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PSYREN夢
その手は熱を持つ(ヒロイン視点)/遊坂









あの人は苦手だ。
純粋に恐い。
苦手意識があるからぎこちなくなって、それもまた嫌で。
それでいてどこか私の中で矛盾する。











なんでチョキを出した自分。
滅多に出さないチョキを使って、負けてしまうなんて不覚。


重い足取りで来た部屋の前で気分は地にめりこむほど沈んでいた。

「……はぁ……」

ため息まじりに呼び鈴に手をのばす。
あーあ、押しちゃったよ。
少ししてドアが開く。

「ぎゃっ」

出てきた遊坂さんは頭にタオルをかぶって上半身裸だった。髪がまだ雫が垂れるほど濡れていて、なんというか、アダルト。


「へぇ!君かい。何の用?」
少し驚いてからにこりと笑う。これだけ見ると優しい人なんだけどな

「み、弥勒が電話しても出ないって」
目のやり場に困りながらどもる。

「え?…あー」
何時間も着信拒否だったらしい。
きっとさっきまで血まみれだったに違いない。
「…遊んでたでしょ」

「あ、バレた?」

「返り血洗い流した後かなぁと思いまして」
すっきりさっぱりしました、という感じ。

「ご名答wま、上がってきな」

「え゛、いや、いい!」
私は半ば反射的に拒んだ。
「なんでよ」

だってこの男の部屋と言ったら、薬品、凶器、血。そういったものがインテリアの一部といってもいいくらい当たり前のように置いてあるイメージしかない。
入ったら実験材料にされ、少なくとも殺されるのではないか。

「……な、ない?し、死体とか…」

「は?ふっ、はっはっは!ねぇよ、ないない!」

面白いこと言ってないのに遊坂さんは爆笑。

彼は私を部屋に入れたいらしいけど、私にはある意味敷居が高すぎて躊躇するしかない。
アイスあるって?私の好物を知ってるあたり余計おっかない。
物でなびく程軽い女じゃないぞ私は。でもアイスかぁ。それなら少しくらいいいかもな。

やっとのことで私は遊坂宅の敷居を跨いだ。

中に入ってみると住人が誰だか忘れてしまうくらい予想外に、どこにでもあるようなちょっと広めで良い部屋。いいなぁこのマンション。いいとこ住んでんじゃん。

「普通な…良い部屋だ…」

「なんなら換気扇の中まで引っぺがしてもらってもいいけど」

気づけばまるで泥棒のように中腰で落ち着かない変な私。
疑いすぎたかな。少し呆れ顔で遊坂さんはアイスキャンディをくれた。
なんだぁ、良い人じゃん。

電話しなきゃな、と言って彼は向こうの部屋へ行ってしまった。

私はまだきょろきょろと不審に辺りを見渡す。

死臭もしないし、血生臭い痕跡もない。とりあえず普通の住居のようだ。

ソファにぼふりと座る。ふっかふか。

テレビをつけてチャンネルをいじる。
お笑い番組の再放送やってる。私の好きなコンビも出るかな。
アイスを食べながら観ていてふと気づく。今、すごい快適。
ここって遊坂さんちだよな?と、確かめるように向こうの部屋に目をやる。

遊坂さんは弥勒と電話中。
早く上も着てください。
電話しながら頭を拭いてる姿がなんか妙に色気あるんだよなぁ。かっこいいなぁ……あ、私の好きなコンビきた!ちょwww

コントに爆笑していると、電話を終えた遊坂さんが戻ってきた。ちゃんとシャツ着てる。

「私このお笑い好きー」
くつろぎすぎかな、と思いながらもコンビのネタが面白い。

「…世界終わったらお別れだぜ?」

彼が隣に腰掛けてきた。
なんか落ち着かない。

「まぁそうだけどさ…別にいいよ。遊坂さんはこの世から無くなってほしくないものって何?」

「んー……人間かな。」

「人間?意外……あ、殺せなくなるから?」

「ぴんぽーん☆わかってんじゃん」

呆れた。
「うぇー。悪趣味ー。」

「お前も新世界生きるの飽きたら俺に言いな。一思いに殺してやるからさ」

本当に一思いなんだろなぁ…ぷちっと。

「フライングしないか心配だなぁ」

「信用ねぇな名前ちゃん……なァ、何でそんなに俺のこと嫌いなの?」

少し顔が近づいて、びっくりする。

「え゛、別に嫌いじゃあないけど…」

「嘘つけよ、パーソナルスペースって知ってるか?無意識でも俺のこと避けてるんだよお前」

避けてる?ああ…そうかもしれない。
嫌いではない、はず
なんとなく警戒はしてるかな…。

「……だって、おっかないし…」

キャンディ・マンだもの。

「へ?はっ、おっかないって?何が」
「全部!」

自覚ないのかこの人は。
「仕事中」の彼を見たことがある。仲間ながら、正直引かざるをえなかった。
理性も何も関係ないのだろう、彼は楽しそうだった。

「そんなんでよく今日うちに来れたな」

「弥勒にジャンケンで負けた」
負けても弥勒が行ったかどうかわからないけど。

「ははっ、でも快適だろ?」
「まぁね」

遊坂さんの部屋とは思えないくらい。って言ったら毒されるかしら

「名前ならいつでも来ていいぜ。まぁ安心しろよ、お前殺る気はねぇから。貴重なCURE使い殺したらボスに怒られちゃうからな」

「そういう問題ですか…;」

「まぁ、でもそんなに期待してくれるんなら」

無防備に置いていた手を掴まれた、というか、強く握られた。
恋人同士なら良い雰囲気な場面
不覚にもドキっとしてしまった、次の瞬間

「1…2…」

「ぎゃ―――っ!!!」
さぁーっと血の気が引いた

「はははは!ちょ、嘘うそ!ウソだって暴れんなって」

心なしか身体がぞわぞわする。今なら私、気分で死ねるかも

「うそー!それがうそー!!」

パニクりながら、楽しそうに笑うこの人を二度と信用するものかと誓う。あれ今、抱きしめられた?


「殺されるより…お前はもっと違う事心配しとけよ」

「え゛、何」

「俺でも貞操だけは保障できねぇからな」

「ん゛?」
今一瞬すごく鬼畜な笑みを見たような

「女の子が一人で男の部屋にいたら危ないよって話」

「…………ぇ」

遊坂さんとぶつかった視線が固まったその瞬間、ため息すら響きそうなくらい静かな密室を感じた。

遊坂さんがソファから立ち上がってその沈黙は終わる。

「あーあ…腹減ったな。飯食いに行こうぜ、何食べたい?」

散々グロテスクに遊んだ後に、さすがだなこの人。

「…あたし食欲ない…」

「とりあえず付き合えよ、なんならお手々繋ぎましょうか?」

差し出してきた手をとりそうになるけど、意地張ってやめた。

「弥勒にいじめられたって泣きついてやる」

「ははっ。あ、テレビ消せよ」



弥勒に出会ってから、私は多分普通の人間と感覚的に大分離れてるんだ

キャンディ・マンと呼ばれる実体を知りながら

あの人の生まれながらに無意識に抱えている人間的な部分が
なかなか嫌いになれないから困る。



end.


―――――――――――――――――
遊坂さんに対して苦手意識のが強くて、好きという感情をいまいち自覚できていないヒロイン



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