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8話
社長室での会話が終わったあと、浩介は神埼と和田に連れられ、来た時と同じエレベーターで降りていった。浩介は自分がどうなってしまうのか、それを聞きたかったが、聞ける空気でないことも理解していた。
無言の3人は1階まで降り、スタッフルームに入っていった。もちろん、向かうのは戸部が消えたと思われるあの怪しい扉。浩介は和田とともに扉から離れたところで待機し、神崎は扉の前で何かの操作を行なっている。
数秒後、戸部が言ったとおり扉が両側に開き、エレベーターが現れた。ここで和田は寮に戻っていき、神埼と浩介はエレベータに乗った。エレベーターはさらに下におりて行く。今回はものの数分でエレベーターは目的の階にたどり着いた。扉が開いた先には長い通路。また無言で進んでいくが、いい加減、浩介は耐え切れなくなった。
「あの・・おれは・・どうなるんですか・・」
切り出した割には弱々しい。自分でもよく理解できることだった。そして、どのみち神崎は何も答えてくれない、はずだった。
「136年前、日本は不死の人間、パーフェクトヒューマンを作り出すことに失敗し、その過程でアレンジが生まれた」
教科書をそのまま読むような無機質な声だったが、神崎が答えたことには驚きが隠せなかった。
「日本はこれまで真の意味でアレンジを有効活用できていなかった。母親たちは有能な子供を求めて学力に特化したもの、運動が得意なものを産んだ。しかし近年、アレンジによって生まれる子供の中に成長に特化したタイプがいる。その者たちをいかに利用するか。その答えがこの先にある」
子供を道具のように扱う神崎の言葉に浩介はむっとした。無論、キレたところで神崎は何も感じないであろうが。
「ここだ」
神崎は茶色の扉の前で立ち止まった。そしてパスワードの入力をして、指紋認証などをしていた。浩介は扉を見つめた。大きめの扉の上には「HP研究所」と書かれている。
ピーンと音がして、扉が両側に開いた。中が見えたとき、浩介はびくっとした。
「パーフェクトヒューマン計画。通称HP計画は今も生きている。ただ、不死身の人間をつくるのではなく、」
神崎は扉の中を一瞥した。なかは大きな部屋がいくつもの個室に分かれており、なかでは子供たちが机に向かって何かをしている。あれは・・勉強というべきなのか。
「あらたなHP計画は完璧な頭脳を持つ人間を作り出すことだ」

ж ж ж

神崎は個室と個室の間の狭い道を進みながら浩介にここの説明を続けていた。
「どうだこれでわかったか」
神崎はいきなり話を切り、確認してきた。
しかし、浩介はあまりに気が動転していた。無理もない。朝、いきなり戸部からの警告。そして、社長にあって、今はデパートのなかにある研究所。まだHP計画が生きているとか訳のわからないことが次々と起こるのだ。もう、脳の容量を超えている。
「いいえ、まったく」
浩介はほぼ上の空で言った。神崎はこちらを見ている。不思議に思っている、わけないか。
「二度は言わない。あとでこれを読んでおけ」
神崎は浩介に辞書を思わせる厚さを持つ資料を渡した。これだけのことを言われたというのか。浩介はふうと息をついた。
「今日はもう寮に戻れ。それを読み直しておけ。」
「でも、俺はこれからデパートで・・」
先ほど、フロアにあった時計を見たのだが、もうすでに開店時刻を過ぎている。いつもなら、神埼に前に呼ばれ、時計を見せられているところだ。
しかし神崎は
「何を言っている」
「いや、俺はこれからデパートの1階でレジを・・」
「お前はここのことを知った時点でデパートを退職している。」
「え、じゃあこれからは」
「明日からは、ここがお前の職場だ」


部屋に戻った浩介は資料とにらめっこしていた。朝からのことを考え直していたのだ。本当に今日はいろいろあった。
「寝るか」
そうだ、寝よう。今はそれが一番だ。ベッドに転がると一瞬で意識が飲み込まれた。そして願った。

起きたときにはこの変なことが全部夢であったことを。
そして、戸部さんがいることを。

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あきゅろす。
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