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僕が積極的に仕掛けても浅井さんは指一本触れようとしない。行きと違って帰りは隣同士に座った僕らはまるで若いカップルのように休日はどこに行きたいだの理想の家庭像などを話し合った。

浅井さんはゲイだけど理想の女性像がしっかりあって何だか覚えきれないぐらいいっぱい求めるものがあった。僕はと言うと自分よりしっかりしていればいいぐらいなので大して盛り上がらず。

だけど浅井さんはお前よりしっかりしていない人なんかいないと言って僕を笑わせてくれた。



「明日は日曜だな、お前はどこか行きたいところとかないのか?」

「え、あ…特にありません、」

「そうか、じゃあ明日は買い物に行くか。いろいろ買わないといけないものもあるからな。」



目をキラキラ輝かせて僕との奇妙な生活を受け入れてくれている優しい浅井さん。こんな優しい浅井さんは職場では見た事がない。

いろいろ買わないとと言う発言はよく分からないけど、まるで本物のカップルだ。



「桜庭、」

「はい、」

「唐突だがお前…好きなやつとかいないのか?」

「え?」

「あっ、…その、だから…別に変な意味で聞いているわけではないからな、」



普段は生真面目でそんな浮ついた会話もしない浅井さんがいきなり恋愛話を僕に振ってくる。上司であるという圧力にここは本当の事を言わなければならない気もするが、風間さんと今ああなってしまってる以上ははっきりなんとも言えない。

でも、浅井さんとこんな話をするとは思ってもいなかったからなんかくすぐったい気もする。



「い、一応…居ますよ。」

「・・・。」

「え、あっ、あ、なんか、なんかすいません。」



正直に答えたら答えたで無言な浅井さんはじっと何を言おうか考えている様子であった。

ちゃんと答えたこっちがバカみたいだ、黙っちゃうなんて。反応が無ければないほどどんどん恥ずかしくなってくる。



「浅井さん・・・、」

「あ、?」

「そ、そういう浅井さんはどうなんですか?」

「お、俺か?いや、俺はいいだろう。別に、」



逆に僕が話を振るとスルーする浅井さんは何だか不機嫌そうだった。自分が蒔いた種のくせに、そのぐらいで機嫌を悪くされても困る。

ゲイだから同性相手なんて言えないのか、まぁ、僕も風間さん限定でオトコだからあまり人の事は言えないのだけど。



「誰だか知らないがな、」

「はい、」

「お前は見る目がなさそうだからな。今の奴はやめておいた方がいい。お前は…もっと、なんだ、その…お前の事を考えてくれる…優しい人の方が合うと思うぞ。」



黙っていた浅井さんが突然真剣な眼差しで僕の心中に語りかけ、僕の今までの思いが一瞬消えかけた。

浅井さんは風間さんと僕のことを知っているわけがない。でも、僕のことをまるで全てわかっているかのように、その言葉はずっと僕の胸に残ってしまう気がした。





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あきゅろす。
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