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狂った歯車は止まれない。
*2
「……」
渡された“1”のプレートを見て思った。
これは、やっちゃったかなーと。

マドカは、いつどんな時でも“普通”でなければならないのだ。
否、普通というより、目立ってはいけないのだ。すれ違っても記憶に残らない程に。
覚えていても、記憶が風化して思い出せなくなるほどに。

ここでは、戦力分析の意味で早過ぎても遅すぎても、非常に目立つ。なので、“1”というのは早過ぎたかもしれない。


トンパは、16番だから待っていれば、すぐに来るだろう。それを適当に受け流したら、44番のヒソカが来るまで【絶】をしておこう。
自分の【絶】に自信がない訳ではないが、勘の鋭い彼なら分かりかねない。
念能力者だなんてバレたら、確実に目を付けられる。
「【絶】」
いつも通り、【絶】をすれば、空気がより自分に馴染み、包み込まれる感覚がする。
そして、周りを見れば、すでに何人かの受験生の姿があった。


マドカの今回の殲滅対象である少女、
確か名前は“ユラ”、今まで通り“最強”の少女。

確実に“殺さなければならない”少女。

“D.E.M-デウス.エクス.マキナ-”が
調べた情報なのだから間違いはないだろう。

D.E.Mとは、“特別災害指定生物”を武力をもって殲滅する機関だ。
“特別災害指定生物”とは、
“おそらく”“異世界”から、来る者達の総称である。発生原因や存在理由ともに不明。
この世界に現れる際、または現れてから、
異常な自然災害を引き起こす。

数えられているだけでも、死者数三億はくだらない。もちろん、自然災害程度では、そこまでの死者は出ない、精々一千万程度だ。
なぜ、こんなにも莫大な被害が出ているのか。
答えは単純明快。


“殺しているのだ”  “その手で”


彼女達の特徴と言えば、
“ただひたすら、強い事”そして、

これは、ほとんど妄想に近いが、
“未来が分かっているようなのだ”


数年前に殺した少女が、死ぬ間際に言った言
葉を、昨日の事のように思い出せる。

『嘘ッ!こんなんじゃなかった!!』
その時は妄言だと無視したが、今考えて見れば、中々に興味深い言葉である。
こんなんじゃなかった、と言っていた辺り、未来が分かっていた事が伺えるのだ。

なぜ、分かるのか?
もしかしたら、そういう念能力なのかもしれないが、彼女達全員知っているとしたら、その線は薄い。
だが、他に何が……

すると見慣れた青い背中が視界の隅に映った。
見間違えようもない、トンパだ。
考え事をしている内にいつのまにかかなりの受験生が周りにいた。マドカは【絶】をしているため、その存在は認知されていない。
今いるのは目視だと約20人程だろうか。
ヒソカは、まだ当分来ないが、早いに越した
事はない。

ゆっくりと【絶】を解く。
こうする事で、いきなり現れた、というより、いたのか程度になるのだ。

すると、トンパと目が合った。
トンパは、マドカの顔を値踏みするようにまじまじと見ると、人の良い笑みを貼り付けながらこちらへ向かってきた。

「お前、新人だろ。俺はトンパってんだ。今年でハンター試験を受けるのは35回目だ、まぁつまりベテランってとこだな。
わかんねぇ事があったら俺に聞いてくれ」
「分かりました」
「そうだ、これやるよ。なぁにほんの気持ちだ。」
差し出されたのは缶ジュースだ。
もちろん、下剤入りジュースなのは知っている。何万回も繰り返し見てきたのだから。
だが、初めて缶ジュースを渡された時は、下剤入りなのを知らず、それはもう酷い目にあった。
「ありがとうございます!実は喉渇いてたんですよ」
笑みを浮かべ技とらしく舌を出し言うと、一瞬、トンパの温厚そうな笑顔がニヤリと嫌な笑みになったのを見逃すはずがなかった。

プルタブを押し開け、中身を口に含む。
そして、

「ッ!ぶふーッ!!」
「おわ!?」
盛大に吹き出した。
衝撃で缶が手から滑り落ち、床にジュースの水たまりを作ってしまった。

「す、すみません。器官に入っちゃって、咽せました、ケホゲホッ!」
「い、いや。大丈夫か?」
「……はい。すみません。」

その後、んじゃがんばれよ、と言われ、笑みを返しておいた、遠くで舌打ちが聞こえたが聞こえなかった事にしておく。


新しい獲物を見つけたトンパを尻目に
我ながら中々の演技だったと、自分で自分を賞賛していた。
まぁ、何万回も同じ事をしていたら、身につかないものも、身につくだろうが。

「ん……」
機械的な音で思考を中断された。携帯の音だ。
他の受験生から白い目で見られ、マナーモードにし忘れたなーと、ぼんやり思った。

「はい。」
「遅い。4秒以内にでろ」
「……すみません。」

出て早々説教かよ。と、舌打ちしてやりたい気分に駆られたが、自重する。
仮にもこいつは上司だ。

「今の、状況を簡潔に述べろ」
「トンパは過ぎました。44番ヒソカは……、います。“軸”の姿は見えません。故、目標もいないかと。」
「ダウト」
「……は?」
「目標は、すでにいる筈だ。目標は必ずしも“軸”の側にいるとは限らん。状況分析を怠るなと言っているだろう。」
その言葉で、失態、という言葉が頭を過るが、すぐに振り払って辺りを伺う。
あくまで、視線だけ動かし、自然を装って。
【円】を使ってしまえば早いのだが、
近くにあのヒソカがいるのだ。迂闊な事はできない。



「……いた。」
栗色の髪、明るい色のマント。
惜しげもなく垂れ流している、殺気とも取れる強いオーラ。余裕に歪んだ笑み。
何万回も受けたハンター試験で初めての顔。
どう考えても、彼女しかいなかった。

「目標確認。……指示を。」

聞くまでもないその言葉を待つ。

聞きたくないその言葉を待つ。

私にはどうしようも無いその言葉を。








「……殺せ。


    跡形も無くなる程に。」






「了解」





心は、酷く冷めきっていた。






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