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よみもの~中等部編
木陰のベンチで〜kaoru

試合後、医療テントで簡単な治療を受け戻ってみると
竜崎先生からの、差し入れがある事を知った。。。
「海堂、どうだった?このあと、ちゃんと病院に行った方がいいか?」
「いえ...血は止まりましたし...
 傷、そんなに深く無いみたいっスから...」
「そうかい?お前もはやく食べな?」
そう、差し入れのある方を指差す
「はい、ありがとうございます」
俺は腹が減ってると言う程でもないが、一応、口をつけなきゃ悪いよな、くらいの気持ちで
おにぎりを受け取り、一口齧る。。。が、それから先がすすまない
大人数で騒ぐのはちょっと苦手だ、いや、騒ぐ事自体が苦手なので
その雰囲気かな、と思い、無理矢理口に押し込んで
他の学校の試合を観てきます、と、大石部長代理に断ってその場を離れた

自動販売機の前に、越前と竜崎先生の孫、桜乃がいるのが見える
何やってんだ、コイツら...
そこを通り過ぎ、東屋から少し離れた木陰のベンチにアイツをみつけた
のそのそと近寄り、俺は気の抜けた声をかけ座る
「試合、お疲れさま...傷、どう?」
「...大した事ねぇ」
受け取ったタオルは冷たくて、衝動的に、顔に押し当てた
気持ちいい。。。
体温でじんわりと温くなると、そのまま、顔を拭い、タオルを畳み直し手を拭くと
アイツは無言で、オレンジジュースをコップに注ぎ差し出す
一口含むと、オレンジのものとは思えない苦みが口の中を走った
まさか。。。
「オレンジとピンクグレープフルーツのジュース、疲労回復に効くんだって」
「ふぅん...」
グレープフルーツ、か
そうだよな、乾汁。。。なんて、ありえない想像をしてしまった
俺、あの汁に対するイメージ、どんだけひでぇんだよ。。。
カラクリが判ってしまうと、逆にその苦味が新鮮に感じる
それに、オレンジのベタベタする甘みを程よく押さえて
香りも甘ったるいだけでなく、オレンジだけよりも飲みやすい

空になったコップを返しながら、弁当の中身をみると、ほとんど手をつけてない
「お前、ほとんど食べてないじゃないか」
「あ...うん、暑くて、ちょっと...
 海堂君は?差し入れ、あったみたいだけど?」
いつもみたいに気分が悪くなった訳じゃないんだ。。。
「俺も...」
やっぱりおむすびを食べるのが面倒だと思う程疲れてるのかな?
自分でもよくわからない
もっとも、あの輪にはいっていることで、ヘンな気を使いそうで。。。
それがイヤで、こそこそと逃げ出して来たのは確かだ
「コレ、食べて?あっさりしたものばかりだよ?」
よくみると、全部一口大で、口の中に放り込むにはちょうどよさそうだ
あいかわらず食欲はないが、食べないとバテるしな。。。
これなら食べれそうだ、と、一つ、弁当の中身をつまんだ
このサンドイッチ、酸っぱ甘くて、うまい、食欲がなくても、つい手がすすむ
パンが口の中の水分を奪って、パサついて来た頃、アイツはもう一杯ジュースを差し出した

「決勝、だねぇ...すごいなぁ...
 私...ごめん、ね、応援には来られないけど、がんばってね?」
ふにゃ、と、いつものちょっと困ったような笑い顔
「お前も...連弾の予選、もうすぐだろ...がんばれ、な?
 本選、8月のアタマ、だったな...」
そんなに困った顔すんなよ、まったく。。。コイツらしい、よな
「全国大会の...練習あるでしょ?無理しなくていいから」
「聴きにいくって言っただろ?
 お前だって約束通り本選に残って、練習忙しいのに、応援に来てくれたんだろ?」
お互い様だ、という言葉は飲込んだ
約束とか、お互い様とか、そんなんじゃない、俺は俺の意思で聴きにいきたいと思った
だって、アレは、俺の曲、だろ?俺が行かなくてどうする
。。。なんて、ちょっと自惚れか?
「なに?」
そんなバカみたいな事を考えてたら、どうやら、俺は声を出して笑ってたらしい
アイツは、目を丸くして何事かと俺の顔をのぞく
急に恥ずかしくなって、なんでもねぇよ、と悪態をついてしまった
「もっと食べて?」
俺の照れ隠しなんてお見通しで、わざと話題をそらしてくれる
「お前ももっと食えよ、バテても知らねぇぞ?」
はぁい、と、気のない返事を寄越した
そのふにゃっとした顔が、一番の疲労回復薬だ
。。。なんてことは、俺は言わない
言わないけど。。。
やっぱり、お前がそばにいるだけで、頑張れそうな気がするんだ
なんでだろうな?

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