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1話改
夏の暑い朝。空は高く、雲ひとつなかった。

銀座にある東京最大のデパート「HPデパート」の近くに建てられた従業員用のマンションの一室で鈴木浩介は寝ていた。
目覚ましは5時にセットしていたが、昨晩の事情により疲れはてていた浩介は起きることができなかった。

出勤30分前の6時半。ドアをどんどんとたたく音がした。浩介は重いまぶたを上げた。
「起きろ、通勤30分前だ」
感情のない声。アレンジで生まれた和田四郎だ。和田は浩介と同じ会社に勤める男で浩介と同じ入社3年目だが実績は浩介の数段階上である。なぜなら彼はアレンジにより感情をなくし、成績優秀に作られているからだ。現在は浩介の上司にあたる。
「今、、行きます、、、」
それに比べ、浩介はアレンジで生まれていない。成績は常人よりかなり上だが、それはあくまで浩介自身が死ぬほど努力したからであり、アレンジで生まれたものには到底及ばない。彼が和田に誇れるのは感情を持っていることだ。浩介は人に必要なものは感情だと常に考えている。
「急げ」
愛想のない捨て台詞を残し、コツコツと靴の鳴る音とともに和田は去っていった。
「うう、、、頭いてえ、、」
彼の頭痛は二日酔いの頭痛だ。こういう時だけ彼はアレンジで生まれたかったと思う。きっとアレンジで生まれていれば、、、
「浩介〜〜〜〜〜!!!!!」
この大声にも動じないのに、、、。浩介はベットからずり落ちた
この声は入社5年目の戸部栄一だ。浩介の先輩にあたる。彼も浩介と同じアレンジで生まれていない、感情を持つ男だ。戸部は光一に比べても成績が良いとは言えず、HPデパートに入社できたこと自体が奇跡に近いのだ。
浩介とは感情を持つ者同士、入社時から仲の良い。
「戸部さ〜ん。だれかさんのせいで、俺二日酔いなんですよ〜、大声出さないでください〜」
「かぁ〜、近頃のやつはよお、あのぐらいで二日酔いとはぁ〜なっさけねえなあ」
昨晩は戸部に「ちょっと来てくれねえか?な、頼む」と言われて、ついて行った先が酒屋だった。そこで浩介はありったけの愚痴を聞かされ、酒を盛られた。あまり記憶がないが、、
「戸部さんはいいですよ。おれは酒に強くないんです」
「おうおう、そんなこと言う奴にはこうしてやる」
そういうと戸部さんは右手の人差し指の第二関節で額の中心をぐりぐり押してくる。戸部さんが何かと浩介にしてくる行動だ。浩介は「脳天グリグリ」と呼んでいる。二日酔いの朝にこれをやられると脳に響くのだ。
「や、やめてください・・」
「おい、どうでもいいけど、時間すぎっぞ?」
いけない!忘れていた!時間を見ると6時45分。準備して間に合うかどうかわからない!
浩介は跳ね起きて着替え始めた。
「戸部さん!!わかってたなら早く言ってください!!!」
「はははは、俺もつい忘れてたわ」
「あ〜も〜いいっす!先行っててください!」
「はいよ、部長に遅れるって伝えとくぞ」
「自分で言います!!」
浩介は着替えを終え、仕事机の上に散らかった物を片っ端からバックに詰め込んだ。時計を見ると50分。ギリギリだ。朝食抜きで行くことにしよう。
身支度を終えて浩介はドアを蹴飛ばしてエレベーターに向かった。
そして後悔した。
エレベーターは戸部が乗っていったため1階にいた。17階のここまでたどり着くのを待つ暇はない。もし、戸部に待っていてもらえれば一緒に乗ることができたのに、、などと言ってる場合ではない。
彼はドアを開けて階段を駆け下りていった。いや、いそいでいた彼は階段を5段飛ばしほどでおりていっていたため、階段を駆け降りるというより飛び降りていった。

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