プロローグ 西暦2070年。 人類は新たなステップを踏んでいた。 すべてのはじまりはその136年前の1944年、第二次世界大戦中に海図にも乗らない島で極秘に研究をしていた日本のある研究チームの発明によって始まった。 彼らの実験テーマは「完全なる人間」を生み出すことだった。彼らの考える「完全なる人間」とは人智を超えた寿命を持ち自己再生能力を持つもの、俗に言う不死身の存在というとんでもない話だった。 到底実現するとは思えない話だが、成功すれば、世界大戦に苦戦をしいられていた日本にとって切り札となる存在になっただろう。いや、それだけじゃなく、戦後の世界に大きな影響を及ぼしたに違いない。 だが、その後たった一年で戦争は終わってしまった。彼らは日本政府に見捨てられてもなお、自ら農業をして食料を取り、生まれた子供に研究を託していった。そうした生活が何十年にわたって続いた。 そして、彼らの研究は実を結ぶ費が来た。 彼らは「完全なる人間」を目指す途中で、別の答えにたどり着いたのだ。 それは「生まれてくる子供の操作」だ。 「子供の操作」とは、生まれてくる子供を親の要望で、目の色や体格、性格までも指定できるということだ。 例えば「青い目でスラッとした長身で成績優秀な子供」を頼むと、将来、子供は要望したとおりに成長する。やろうと思えば「太ったオタク」も作ることもできるのだ。人々はそれを「アレンジ」と呼んだ 研究チームは実験を成功できなかったとはいえ「完全なる人間」の途中段階にたどり着いたともいえよう。 日本に戻った研究チームはノーベル賞を取った。実験開始から106年の歳月が立っていた。 アレンジは日本だけでなく世界に衝撃を与えた。 それから31年たった今はさらに細かい設定もできるようになった。が、今も昔も変わらない欠点が二つあるのだ。 アレンジは子供に親の要望した設定を組み込むものだが、それには限度があったのだ。 例えば、その限度を1000としたならば、目の色は50、背の大きさは60などと、決まっている。しかも背の大きさなどは、レベルが決まっていて、背が高ければ高いほど限度を埋める割合も高くなる。性格も限度が決められている。しかも、背の高さと同様にレベルが決まっている。 だが、性格を設定する者はほとんどいない。今の母親の心は1つだ。 「今の世に、感情など必要ない」 その心からアレンジで生まれる感情のない子供は急増した。そして世間はアレンジで生まれた感情のない人を「アレンジャー」と呼び、アレンジで生まれなかった人を「ノンアレンジ」と呼ぶようになった。 [次へ#] [戻る] |