっと手を伸ばし、触れてみた。

あたたかい・・・

なぜだか心地よさを感じる。不意に、その感覚がなくなった。

血溜まりのほうに目をやると、そこには消えかかったランプのように点滅を繰り返している自分の手があった。

あぁ、死ぬんだな、と改めて実感する。

そんなことを思っているうちに、手首から先が完全に消えた。

いずれボクの全てが消えてしまうんだろう。

別に死ぬことは恐くない。むしろ幸せさえ感じている。

やっと、この愚かしい生を終わらせることができる。





肘から下が消えたきり見えなくなった。下半身も透けてきている。

ふと、一人の少女の言葉を思い出した。

『生まれてきて、何も得るものがなかったって言うの?』

ボクはその問いに「ないよ」と答えた。

そうだ。何も得られなかった。ボクは生まれたときからずっと空っぽだった。

だが、その答えに違和感を感じる。

いや、そんなはずはない。ボクはずっと空っぽだった。ずっと独りだった。

得たものなんて何も・・・

頭の中を、何かがよぎった。

それは、ボクの隣を笑顔で歩く、桃色の髪の少女。

「ア・・・ハハ」

急に笑いがこみ上げてきた。

ボクは何て滑稽なんだろう。

得たものに気付かなかったなんて。

「空っぽだと・・・思ってたのにな・・・」

いつの間にかボクは彼女で満たされていた。

あぁ、そうか。

だから死ぬことを恐いと感じないんだ。

彼女に会いに、行けるんだから。




腕はもう見えない。

「今行くよ・・・アリエッタ・・・」

もうすぐだ。もうすぐアリエッタに会える。

「ボクの素顔を、見たら・・・何て言うだろう・・・な・・・」

考えただけで、自然と笑みがこぼれた。

それは誰も見たことのない、ボクさえも知らない幸せそうな笑みだった。






瓦礫の中に、仮面がひとつ転がっていた。




持ち主は、もういない。










〜あとがき〜

   シンアニ!!アビスで一番好きなカップルかもしれない。
   そしてアビスで一番好きなキャラはシンクなんだよね〜。あ、もちろんアリエッタも好きですよ♪
   これはなかなかのできだと思ってます。製作期間は2時間だけど(ぇ









                                                                              死に幸せを感じるボクは、幸せなのかな――――











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あきゅろす。
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