[携帯モード] [URL送信]

狂った歯車は止まれない。
*4
「……!?」
少なからず驚いた。
なぜなら、そこに、
我々が“軸”と呼ぶ、ゴン=フリークス、

その人が立っていたのだから。

おかしい。なぜだ。
シナリオが違う。何万回も繰り返していたはずの物語が今、小さな音を立てて崩れ始めている。
確かに、彼は好奇心旺盛でどんなことにも物怖じせずに首を突っ込む癖あるが、マドカは興味を引く顔立ちをしている訳ではないし、服装も普通のはずだ。
特出したことは何もなく、目に映ったとしても、脳が【気にする】という単語を引っ張り出すことすら、困難のはずだ。
それなのに……。

しかも目の前に立って、用があるのは確実のはずなのに、当の本人は自分でも分からない
と言う風に困惑気味だった。

「……あ、えっと、……何か用かな?」
「え?あ、いや……」
「……?」

意味が分からない。何も用がないのなら何
故?目標もこちらを見て、眉を寄せ怪訝な顔をしている。
そう、彼女の顔が示しているように、これは
異常事態なのだ。何万回も繰り返してきたシナリオに突然エラーが出たのなら、困惑するのも当然と言える。
「……あっ、オレ、ゴンよろしくね」
「よ、よろしく……?」
眉根を寄せたマドカに気づいてかゴンは引きつった笑顔でそういった。
驚いて、つい語尾に疑問符を浮かべてしまったが、ゴンはじゃ、じゃぁ!といって去って
しまった。

一体、なんなのだ……?


どんな理由にせよ、異常事態にはかわりなかった。懐からすばやく携帯を取り出し、つい先ほど話していた上司にかける。額から冷
たいな汗が流れていた。
嫌な予感がする。勘に過ぎないのは分かっているつもりだったが、どうにも不安が拭いきれなかった。

今回の殲滅対象は今までと違うのではないか?
今まで通りになんて行かないのではないか?
我々が知りえない摩訶不思議な力を持っているのではないか?

今までとまったく違うタイプだったら?
我々の存在を知っていたとしたら?
我々が太刀打ちできない奴だったら?

「―――」

もしも、奴に対抗できなかったら?
多くの死者が出て、世界が殺されるのは必須だ。
「―――!」

奴は世界を殺す災厄、天災。
そんな奴が
敵意を、殺意を、憤怒を、憎しみを、
振り撒いたならば?



もし、もしもしもしもしもし、もしも

「座天使-トロウンズ-!!」
「っ!!はい!」
完全に自分の世界へと浸り、上司の言葉を完璧に無視してしまっていた。

「す、すみません。失念していました」
「私の言葉を無視するとはお前も偉くなったものだな。で、用は何だ。簡潔に言え」
「“軸”がぶれました」
「……と言うと?」
「今までも、些細な変化はありましたが、それはすべて私の行動に運命があわせたに過ぎません。しかし、今回の“軸”本体がぶれたのは初めてです。」
「……」
「原因は分かりません。目標の業なのかはた
またその他なのか。」
「……」
「こんな異常事態は中々ありません。否、初めてかもしれません。……指示を仰ぎたいの
ですが」
「……目標に異変は」
「今のところは」
「ならば作戦は続行だ。目標が試験内にてアクションを起こさないと決まっているわけではない。それに備えるのは当然と言えよう。……任せられるか、死神-ジョーカー-」
「イェス、王様-キング-
と言いますか、我々の機関は天使を模しているのを忘れていませんか?


……って切れてるし」

すでに受話器からは馴染み深いツーツーという、機械音が流れており、すでにいない上司に向けて悪態を吐く。

仕事をこなす、ただそれだけの、今までと同じシナリオをなぞるだけ。たったそれだけな
のに、染み付いた不安は消えない。

「確実に殺す。この身にかえてでも。






殺してやる」






***********


なんでだろう。
分からなかった。

自分の行動が、全く理解出来なかった。

ーーーーーあの時、あの子を見た時。


トンパさんからジュースを貰ってすぐ、口内に感じた違和感に盛大に吐き出した。
「うぇええぇえ」

舌先に感じた、微量な苦味。
沼の近くで試しぐいした毒草に少し味が似て
いたせいだろうか、体が異常に拒絶したのだ。

「トンパさん、これ古くなってるよ?味がヘ
ン!」
味の原因は、古くなっているせいだと目算付けてそう告げれば、隣から噴水と見まごう勢いでレオリオが吹き出した。
「あっぶねー!!」
そんな彼にクラピカと二人で苦笑をもらして
いると、トンパさんが手をすり合わせて謝っ
てきた。
「すまん!古いのが入ってるなんて知らなかったんだ!」
「いいよいいよ」

しつこい程、謝ってきた彼をなだめれば、
それじゃ、と片手を振って去って行った。




そして、運命は余りに突然やって来る。




周りを見渡せば、皆が皆お互いの顔を伺い合い、殺気染みた空気を漂わせている。
自分以外は敵だ!と主張するような雰囲気に
息が詰まりそうだ。

ふーっと何度か深呼吸をし、
ふと横を向けば、そこに“その子”がいた。

頭の高い所で一つに結ばれた濃紺の髪、いわゆる馬の尻尾-ポニーテール-だ。
そして、遠目からでも分かる白く綺麗な肌。
大きく丸い瞳。
きゅっと適度に引き結ばれた唇。
歳は同じか一つ二つ上くらいだろう。
はたから見ても可愛らしい顔立ちをしているが、けっして、目を引くような特徴もないはずなのに。
初めてみた子なのに。

二つの目は不自然な程その少女に引き寄せられる。

脳髄を直接殴られたかのような衝撃。
煩い心臓の音が鼓膜を内側から刺激する。
見開いた目は、もはやその子しか写らない。
呼吸をする事すら忘れ、
ただその子に見入っていた。

あの子を知ってる?
思い出せそうなのに
それが情報として、それが映像として、

頭に浮かんで来ないのだ。
不思議な、歯がゆ過ぎる感覚。

答が出る前に足は主を置いて、勝手に進んでいた。そして、その子の目の前まで来てしまう。

「……っ」

その子は、こちらを見たかと思うと、目を見開いていて驚いた。
それもそうだ。俺自身、自分の行動に驚いているのだから。

「……えっと、何か用?」

躊躇いがちにそう言われた。
そうだ、さすがに何も言わないのは変だ。
だが、彼女を見た時に感じたモヤモヤした気持ちは、彼女を目の前にしてより深まっている。
なのに、何かを言いたいのに、言えない。
喉に何かが詰まったかのように息苦しい。
しかし、どんどん眉を寄せて、怪訝な顔をしている少女を放って置く事はできない。

「……俺、ゴンよろしく……」

発した声は、自分でも驚くほど弱々しかった。幸い、少女はそれに疑問符を浮かべながらも応えてくれた。

「じゃっ、じゃあ!」

そう言って立ち去る。
あと一秒でも、あそこにいたら窒息死してしまいそうだった。
すぐに彼女から離れたかった。
だが、そう思っているはずなのに、思考の中には彼女が居座り、心に何とも言えないモヤモヤを植え付けていくのだ。





何故か、胸がチクリと痛かった。

[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!