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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第五十二夜 動き出す人と妖
「どういうことなんだ!」

 花開院家の応接間に怒号が響いた。

「千年を生きる妖怪が復活!? 京都は妖怪に支配されました!?」

 市長をはじめとした府知事や府警、この街の首脳陣が一同に会している。
 羽衣狐への今後の対応を協議することが目的のはずだが、始まったのはただの花開院家に対する糾弾だった。

「これで花開院家の信用は地に墜ちた」

「ちょっとええ加減に、って……(何すんねん竜二兄ちゃん!)」

 府知事のあまりのもの言いに割って入ろうとするゆらを竜二が横から首根っこを掴んで抑え込む。

「(感情的になるな。今は抑えろ。お前もだ昌彰)」

 わかっているとばかりに昌彰は竜二へと頷いた。
昌彰の心情に呼応したかのように徒人には見えぬ青白い焔が零れる。昌彰は胸元に手をやり、そこにある丸玉を握りしめた。
 出雲石でできたその丸玉はかつて昌彰の祖、昌浩の血の暴走を抑えるために道返大御神が授けた物と同じだ。昌彰が京へ戻ると決まったその時から若明が風音に依頼して作ってもらった品である。丸玉の神気は昌彰の炎を覆うように広がり、それを抑え込む。

「弐条城は守れるんだろうな!?」

 陰陽師は警察でしょうがと府警の本部長が問い詰める。さすがに花開院家の者達が怒りを露わにしようとした時、間延びした声がそれを抑えた。

『みんな全力を尽くして戦っとるんやけどね〜。ここにいる怪我人の数を見てまだそんなことが言えるんや?』

「そ、それは……」

 その言葉に招かれた京都の首脳陣は、ばつが悪そうに言葉を鈍らせた。この場には秋房達を筆頭に、負傷している分家の者も列席している。今までの言葉は彼らに対しての侮辱に等しい。

『それにいくらあの封印かて四百年が限度や』

 特に安藤が東に動いとるからなぁと十三代目秀元は呟いた。帝と都、両者を護る陰陽師が揃っていれば避けられたかもしれない。だが時の流れがそれを許さなかった。

『それでも今ここには安藤の後継がおる。これから先の事、じっくり話せてもらいましょか? 京のお役人方』

††††

『みんな集まったようやな』

広間に花開院の術者達が集う中、その視線を一身に集めた十三代目が口を開いた。

『まず言うとくけど、最後の封印弐条城は落ちます』

「は?」

 その第一声に集まっていたものは一部の例外を残して絶句した。府知事に至っては人間ごときが正面から行って妖に勝てるわけがないという言葉に激昂し、思わず二十七代目に掴みかかったほどだ。

『……』

 最前列にいる昌彰の背後に控えていた青龍は無言で十三代目を睨む。

『まず守るとなると問題になるのがこちらの戦力や』

 青龍の視線に耐えかねたのか十三代目が続きを口にする。
 昨日の相剋寺の戦いでも言えたことだが、守っていたところで持久戦に持ち込まれれば人間である陰陽師側に不利にしかならない。
さらに相剋寺の封印が破られたことで最早妖は日中での行動も可能になりつつある。即ち襲撃のタイミングも向こうが握っているのだ。そうなると警戒し続けなければならないこちら側の消耗は相手の比ではない。

『やから一度弐条城を明け渡し、外周から結界を復活させて退路を断つ』

 弐条城の封印を完成させれば洛中に溢れる呪力は止まる。呪力を奪い、結界を復活させれば勝機はこちらにある。

『そこで羽衣狐を叩く。それに必要なんが三つ……そのうち二つは既にある』

 そう言って十三代目はゆらとその隣に坐す昌彰を示した。
式神破軍と十二神将。四百年、前羽衣の動きを封じた式神たち。

『そして最後の一つが妖刀。安藤が東におるんならすぐに伝わるやろ。ぬらりひょんにな』

 ざわつく周囲を余所にマイペースに話を進める十三代目。

「その刀、祢々切丸というのだろう」

 そこにゆらの後ろに控えていた竜二が応じる。

「そいつは今、ぬらりひょんの孫が持っている」

 その言葉に十三代目は興味を惹かれたように目を輝かせた。

††††

「いくぞおめーら」

 狐の因縁を断ちに……

「四百年ぶりの百鬼夜行だ……!」

 愛宕天狗の援護を受けたリクオ達は九条を伏目稲荷へと進攻していた。

―――

「なんだぁ……こりゃ……」

 参道を埋め尽くす夥しいまでの数の鳥居。そこから吹き上がる禍々しき呪力。

「白蔵主に言われ、この地に向かったのはいいが……」

「何を信用してリクオ様は……」

「……あの男は何か嘘をつくようなやつじゃねぇと思うぜ……」

 状況からして罠とも考えられる場所に踏み込むのを躊躇う一行を尻目にリクオは躊躇いなく境内へと足を踏み入れた。

「しかし……」

「心配されるな首無殿。我らが上空より見張っておる故、何かあればすぐにわかる」

 そう言い募る首無を止めたのは隣に立つ吹雪だ。面を外し、翼を収めたその姿はただの人間と変わらない。ただ一つその瞳の色が黒白逆転していることを除けば。

「それに伝令が昌彰の元へ向かった。間もなく合流するだろう」

「……貴殿は信用しておられるのですな……あの陰陽師の事を」

 黒田坊も幾度か肩を並べ、戦った仲ではあるがここまでの信頼を置けるか問われれば即答する自信は無い……

「無論だ」

 そう言って吹雪は前を進む隊列へと合流する。

(あの愚直と言えるほど真っ直ぐな心…話に聞いたかつての祖と同じか…)


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あきゅろす。
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