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よみもの~中等部編
6~kaoru

電車で45分、徒歩20分
首都通勤圏内の、ベッドタウン
確かに、青学に通えない距離ではないが、
遠いな、という印象
「うち、海堂君のお家みたいに、大きくないから、
 がっかりしないでね?」
そう言って笑う


「ただいま〜っ」
「おかえりなさい、薫君もいらっしゃい」
「お邪魔します...」
「やあ、薫君、いらっしゃい」
菊池のお父さん、ちょっと緊張する
「こんにちは...」
「奏音ちゃん、薫君、お部屋に案内してあげて?
 部活で汗かいたでしょ、シャワーでも浴びてもらって?
 薫君、着替え持って来てるでしょ?」
「はい...」
「海堂君、こっちね」
俺の意見。。。というか、俺の意思は、まるっきりムシされて
菊池家親子三人で、俺の処遇が決定された
2階。。。というか、3階に連行。。。じゃなくて、案内される
俺は素直に従うしかないようだ

それにしても。。。
この家の作り、どうなってるんだろう?
1階は車庫と、何か部屋があったみたいだけど。。。
そこを通らず、外階段で2階にあがると玄関
あまり仕切りのない、だだっ広いフロアは、
リビングとダイニング、キッチンと。。。風呂場だよな?
階段もリビングの真ん中を通ってて、何だか変わった作り
通された3階は、菊池の両親の寝室、アイツの部屋、そして、ゲストルーム
今俺のいる所は、えらく広い踊り場で。。。
ライブラリー仕様なのかな?ファミリーエリア?
本棚やDVDラック、テレビ、オーディオセットに、ソファ
簡単な飲み物が用意できるような、ドライキッチンまである
えらくモダンな家、っていうのか?こういうの。。。
俺がじーーっと観察してると
ドリンクバーから、ミネラルウォーターを取り出し、俺に差し出す
「ココ、引っ張ったら仕切りになるから」
と、本棚をズルズルっと引っ張ると、それがそのままオープンエリアだった場の仕切り。。。壁になる
さらに本棚の裏に引き戸がついていて、それも引っ張り出すと、ちゃんと壁に囲まれた部屋になった
。。。忍者屋敷かココは?
ついでに、隣のゲストルームとは襖で仕切られた続き部屋になり、ホテルのファミリールームみたいだ
本棚の裏に隠れていた扉を開けながら更に説明は続く
「トイレとシャワールームはココね、タオルはこれ、使った後はこのバスケットの中にいれてね」
そういって、トイレのドアをあけてみせる
「コッチのドアは、中から鍵をかければ、踊り場からは入れなくなるから」
トイレの反対壁のドアの鍵をかける
「とりあえず、こっちは海堂君のお母さん達に使ってもらって、
 海堂君とはずえクンは、あっちの和室、ね?」
続き部屋の和室の襖を開け、ココに荷物置いてね、と、ミネラルウォーターを一口飲み、
くるり、と向き直って、にっこり。。。
「何か質問はありますか?」

俺は何をどう言ったらいいのかわからず、ボーっと立ちすくむ
右手に飲みかけのミネラルウォーターのボトル、肩のバッグは今にもずれ落ちそう。。。
「俺...先におじさんとおばさんに、ちゃんと挨拶したいんだけど...」
やっと言えた。。。
「そう?じゃ、下に行こうか?」

菊池の両親に、今日はお世話になります、と挨拶をし、
今朝、母さんに持たされた、フルーツケーキを渡した


部活とさっきの打ち合いでベタベタだった身体をシャワーで流す
シャンプー。。。ホントだ、アイツの言った通り
ちょっと髪がキシキシするけど、ミントの香りがしてすっきりする
ボディシャンプーにも、ミントと、ティーツリーエッセンスが入ってるらしい
ちょっとピリッとする匂いがして、目が覚めそうだ

俺は自分でも最短時間更新したんじゃないか、と思う程
急いでシャワーをすませ、2階に降りた
「あら、薫君、はやいのね?」
「シャワー使わせてもらいました、ありがとうござます」
「オレンジジュース飲む?好きでしょ?」
「ハイ、すみません」
おばさんは、コップにジュースを注ぎ、俺に渡してくれた
アイツは。。。どこだ?
「はいはい、ココ座って、ね?」
と、ソファーを勧められる
「ハイ...すみません...」
「緊張しなくていいのよ〜、奏音もシャワー浴びてすぐくるから、ね」
「ハイ...」
そんな事言われても。。。
ちびちびとジュースをすすっていると、おじさんが声を掛けてきた
「薫君はビリヤード、するかい?」
「いえ...した事ないです...」
おじさんはにっこり笑って、こっちこっち、と手招きする
俺は呼ばれるままに、そちらに移動した

リビングには、俺が想像してたよりもずっと小さなグランドピアノと、立派なビリヤード台がある
「キューはね、こうやって、持って...そうそう
 それで、まっすぐ突く...うん、そう、上手上手...次はね...」
おじさんは、俺があまり退屈しないようにと気を利かせてくれてるのだろう
これなら、そうそう会話をしなくても、時間がつぶせる
キューの持ち方に少し慣れて来た頃、アイツが3階から下りて来た
。。。ってことは、別のシャワールームが3階にあるってことだよな。。。
いったいいくつ風呂場があるんだこの家は?
「あれ?海堂君、お父さんに捕まってるの?」
「奏音ちゃん、それはちがうよ、
 お父さんはお客さんをもてなしていた所だよ、な、薫君?」
アイツは、ははは、と、笑い、海堂君、おなか空いてない?と、
キッチンでなにやらごそごそし始めた

