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親指筆頭
文明開化に驚愕



雪兎のところで世話になり始めて7日が経った。

雪兎は毎日仕事に向かい、夕方から夜に掛けて帰って来る。
いつも何か珍しい食べ物を持って。
そんな俺は、それが楽しみで仕方がない。
何故なら、見た事のない色とりどりのものがあるからだ。



「……でね、その人が言うには、時空の歪みっていうのが原因で、時間を越えられる事があるんだって」



雪兎の知り合いに、<Black hole>というものについて調べてる奴がいるという。
何でも、宇宙に存在する、光すら通さない空間だという。
そいつに聞いたという話をしていた。



「爆発とか、急激に圧力が掛かった状態とか、そんな事なかった?」
「いや、正直ここに来る前の事は覚えてねぇ」



その日の朝、いつも通り小十郎が定時の報告をしに来た。
鍛練して、執務について、見回りに出ようと甲冑に着替えたところまでは覚えてる。
で、気付いたらあの場所にいた。



「また聞いてみとくよ。それより、ちょっと政宗!」
「アン?」
「コレ持って♪」



何だかワクワクした表情の雪兎に渡されたソレ。
丸い形の黄色いもの。
強烈に甘い香りを発している。
何だと思って反論しようとした矢先に「ピカっ」と光が見えた。



「What?何だ??」
「エヘヘ〜♪」



まだ眩しさに目の奥がチカチカしている。
一体何だってんだァ?
目が光りに慣れた頃、雪兎を見れば何やら青くて四角いものを持っていた。
それに目を近付けて、ある場所を押すと……

ピカッ!!

また光った。
今度は俺も騙されねぇぜ。



「Hey、そりゃ何だ?」
「これはね、デジカメ」
「でじかめ?」
「今見た風景を忘れないように残しておくものよ、ほら!」



ほら、と見せられたところに俺がいた。
黄色い丸い物体を持ったまま、眩しそうにしている。



「カワイーー☆」
「ハァ?」
「すんごく可愛いよ!政宗ェ〜」



どうやら、雪兎の中で何かが起こったらしい。
まあ、俺にゃ関係ねぇがな。
それにしても甘い香りだ。
思わずあの紅蓮が浮かぶ。
とにかく甘いものが好きな奴だった。



「それ、マカロンって言うのよ」



幸村だったら喜んで食べるわよ!……と。
俺の事だけじゃなく、あいつの事まで知ってやがる。
それだけじゃなかった。
小十郎の趣味や、前田の風来坊、豊臣の事までよく知ってやがる。
これも、文明が発達した故なのだろうか。
電気、携帯電話、クーラー、テレビ、でじかめとやら……
毎日一つずつ覚える事、驚かされる事がある。
刺激的ではあった。
それに、何だか居心地がいい。
雪兎が帰って来るまでの間は、テレビを見て過ごすか、昼寝をするか、用意してくれた小説を読むかぐらいの事しかねぇから……
雪兎が戻る瞬間が、堪らなく待ち遠しい。
あいつがいないと、一人置いていかれたような感覚になる。
これじゃ、まるで刷り込みだ。
生まれて初めて見た動くものを親だと認識する雛のように、俺は刷り込みされているのかもしれない。

いつかは、さよならする日が来るってのにな。



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