よみもの~中等部編
9~kaoru
「どうしようか？」
アイツが俺に困ったような笑い顔をむける
「．．．って．．．」
ここ、俺ん家じゃないし、どうしようっていわれても。。。
「上でDVDでも観る？」
今度は葉末をみる
「DVDって、何がありますか？」
「ほとんど洋画だけど、古いのから最近のまで、いろいろありますよ？」
「そうしましょうよ、ね？兄さん？」
上で映画観るね、と、大人達に告げ、俺達は忍者部屋へ移動する
ラックから映画を選び、デッキにセットする
俺が来たときにはL字だったソファは、ベットになっていて、葉末はそこに座り
俺とアイツは、ベットを背もたれにして、床へ座り込み、映画を観はじめた
あんなに騒がれていたわりに、実は観た事のなかったハリーポッター
一作目から順番に観ていく事で、全員の意見が一致した
二作目になると、葉末の電池がキレかかってるのがわかった
さっきまでは、クッションを抱いて座っていたけど、もう横になってしまっている
うつらうつらして、目だって開いているだけ、と言った様子だ
「葉末、もう寝るか？」
俺がそう声をかけると、大丈夫です、と答える。。。が、もう限界だろう
アイツはにっこりして、もう寝かせてあげて？と、優しく言った
半分意識のとんだ葉末を着替えさせ、布団に寝かし、畳の部屋から出てみると
アイツはDVDを取り出して、私の部屋で続きを観ようか？と笑った
俺達は一度、２階のリビングに降り、飲み物を調達する事にした
リビングでは、大人４人がビリヤードに興じている
。。。違うな、若干酔っぱらいが４名、それぞれに親睦を深めている、と言うトコロか？
「葉末、もう寝かせたから」
俺がそう言うと、母さんが、あらそうなの？まだ宵の口なのにね、と、ふわふわとしながら言う
そりゃ、俺達にとっては『まだ１１時前』だけど、葉末には遅い時間だろう？
「薫君と奏音ちゃんもビリヤードするかい？」
おじさんが声をかけたが、アイツは、DVD観るから、と言う
「ちょっと、薫！年頃の娘さんなんだがら、ヘンなことしないでね」
か。。。母さんっ！？
「そうよ、奏音ちゃん、お母さん孫の世話なんてしたくないわよ、まだ」
お。。。おばさんっ！？
こっそり父さんの顔をのぞくと。。。
『苦笑』の見本を絵に描いた様な顔、というのはこういうのだろう
俺はおそろしくて、おじさんの顔をみることができない
「何言ってるの、おばさまも、お母さんもっ」
キッチンから、よく冷えたミネラルウォーターのボトルを調達したアイツが
そう笑いながら、リビングにやって来た
「ホラ、お父さん達も呆れてるじゃない、ねぇ？」
と、ボトルを手渡す
「そんなに心配なら、上で一緒にDVD観る？」
ふにゃふにゃと笑いながら、海堂君、続き早く観ようよ、と階段を上り始めた
「ごめん」
俺はDVDをセットするアイツに一言だけ告げる
「何で？」
ふにゃっと笑う
「何でって．．．」
俺は言葉に詰まる
そんな俺の横に、ちょこん、と座り、再生ボタンを押した
映画がはじまったが、母さん達の言葉を思い出して、
なんだかドキドキしてしまって、まったくストーリーが頭に入らない
「ねぇ．．．」
ぽつり、とつぶやく
「海堂君と私って．．．」
「おぅ．．．」
俺はそう言うだけでイッパイだった
またしばらく画面を見続ける俺達
「お前．．．」
ぽつり、とつぶやく
「うん．．．」
今度はアイツがそう言う
「お前と俺って．．．」
「なんだろうね？」
「なんだろうな？」
そしてまた、画面に集中するフリをする
「私ね、海堂君の事、好きだよ？」
俺はそのストレートな言葉に驚いて、顔を向けた
が、アイツはまっすぐ、テレビの画面を見たまま
「はずえクンも好きだし、桃城君も好き、
優先輩も好き、不二先輩や菊丸先輩達も好き」
「．．．うん」
「でも．．．海堂君の．．．海堂君が好き．．．は、ちょっとちがう、と思う」
「．．．うん」
「今日ね、杏ちゃんとお話ししたの
海堂君は私にとって、特別なの、って．．．そうしたら、ね
杏ちゃん、その気持ちわかるって、言ってくれた」
「俺だって．．．お前の事、特別だと思ってる
でも．．．だからって、お前の事、どうこうしようとか、おもったこと、ねぇ
．．．その、桃城とか．．．が．．．」
アイツは、ふぅっ、と溜め息をついて
いつものふにゃっとした笑顔を向けた
「海堂君と一緒にいると安心する、なんでだろうね？」
俺だってそうだ、と、言いたいのに、言葉が出てこない
どうしよう。。。なんだろうこの気持ちは
愛しいとか、恋しいとか、そんな言葉が存在することは知っている
けど、この気持ちがそうなのか？
俺にはわからない
ただ、俺は一緒にいたくて、いて欲しくて、その気持ちで一杯になる
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