「ホラ、薫君、もう一回やってみて」
「あ...ハイ」
「球の中心をまっすぐ打つようにね...そう、上手
 やっぱり、運動の得意な子は、なにやっても飲み込みが早いね」
褒めてもらった。。。
「今、やってるのは、バンキングって言ってね、先攻か後攻を決める最初の一突きなんだよ?」
へぇ。。。そうなんだ。。。跳ね返って来たボールの距離が手前に近い方が勝ち、なのか。。。
「慣れて来たみたいだね、ゲームしてみようか?
 薫君はお客さんだから、先に打ってもいいよ」
そう言っておじさんは、三角の枠でボールの位置を整える
「この白い球を思いっきり打って、まず、この1番のボールにぶつけてごらん」
俺は教わった通り、まっすぐ構えて、思いっきり手前のボールを打ってみた
パン!という派手な音を立てて、固まっていたボールが弾ける
うわ、なんかカッコいい
俺はうれしくなって、思わず、おじさんの方へ顔を向ける
「カッコいいなぁ、薫君」
おじさんはうんうん、と、頷きながら、次はね、と教えてくれる

「おやつ用意できたよ〜、
 お父さんも、海堂君解放してあげてよ、おなか減ってるはずなんだから〜」
アイツがキッチンから声を掛けて来た
「先に食べようか?そうしないと、奏音ちゃんがいつまでもブーブー文句言うからね」
にっこり笑って、2本のキューをラックに立て掛け、
コーヒーテーブルに置いていた、俺の飲みかけのジュースのグラスを持って来てくれた

勧められるままにダイニングテーブルにつくと
抹茶のケーキに、カットしたフルーツが添えられた皿が出された
テーブルの真ん中には、俺が持って来たフルーツケーキが小さめに切られて置いてある
「薫君、ジュース?それともお茶にする?」
「さっきのジュースあるから...それでいいです」
改まってこう向き合って座ると、やっぱり緊張する
ケーキをつつきながら、さっきのビリヤードのコトを話題に持ち出され
おじさんが、手放しで褒めてくれるので、
俺はちょっとだけ恥ずかしくて、でもうれしくて、落ち着きが戻って来た

お皿にのったケーキとフルーツを食べ終わる頃
「ね、海堂君、はずえクンの塾って何時に終わるの?」
「え...と、4時半位だと思うけど...」
「じゃ、お母さん達がこっちに着くの6時くらいかな?」
「...そのはずだけど...」
じゃ、まだ時間あるね、とアイツは言う
「のこりのおやつ、下に持ってって食べていい?
 あとで発表会っぽい事するんでしょ?練習したいんだけどな」
下?なんだ?
「そうね、薫君も私達といるよりは、その方が気を使わないかしらね?」
おばさん、よくわかってる。。。
「薫君、また後でビリヤードしようね」
おじさん、ビリヤードってカッコいいっスね!
「海堂君も、ホラ、ケーキと飲み物もって!」
母さんのフルーツケーキの皿を突きつける
「あ...ああ、あの...」
「手伝いがいる時、呼んでね」
俺は急かされて、ペコリとおじさんとおばさんに頭を下げ、
ワケもわからずアイツの後を追いかけた

一階に下りると、アイツは、よいしょ、と、
なにやら、重たそうなドアを開き、ライトをつけた
俺は。。。たまげた
なんだ、ココは???
えらく物々しい部屋に、ドーン!とでっかいグランドピアノ
上のピアノの。。。1.5倍程の長さがあるだろうか?
「ジュースとおやつ、そこのテーブルに置いて、海堂君は適当にその辺にいたらいいよ
 あ、何か雑誌とかいる?」
「...って、ココって...」
「ん?レッスン室...ココなら一応防音だし、時間気にせずに練習できるから」
普通、こんな部屋がある家なんてねぇぞ?
「お母さん達と一緒にいるよりも、海堂君、ココの方が落ち着くでしょ?
 ピアノ弾くからうるさいけど...ゴメンね?」
そりゃ、そうだけど。。。って、そうじゃないだろ?
「どうしたの?」
唖然とする俺に、さも当然、という風に疑問をなげかける
どうもこうも、俺は『疑問』だらけだ、ききたいことが山ほどあるぞ?
「ちょっと暑いね、エアコンつけようか」
エアコンって。。。そうじゃなくて。。。
「海堂君、ヘン...」
ヘンなのはお前ん家だ!

それでも、ピアノを弾き始めると、そんな俺の焦りや、疑問は吹き飛んだ
ソファというよりも、クッション付きのスツールに座って、ピアノを弾く姿を眺める
それだけで、いくらでも時間が潰せそうだ

「なぁ...あの曲...弾いてくれないか?」

アイツはふにゃっと笑って、うん、と頷いた

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あきゅろす。
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